29カラン・スタートッド
カラン・スタートッドは未来の可能性を見る事ができる。
ただ、その内容に、『世界の秩序を乱す』ものであったり、『世界を破滅に導く』であったりするものは『NG』と表示されており、防がなければならなかった。
カランが未来を見る事が出来ることは、カランがこの世界の魔法使いとして生まれ、未来を守るために与えられた運命によるものだ。
昔からカランには使命が与えられていた。
それは、『自らの国を豊かにする事』
その手助けをしてもらうために魔女を作ってもらった。
つまる所、カランと魔女達はただの作り物であった訳だ。
初めの頃は何も考える事なく、自らに使命を与えた者の言うことを聞くだけの日々を続け、感情が芽生えたある時が一番思った。
『私たちの自由はいつ訪れるのか』
私達はいつでも自由であったが、選択できる自由ではなかった。
何にも縛られず誰にも邪魔をされず生活はできたが、誰かに縛られ、拘束される自由は許されなかった。
それは、寿命がある人間との区別化。
差別などでは到底ない、完全なる区別だった。
カランは人間と関わるためにあらゆる手段を使い、『国王の右手となり国を豊かにする』という約束を『世界』と取り付ける。
これには『世界』も却下する理由が用意出来なかったのだろう。
ようやく人間と関わることが許された魔法使い達はより多くの感情を手に入れる事ができた。
その時に、カランはカラン・スタートッドになったのだ。
『前の世』というのは、カランが作った制度である。
これは、カランが生み出した中で最も国を動かした内容だと言えるだろう。
意図的に前の世の記憶を埋め込むことで、勝手に運命を感じた男女が結婚をするシステムであり、文官の家系の人物が過去の経験を活かして騎士になるシステムであり、昔恩恵を与えてくれた国に恩返しをしたくなるシステムである。
これは、とある『前の世』を持った人物と出会った時にカランが思いついたものだ。
その人物は常に『本物の前の世には偽物は勝つことはない、だから本当に前の世を持つ人物に偽物の記憶を与えることは不可能だろう』と語り、最期には『永遠に記憶が続く自分は、永遠に後悔を抱え、永遠に同じ事を願って死ぬことしかできない。願うならばまた、再びあの方に会いたい』と言って死んでいく。
この永遠を生きる人間は、同じく永遠を生きるカランの唯一の友人と言っていいだろう。
ある時カランは、より人間たちを豊かにする名目で魔女たちに課題を出した。
魔女たちはそれらを取り組む為により人間に関わりをもたなければならなくなったが、『世界』はそれを何とか防ごうとしてくるようになった。
『世界』は魔女たちを自分の子供のように愛しており、害を加えてくる人間に容赦がない。
ある時、ある魔女が人間を好きになった。
その人間もその魔女を愛した。
『世界』はそれを許さず、その人間に課題を与える事で結ばれる運命を壊そうと考える。
[光を全く漏らさない宝石を作る事が出来たら、魔女と恋をする権利を与えよう]
その言葉によってその人物『研磨師ファミリア』は部屋に籠り、そして完成させる事ができずに死んでしまった。全てをその魔女のために費やしたファミリアは最期にその魔女と手を繋ぎ、幸せそうに死んでいったらしい。
残されてしまった人間を好いた魔女に『世界』の媒体であるカランは、『初めから自分たちは人間には恋人としての行為ができない事、その課題を終えた所で不死身ではない人間では魔女の魔力に耐えられない事』を伝えると、
その魔女の魔力が暴走し、城にいた全ての人間を飲み込むと、飲み込んだ人間全てを溶かし消滅させてしまう事件発生した。
カランと他の魔女が全力を持ってその魔女を抑えると、カランは『全ての罪を背負う』と言って自ら牢獄へと向かった。
魔女達は、『ならば自分達にも何か人間に対する詫びを』と願ったため、カランは『人間に魔女だと知られた場合、その人間の願いは必ず叶える事』とした。
カランは、『世界』に、今回の暴走についてはそちらの責任である。だから、人間に魔女と恋をさせる可能性を与え、責任を取るように伝えたのだった。
_________カラン・スタートッドの歴史書
永遠に並ぶ絵画、ここには世界の始まりから並ぶ絵画が並べられている。ここに終わりは存在しない。
エマは、そこの場所に足を踏み入れて思った。
ここで気がつくべきだったのだと。
この男、カラン・スタートッドが住んでいる屋敷がこんな近場にあったと知っていれば、何か企んでいそうだとすぐに掴めたはずだったのに、そう思う今日この頃だ。
「これで全部ですよ、ファミリアさんの宝石」
「おーサンキュー」
「さて、帰ろうかな」
ファミリアは、生涯で35のファミリアの宝石の作品を作っている。
それを全て集めるように言われ、エマは前の世の段階から集め続けていた。
今回は思考を凝らして怪盗をやってみたのは、ちょっとした楽しみを作りたかったからである。
「南の」
「なんです、カラン・スタートッド」
「今、幸せ?」
「まぁ、幸せだと思います」
「そりゃ良かったよ」
ファミリアの宝石を光に当てながらカランはウイスキーを飲んでいた。全く酔っていないその顔には、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。
私がリチャード様を見るたびに、不死にしてしまった事を後悔しているのを知っているからか、毎回幸せかどうかを確認してくるのはいい加減にしてほしい。
「…………スタートッド伯爵、リチャード様が今度ここに来たいと言ってましたよ」
「ん?なに、伯爵として会いに来たいの?」
「そう言ってましたが」
「うへぇ……絶対面倒な仕事じゃん、はいはい、かしこまりましたよ」
カランも伯爵だったと知ったのはつい最近の事だ。
実は、遥大昔にはすでに伯爵だったらしい。
この男とリチャード様が昔からの友達だと言うのは本当らしく、私に知られてからは普通に2人で出かけたりもしている。楽しそうなので少し羨ましいほどだ。
「まぁ、そろそろ祝わないとなぁ……ようやく南のと結ばれた訳だし」
突然そう言ってウイスキーを机に置くと、私の方を向いてニコリと笑った。
カラン・スタートッドが未来を見たときの顔をしているのが分かる。
その笑顔は少し悲しげで、今の私では慰めの言葉を贈ることができなかった。
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