6.ウサギの値段
川沿いに南に歩いて行く。
森へは川沿いに南に向かえば、森の近所までは出られるだろう。
そういえば、草原にもヘビやオオカミが出るって言ってたな。
どうやって探そう?魔法でいけるかな?
魔法ので周りを探ってみる。
魔法の触手を広げる感じで周りに自分を中心に半円状に広げて行く。
「お!動く気配がわかるぞ。」
広げた魔法の範囲で、何かが動いている気配がわかる。
でも、虫とか小さな生き物っぽい。
大きさとか、動き方でなんとなくどんな虫かもわかるので、かなり高性能なレーダーかも。
獲物を探しながら、川沿いに南に向かって歩いて行くと、森の目の前までこられた。
川と森は接してたようだ。
森と接している所には、竹か笹のような植物もはえていた。
タケノコとかも取れるのかも。
そのまま、森に向かって行くと木々がまさに鬱蒼と生えている。
獣道らしき所を見つけて、森の中に踏み入る。
森の中は雑草も多く、さっき作った石のナイフで枝を払いながら進んで行く。
森の中にはシダっぽい植物が多く、某ト〇ロが傘の代わりにしていた植物や、アマゾンとかのジャングルに生えてそうなイメージの植物が多い。
ここは、結構南国なのかもしれないな。
獣道とは言え、岩が有ったりかなりでこぼこで、俺の身長が低いと言うのもあって、登るのに手こずるような場所なんかも数か所ありなかなか進まない。
雑草も多くほんとに誰も入っていない森だとわかる。
「お!こっちにいそうだ」
いた‥‥。ウサギだ。
30メートルくらい向こうだが、木のうろの前に、耳が黒いウサギが1匹佇んでる。
大きさは、俺の知っているウサギよりも1回りくらい大きいかも。
周りを警戒しているのか、周囲を見回して鼻をヒクヒクさせてる。
こっちにはまだ気が付いてなさそうだ。
では、練習通りに魔法の触手を伸ばして、ウサギ周りを中心に魔法の球を作る。
ウサギには何も見えていないはず。
そして、その球の中から酸素のみ球の外に排出する。
効果は思ったよりも速く現れた。
2~3秒後には、ウサギは倒れて動かなくなった。
10秒程見ていたが、もうピクリとも動いていない。
魔法を解除してみても、ウサギが復活する感じは無かったので、近付いてウサギの耳を掴んでGETした!
「よし!いけそうだ。」
さて‥‥死んでるのかな?気絶かもしれないので、これってとどめを刺さないとダメだよね。
肉を食うんだもんね。
ウサギの頭を地面に当てて、ナイフを喉元に突き刺す。
結構な量の血が一気に地面にしみこんでいく。
狩りした獲物は、血抜きをしないとダメなんだよね。
ウサギの足を持ちさかさまにして、血が出やすくする。
血が服に付かないように気を付けながら持ち上げる。
これの肉を食うのか、捌くのか‥‥。ちょっと自信ないなぁ~。
食うに困っているので、やらないといけないよな‥‥。
でも、内臓とか想像したら少し吐き気が‥‥。
大きさは、俺の知っているウサギよりも1回りか2回り大きい。
小型犬くらいの大きさがある。
足を持って逆さまに持ち上げると、足が伸びて耳まで入れると俺の身長近くある。
子供の体になっているので、感覚で長さが分からないけど、5歳児って身長1メートルくらいだろうからそれくらいの大きさか。
とりあえず、血抜きが終わったら捌いて肉にして、焼いて持って帰ればいいか。
そしたら、アリスと分けて食べる事ができるしな。
ん?そんな事しなくてもこいつを売って、そのお金でご飯食べた方がいい物食べられないかな?
別に、捌かなくてもそのまま持って帰って売ればいい。
そしたら、グロもなしで良さそうだし‥‥。
とは言っても、こんな世界だしいつかやらないとダメな気はするんだけどね。
でも、売るとなったら捌き方も知らないのに、切り刻んだりして価値が減ってしまう方が問題だ。
もしかしたら、毒があるなんて事も考えられるだろうし。
最低でも、1日分の食事代くらいにはなるだろう。
時間はまだお昼すぎくらいなので、門限までは時間あるけど、売るのにも時間はかかるだろうし今日の狩りはここまでにして町に戻ろう。
売るのは、東通りにあるギルドだな。
あそこに、狩の獲物を持ち込んでる人を何回も見た事がある。
ギルドに入るのには7歳って制限はあるけど、買い叩かれるかもしれないけど獲物の買い取りくらいはしてくれるだろう。
腐らせるのも勿体ないと言う事で‥‥。
いくらになるのかな?
ウサギ丸々1匹の値段って、日本だとどれくらいだろ?
重さは‥‥5kgくらいありそうだな。
これも、この体なので目安でしかなく、体長80cm犬の体重で考えたらそれくらいじゃないかな。
これから取れる肉として、頭や臓物、骨があるのでそれ以外の部分で、3分の1くらいは肉として取れるとして1~2kg程度かな。
安い豚肉とかだったら、日本では100gで200円強ってとこなので、同じくらいで考えると‥‥。
キロ2000円なので、2000~4000円くらいってとこかな。
買い叩かれて半値になったとしても、1000円以上にはなるだろう。
毎日パン1つ分も食べられてないくらいの生活なので、1食でパン1つと考えても、1日以上の食費には変わるんじゃないかな。
もっと手こずると思ってたけど、思いのほか簡単に取れた事だし、しばらくは狩り三昧な生活をしていけばお金もそれなりに稼げそうな気がする。
酸欠させる方法は安全だし良いかも!
