1.リーザとの出会い
「ねえ‥‥ちょっといいかな」
「はい?」
河原で寝転んで水の流れをぼ~と眺めてた俺は、唐突に声をかけられた事で、驚いて上半身だけを起こして返事をした。
「あのね‥‥お願いがあるんだけど。」
どこだ?周りを見回してみたが、誰もいなさそうなんだけど‥‥。
反響とかで、遠くの声が聞こえてるとかそういうやつか?
「どこです?」
とりあえず、返事してみる。
「ん‥‥そだよね‥‥直接頭の中に話しかけてるっていうのではどうでしょう?」
なんか随分ふざけた感じの返事が帰ってきた。
「意味が判んないんだけど?」
「意味か~‥‥。少し手伝ってもらえればと思っているんだけど。」
うん‥‥俺の声は聞こえてるって事か。
俺はきょろきょろと周りを見回してみるが、やはり人影なんて見当たらない。
ここは結構広めの河原で、俺の声が聞こえるような範囲に隠れるような場所はない。
俺の声が聞こえて反応するって事は、反響とかでたまたま遠くの話声が聞こえたとかそういうのじゃなさそうだな。
お化けとかそういう系の話か?
後は‥‥昔TVとかでやってた指向性のスピーカーとマイクでのいたずらとか?
つうか、なんでこんな誰もいなさそうな所でそんな事をするやつはいないか。
まあ、いいやこっちの声が聞こえてるなら、1人でしゃべっている訳でも無さそうだし。
「手伝う?」
「そ‥‥。少し体を貸してほしいの」
なにそれ!怖!ホラー的な流れ?
誰もいないし、幽霊とかそっち系?
急に怖くなった俺は、立ち上がって河原に降りて来た道に向かって歩き出した。
後ろから誰か来るかもと思って、何回か振り返りながら‥‥。
「怖がらせちゃった?そういうつもりはないんだけど‥‥。」
話声には、怖そうな感じはない‥‥でも、
「とりあえず、姿見せて‥‥じゃないとこのまま帰るよ。」
「そう言われても‥‥。姿はほんとに見せようがないんだよね。
じゃあとりあえず少し説明しますね。
僕は、リーザって言います。こことは少し違う世界から、
この世界でいう所の、魔法?っぽい物を使って話かけてます。」
え~っと。俺って何に巻き込まれてるんだろ?
お化けとかそういうホラーから、ファンタージに変わった?
「とりあえずリーザさん。やっぱり意味が判らないです。
異世界とか魔法とか、ファンタジーっぽいのは嫌いではないですが、姿が見えないのと目的が判らないのでこれで失礼しますね。」
とりあえず変なのに巻き込まれても面白くないし、せっかくいい気分で河原で寝そべってたのに、邪魔されて気分悪いし、これは、さっさと退散した方が良さそうだ。
俺は週末になると、バイクで1人ツーリングするのが趣味だ。
日が昇る前から出かけて、人の余り登らないような山にツーリングする。
最近のお気に入りは、自宅から日帰りできる程度の距離にある山脈の山を、順番に制覇して行っている。
道は余り良くなかったりするのだが、誰も来ないような小さなダムがあったり、しょぼい感じの展望台があったり、放棄された観光施設の廃墟があったりとなかなか楽しめる。
なにもない所でも、山頂からの景色は良いし、空気も美味しいのでそれはそれでありだ。
そんな訳でいつものように向かっていたのだが、山を登り始めてちょうど中間くらいの場所に看板があり、土砂崩れの為の迂回路が案内されていた。
「山頂までいけっかな?一応迂回路あるし行ってみるか。」
迂回路は路面もアスファルトではなく土が剥きだしで、所々に石があったりへこみがあったりと、バイクでは余り速度を出せない感じの道が続いていた。
路面に気を使いながら道を進んで行くと、道の左側に川が流れているのに気が付いた。
「川か。これはこれで景色良さそうだな。迂回路も悪くないかも。」
川の水も綺麗そうだし、少し止まって休憩でもするかと、降りられそうな所を探しながら、ゆっくりと走っていたら、右カーブしている所で川に降りられそうな道を見つけた。
そこにバイクを止めガードレールの切れ目のような所から川辺に降りて来た。
「これはなかなか、良い感じかも。」
降りた所は、一面丸石の河原になっており、ちょっとした運動場くらいの広さがある。
俺は、景色を楽しみながら川辺まで来て、バッグの中から買って来たコンビニのパンを取り出して早めの昼飯だ。
川幅はそれほどでもないが、川の奥は山になっており、木が生い茂っていて川に覆いかぶさる感じになっていて涼しげだ。
GW直前なんだけど、今日は天気も良くて結構気温は高めなんだけど、ここは山頂からの風が吹いていて心地いい。
食事も終わり、タバコを一服してごろんと寝転がる。
空も晴れ渡り、山の風と川の流れる音‥‥。
「今日は当たりの山だったな~。」
周りには、もちろん誰もいないが大きな独り言をつぶやいていた。
そんな時に、声をかけられたのだ。
「ちょっと。う~ん。どうしたらいいのかな‥‥。
そだ!じゃあ、魔法見せたら納得してくれるかな?」
胡散臭すぎるんだけど。
ただ、ちょっと怖いのは薄らいだと言うか、魔法見せるってなんだ?
