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ここの世界宝石の基準は現代世界の基準とは異なります。

「いやー!お待ちしておりましたぞトルネン伯爵殿!」


脂ぎったおでこをテカらせながら、その男性は両手を広げてきた。伯爵はその中に躊躇なく入っていく。

固い抱擁を交わすその2人を見つめながら、ああ……あの伯爵の高そうなスーツに今脂が付着してしまったのかと少し可哀想に感じていた…その時、頭に浮かんだこの後起こる可能性に私はゾッとする。

まさか、私も…とかならないよね。この服、私の持ち物の中では割と良い方なんだけど。流石にあの脂は……。

ヒヤヒヤしながら見守る中2人の抱擁が終わったらしく男性がこちらを窺ってきた。


「おや?そちらのお嬢さんは?」

「ああ、彼女がこの間話していた鑑定士ですよ」

「おお!そうでしたか!ようこそ我が城へ!」


そう言って男性は両手を広げた。




この男性の名前はアタマハ・テカロールという名前で、最近成り上がってきた商人らしい。と言っても、そこら辺の貧乏な爵位持ちよりかは随分贅沢な暮らしをしているのだろう。この屋敷や身につけている物などから良く分かった。

そして今悩んでいるのは成り上がりが好きそうな装飾ばかりで目がチカチカすることだった。飾ってある花も赤の薔薇ばかりだし、無駄にゴテゴテした金の額縁に何が描いてあるか分からない絵画が嵌められた物が永遠に飾られている。


(この廊下、一生終わらない気がするわ)


絵の紹介をしつつ歩くアタマハさんのすぐ後ろを伯爵は笑顔を絶やさずにニコニコと歩いていた。

既にその話には飽きて疲れてきていた私は『流石伯爵様、私は全然興味なくて早く帰りたいです』そんな気持ちを込めて彼を見る、すると何故か伯爵と目が合った。


「…………」


伯爵は私を見つめるとニコッと笑みを深め、さりげなく私の手を握ってくる。

こんな場所で何考えてんだこの人は、と思って伯爵の手から手を引っこ抜くと中に何かが残ってる事に気がついた。


(あ、チョコレート……)


慌てて伯爵の方を向くと彼はすでに前を向いてまたアタマハさんの話に相槌を打っていた。

恐らく私が暇だと思っている事に気がついてチョコレートを渡してくれたのだろう。気遣いまで素晴らしいとはなんという事だ、完璧な人間なのか。彼の何か欠点でも見つけることができればまだ親身になれるというのに。


「エマ!早くおいで、宝石はこちらだそうだ」

「あ、申し訳ありません、すぐに参ります」


気がつくと離れた場所に伯爵達が居た。

チョコレートの銀紙をポケットの中につっこみ、私は小走りに彼らの元へ向かった。





「これが、かの有名な研磨師『魔女の使い魔(ファミリア)』が研磨したと言われるルビー『最高の赤(デンベストレッド)』だ」

「なるほど、これが本日の依頼品なのですね」

「ああそうだ!これが本当にファミリアが研磨した物なのか鑑定してもらう、それが本日の目的だ!」


アタマハさんと伯爵がなにやら話しているようだったが、私の耳にはその会話の内容は入って来なかった。何故なら、目の前にあるその宝石の輝きが素晴らしすぎて目が離せなくなっていたからだ。


「研磨師ファミリア。彼の宝石の特徴は、一度取り入れた外からの光を殆ど逃すことがない所にあります。存在しているだけでうっすらと光り輝くその宝石は魔法がかかっているのではないかと噂になり、彼はファミリアと名乗るようになったともされているのです。光を全く逃さない宝石こそ研磨師がたどり着く最終地点とも言われている為、それに近い状態の宝石を常に作ることができる彼の力は研磨師の最高位に位置していると言われていました」


宝石から目を離さず突然解説を始めた私を伯爵とアタマハさんが驚いたように見てきた。


「彼の手にかかればその宝石の価値は何百倍にも膨れ取引をされていたと聞いております。私も現物は展示会などでしか拝見したことはありませんでしたが……こんな綺麗に発光している石をまさかこんな近くで見ることができるとは」


その言葉にアタマハさんは一瞬固まり、そして私の言葉を理解したようでドスンドスンという音を立てて近づいてきた。


「おお!つまり、これは本物ということなのかね!!」

「いいえ、まだ確定ではありません。手にとって拝見させて頂きたいとは思いますが良いでしょうか。しかし、まずこの光り方は普通の宝石とは全く異なりますので本物か魔力の込められた魔法石の可能性が高いかと」

「なんと!!!」

「アタマハ殿、エマにこれを渡しても?」

「勿論だとも!!是非ともしっかりと確認してくれ!」


この世界には魔法を使える人間が存在している。

ただ、その人数は極めて稀であり、ほんの少しでも魔力を使うことが出来れば国によって厳重に守られ、一生豊かに暮らしていける保証をされるほど。


先ほど私が言った魔法石というのはその魔法が使える人間によって作成された石のことであり、その中で稀に僅かに発光する石が作成される。

もしその魔法石だったとしてもとても価値がある為、アタマハさんはとても喜んだという訳だ。

なんとも分かりやすい反応ありがとうございます。


私は自分の手荷物から特殊なルーペと台、手袋を取り出した。これらで宝石の鑑定をしていく。


「えっと……そんなに見られるとドキドキしてしまうので少し離れていただけませんか」

「しかし……」

「アタマハ殿、まさかエマが宝石を盗むとお思いですか?」

「い、いや!そんなことは!」

「こんな特殊な宝石を盗むなど、最近流行りのフォーリカウス位しかおりませんよ」


私はただ、私の手元を食い入るように見つめる2人が邪魔なのでやめて欲しかっただけなのだがアタマハさんと伯爵は違う話を始めたようだ。


フォーリカウス。最近出てきた宝石泥棒である。

この泥棒普通の泥棒とは一味違っていた。事前に予告状が出るのだ。

いつ盗むまでは書かないものの、『貴方の家のこの宝石を盗む予定だ、警備を万全にしないと早々に盗んでしまうよ』という内容が割と可愛い付箋に書かれてポストに入るらしい。

何人でやっているのか、性別はなんなのか、全く素性が知られていない泥棒であり盗む相手は割と悪名高い貴族などが多い為、泥棒なのに市民の中では人気があるらしいと話題になっていた。


「あの、2人の顔が近すぎて宝石が見れないだけなんで……邪魔しないでください」


でも、今はその話はどうでもいい。

私が素直に伝えると、2人は静かに一歩下がった。

お読みいただきありがとうございます!

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