ウサギを逆さまに持って血抜きしながらさっきの川までの道を戻って行く。
ふと気が付いたんだけど、これってもしかして危険な状況?
ウサギの血抜きしながら、歩いているって事はポタポタと、ウサギの血が地面に落ちている。と言う事は、そのウサギの血に引かれてウサギを食べるような獣がやってくる!?
ミスったかな?
でも、魔法で索敵してみても今の所は何も引っかからないので大丈夫っぽい。
念の為、川で軽くウサギの血を洗い流しておく。そこから、川沿いに街道に出て南門に向かって行く。
南門に着くと、出る時に手続きしてくれた門番がまだいる様だ。
同じ人なら話も早いだろう。さっきも注意してくれ程度には親切だったしな。
「すみません。朝9時ごろに出たハルトです。戻りましたので入れてください。」
「ああ。ちょっと待て。」
門番は詰所の小屋に入り木札を確認して、すぐに戻って来た。
「朝の子供か。なんかこざっぱりとしたな。ん!?お前それ持ってるのって、黒耳うさぎじゃないのか?」
あ‥‥驚かれるような獲物だったのかな?まずい?
「はい。水浴びしてたらたまたま居たので、なんとか捕まえる事ができました。」
「ちょっと見せて見ろ。」
そう言いながら、門番の人は俺の後ろに回り込み、ウサギを確かめる。
「なあ。これ売ってくれないか?‥‥大銅貨5枚でどうだ?」
大銅貨がどれだけの価値なのかさっぱり分からない。
ただ、ここでゆきずりの知らない人に言われた金額よりも、ギルドに持って行って買って貰った方が騙されて安く買われる可能性は少ないんじゃないかと予想だ。
個人よりも、企業の方が安心感ある。
それに、売ってくれって言ってからの間も気になるしな‥‥。
嘘とか見抜ける魔法ってない物だろうか。時間ができたら検証してみよう。
「ごめんなさい。ギルドに持って行って売ろうと思ってるんで‥‥。」
「そうか‥‥孤児院じゃないんだな‥‥。冒険者ギルドに持って行けるなら、銀貨1枚くらいにはなるか‥‥。
う~ん、じゃあ銀貨1枚でどうだ?冒険者ギルドでの相場と同じだから、持って行く手間が省けるだろ。」
やっぱり相場よりも、安く言われてたのか‥‥。
さらに嘘を重ねてる可能性もありそうだな。
本当は、ギルドでももっと高く買ってくれるのかも。
って、ギルドって冒険者ギルドだったのか。
「娘の誕生日がもうすぐなので、誕生日に食べさせてやりたいんだ。頼む‥‥売ってくれ。」
なるほど。
確かに、ギルドに俺が銀貨1枚で売ったとして、この人が手に入れようとしたらもっと高くなる。
ここで直接ギルドと同じ値段で購入できるのであれば、かなり安く手に入れる事ができるという事か。
ただ、相場嘘つかれたのであまり信用はできないと言うのもあるけど‥‥。
まあ、俺自身の勉強価格と言う事もあるし多少騙されても仕方ないか。
それに、本当かどうかは知らないが子供の為っていう事だしな。
後は付加価値を少し粘って交渉してみるか。
「う~ん。」
そういえばさっきの話だと、大銅貨5枚 = 銀貨1枚じゃなく、銀貨1枚は大銅貨5枚よりも大きい。
それならば多分、大銅貨10枚もしくは100枚で銀貨1枚っぽい。
銅貨って言うのがハルトの記憶にある。
町の通りの露店でなしの大きいやつが銅貨1枚で売ってた。これを基準に仮に銅貨1枚が100円程度の価値だと考えよう。
10枚換算で金額が上がると仮定すれば、
・銅貨 = 100円
・大銅貨 = 1,000円
・銀貨 = 10,000円
となる。
最初5,000円で交渉して、10,000円が相場となった。
100枚換算だとしたら、
・銅貨 = 100円
・大銅貨 = 10,000円
・銀貨 = 1,000,000円
‥‥これはないな‥‥娘の誕生日の料理に100万も払うってどこの高給取りか!ってなる。
すっごいインフレ起こしてるんじゃなければ‥‥って、ナシを目安に考えてるから、インフレしてても関係ないか。
10枚換算の可能性が高そうだな。
人間の指は5本なので、どんな世界でも5か10と思うんだけどね‥‥。
端数とか、銅貨の価値がもっと低いとかあるかもだし、複数の種類の通貨が使われてるとか、偽物のお金を掴まされるとかあるかもしれないけど、そこまで含めても勉強代かな。
ウサギはまた狩りに行けばいいだろうしな。
さっきの予想の約5~10倍の値段なので、まあ悪くなさそうだな。
子供の誕生日に食べる贅沢品っぽい事からもそれくらいの値段になってもいいのかもしれないしな。
「いいですよ。ただ大銅貨1枚分おまけするので、少し教えてほしい事があるんです。」
「おお、じゃあ大銅貨9枚でいいって事か?なんだ教えてほしい事って?」
大銅貨10枚で銀貨1枚は確定だな。
「このウサギ、解体するんですよね?その時に一緒にやり方教えてもらったりしていいですか?」
「ん?それくらいだったらいいぜ。嫁が解体するからそれを見るくらいなら大丈夫だ。」
「あと、少しだけこの街の話も聞ければと思ってるんですが、解体中に少しお話させてもらえればでいいですか?」
「ああ、それくらならいいぜ。俺が次の午後3時の鐘で当番終わりなんで、それが鳴ったら一緒に家に来い。」
「ありがとうございます。」
「お前馬鹿に丁寧に話すやつだな‥‥。まあいいや。門入った所の詰所の裏で待っててくれ。」