何が見られるのか知らないけど、ちょっと面白そうな提案かも知れない。
俺が思い浮かべたのは、いたずら系の動画とかで、事前に仕掛けとかして魔法や超能力的な物を使っている風に見せるようなやつだ。
ただ、こんな誰も来ないような所でそんな仕掛けをする意味は分からないが‥‥。
地元の素人が、動画作る為にやっているって言う可能性もあるか。
どっちにしても、いま話しかけられてる仕掛けは分からないしな‥‥。
ちょっと付き合うのもありかもしれない。
不快な感じのネタにされるんじゃなければいいか。
面白くもなんともないのだったら、ほんとに切れてもいいかな‥‥。
「分かった、魔法見せてみて。」
「うん。と言うか魔法なんだけど、実際には見せるって感じじゃなくって、君が魔法を使えるようにするので、使ってみて信じてもらうって感じなんだけどいいかな?
それとその為に、君の体を少しだけ触らせてもらう事になるけど‥‥。」
「俺が使えるようになるってパターンですか‥‥。まあ、いいよ。」
「ありがとう。じゃあすぐに済むから少し体を楽にして。」
「あいよ」
俺は立ったままだが、言う通りに少し体の力を抜いて、何が起こるのかを警戒して待つ。
周りにカメラとか、仕掛けとか、人とかそういった物をさりげなく探してみる。
「う~ん。こうなっているのか‥‥。元々魔力はあるのに全部脳に回して、消費させてるのかな?
しかも、魔力溜まりもないのか‥‥。
これじゃあ常に魔力が枯渇して定期的に眠らないとダメっぽいね‥‥。
そのせいで魔力量も少ないのか‥‥。
じゃあ、とりあえず、魔力溜まりを作っちゃって、脳に行っている経路を切る‥‥とまずそうだから、脳に行くのと、魔力溜まりに行くのとで分岐させて‥‥。
これじゃあ、いままでよりも脳に行く魔力が減っちゃうから、少し魔力自体を補わないとダメだね‥‥。
ここの環境はいいから、一発ものだけど周りから魔力吸う感じに仕掛けて置いたらいいかな‥‥。
よし!じゃあ、分岐しちゃうよ」
いろいろぶつぶつ独り言的な事を言っているが、別段俺になにか起こっているわけでも、周りの仕掛け的な何かが動いているわけでもないっぽい。
「あいよ」
でも、その瞬間、周りの木々が一気に枯れだした。
ここは結構広い河原なので、木々が手の届くところにあるわけじゃないが、2~30メートル向こうの木々が一斉に枯れだした。
それはさらに広がりどんどん広がっていって、一気にこの河原の周りにある木々が朽ちて行く。
それはさらに広がり、見渡す限りの木々が朽ちて行く。
それと共に葉が落ちる音なんだろうか、さざ波のような音が最初は小さく、枯れて行く木々の速度に伴ってか、大きく山に反響して聞こえてくる。
この山の山頂の方までどんどん緑色が無くなり、茶色になって行く。
それどころか、朽ちた木々の隙間から見えるようになった、隣の山にまで広がっているようだ。
「おお!おお!これはすごい!」
規模デカすぎ!なにこれ除草剤とかをヘリコプターとかで撒いた感じ!?
それって、森林破壊だよね‥‥。TVの本格的な番組とかでも、予算使いすぎだろ!
まだ広がっているよ!ほんとに見渡す限りじゃないか!
TVとか立ったら、やりすぎて、スタッフさんとか焦ってたりしない?
というか、ちょっと規模大きすぎて‥‥え?もしかして本物?
「ちょ‥‥。なにこれ。なんでこんなに魔力吸ってるの!?
この世界の人間ってこんなに魔力持てるの!?‥‥これはまずいかもしれないな。」
「これはすごいね。確かに魔法っぽいよ。すごい物見れた。」
「そ‥‥そう?信じてくれた?」
見渡す限り、木々は朽ちて葉を落としている。
さっきまで見ていた河原の景色は一変し、真冬のような景色になってしまっている。
落ちた葉も、緑ではなく茶色になっているので、本当に冬の景色のようだ。
いや‥‥待てよ。これはこれで確かにすごいが‥‥。
プロジェクションマッピングと言う手はないだろうか?
それなら、もしかしたらこれくらいの事はできるのかもしれない。
でもなぁ‥‥。あの木は確かに枯れたっぽいんだよな。
角度変えてみても違和感ないし、落ちた葉が川を流れてるし。
真昼間で、天気もいいし、明るい所が薄くなってたりもしない‥‥ように見える。
俺の知らないような、最新の技術とかなのか?
どっちにしても、大がかり過ぎて、素人が動画作るとかって方向は消えたな。
TVにしても、こんなマイナーな場所に仕掛けないだろうし‥‥。
誰かに間違われて、何かに巻き込まれたのか?
TVで誰か有名人にレポートさせて、そこで仕掛ける為に用意してたのに、俺が来ちゃって間違われたとか?
‥‥そうだったとしても、これはちょっと面白そうかも。
間違われたのだとしても、俺は立ち入り禁止の所に入った訳でもないし、俺が悪い訳じゃないはず。
なら、のっかておこう。