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『その宝石はまるで、そこに本当に存在しているのか危ぶまれるほど光り輝いており、それはあまりにも現実離れした物体だった』



過去に、外からの光を永遠に逃さない宝石を見た者はそんな言葉を残したらしい。

本当に存在しているかも分からないその石に魔力を込めることができたら。その石を持つ者には特別な力が宿り長寿になると言われているそうだ。




私は、昔誰かがそんな事を言っていた気がするなと思いながら伯爵達の待つ部屋の扉をノックした。


「エマ、待っていたよ」

「お待たせいたしました、伯爵」


開いた扉の先には先ほど置かれていなかった机が置かれ、そしてその机の上には、今まで見たことが無いほどに輝く石が置かれていた。それはこの間アタマハさんが持っていた宝石とは違う、自然な発光……いや、言葉では表せない程に美しい輝きを放ちながらそこに存在している。


「……こ、これは……」

「エマ、これが先ほどの演劇で使われていた宝石だそうだ」

「これは、い、一体だ………誰が」

「エマ?」

「はっ!あ、す、すみません。取り乱して……これは一体誰の持ち物なのでしょう」

「それは、昔私の主人であったステファニー様の持ち物でございます」

「ステファニー様……」

「ステファニー・エルレジェンダ様、エルレジェンダ侯爵の奥様だよ」


私はその名前を頭で反芻しながら輝く石に目を向けた。

それは自らの意思で輝きたいと願い、光を放っているように見える。今もなお光を内部に入れることで内部の光の数は増え続けているのが見ただけで分かるようだ。


「私が前に見た、ファミリアが作成したとされる宝石の方がまだ宝石らしかったように思います。こんなの……最早生物のようです」

「そうだね、これは私から見てもすごい石だという事が分かる」


私は自分の中で今まで見てきた宝石を思い返したが、こんな輝き方をしている宝石は見たことがなかった。

しかし、団長さんは頭を振り申し訳なさそうに言葉を漏らした。


「実は、違うのですよ。これはファミリアが作成した物ではない」

「そうなのですか!」


団長さんはもう一つ、一般的に宝石と言われる石を取り出して光り輝いている石の隣に置いた。

今取り出された石も隣から降り注ぐ光によってキラキラと輝き始める。


「一般的に出回っている宝石は内部に光を閉じ込めておくのではなく外部からの光を跳ね返すことで輝いております。ただ、ファミリア系と呼ばれる石は違う」

「ファミリア系……」

「それらは外部からの光を吸収し、僅かにその光を外に漏らすことで光り輝くのです」


団長さんは二つの石をそれぞれの手に持ち、手を握った。

ただの宝石は手におさまったように見えたが、ファミリア系と呼ばれている石は握られてもなお光りが漏れて輝いているのが分かった。

団長さんが言うには、ファミリア系は全て、外部からの光を吸収し僅かな時間光を保つことが出来る石のことで、閉じ込める範囲の割合が少ない物は外部の光の反射で輝く部分も多量に存在するらしい。そして、吸収する割合が上がるにつれて暗闇で光る時間は長くなるが発光する力自体は弱くなるとのことだった。


「これは、7割の吸収率を持つ石なのでございます」

「しかし私は昔、光を逃さない石の輝きは素晴らしい物だと聞いたことがあります」

「はて、それは……」


団長さんが私の言葉に首を傾げ何かを口に出そうとした時、伯爵が椅子から立ち上がって私の隣に並んだ。


「つまり、これはファミリアが作成した物ではないというのは間違いないんだね」

「ええ、ファミリアが作成した作品は数ヶ月前に盗まれてしまいましたから」

「盗まれた?もしかしてフォーリカウスに?」

「そうでございます」


その名前を聞いて私は伯爵の方を向いた。

私の中ではフォーリカウスは割と悪名高い貴族に盗みに入る印象だったために、もしかしてエルレジェンダ家も悪い事でもしているのかどうか気になったからだ。

しかし、この団長さんの対応を見ていると悪名高い人たちに仕えていた印象は持たなかった。だからこそこの団長さんと知り合いだという伯爵の顔色を窺ったのだ。


「……フォーリカウスの手紙には何と書かれていたんだい?」

「『元の持ち主がどうしても取り戻したいと願っている。あなた方が正式に買った事は承知しているがその前に問題が起こっていたことが分かり、盗ませてもらう事になった。だからこそ、替わりに用意した物を使っていただきたい。今回の件本当に申し訳ない』という内容だったようです」


どう考えてもフォーリカウスから謝罪の気持ちがにじみ出ている。というか何処ぞの偉い貴族よりも丁寧な文章に好感も持てるほどだ。

しかし、問題とはどんなことだったのだろうか。


「実は今回、ファミリアの宝石は闇市をやっていると噂されている貴族から購入致しました」

「……トゥーリカのところか」

「ええ、よくご存知で」

「とぅーりか?聞いたことがありません」

「ハウズハンド男爵、ここ数年で当主が入れ替わったんだ。それはどうやら元ハウズハンド男爵が今の当主トゥーリカに多額の借金をしたせいで奪われたらしいと聞いた事がある」


爵位を奪われるほどの借金というのは一体どれ位なのかが気になるところだが、要は、フォーリカウス的には本来トゥーリカから宝石を奪おうと思っていたという事なのだろう。

しかし、その前にステファニー様が購入した。


「ステファニー様は今回の演劇の為にファミリアの宝石を購入致しました。ですが光が思っていたより観客には見えず困っていたのです。そんな時にフォーリカウスによって残されたのがこの宝石でございまして、こちらとしても大変ありがたいと思っております」

「ん?では困っているわけではないということかな」

「ええ、寧ろ助けていただいた盗賊団フォーリカウスには感謝の気持ちでございます。今度はその演劇も予定しておりますのでお二人にも是非いらしてほしいものです」



団長さんの顔からは心から感謝をしているのがよく分かった。

より演劇に見合う石を用意し置いていったフォーリカウスは、ただ自らの為に盗んでいる怪盗とは違う存在であることは間違いない。

私はなんとなく、盗みで人を幸せにするフォーリカウスに心の中でありがとうという感謝を述べておくことにしたのだった。



お読みいただきありがとうございます!

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