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令和になったので投稿しちゃうよ!
すぐに最後の文を少し削りました。
申し訳ありません。
柔らかい物が私のおでこに触れたなと思って目を開けると、目の前いっぱいに伯爵の顔があった。
「…………!!」
突然目を開けた私に驚いたのか、伯爵も少しだけ目を見開いて私を見つめている。私はびっくりしすぎて声も出なかったのだが、伯爵の方はすぐに私が目が覚めた事に気がついて笑いかけてきた。
「ふふ……おはよう、エマ」
「おはようございます、伯爵」
伯爵は、私の顔を覗き込みながらゆっくりと頭を撫でてきていた。優しく撫でてくるその手から全く敵意は感じられない。
「大人しいね」
「変ですか?」
「困ったね…ずっと撫でてしまいそうだよ」
より目を細めながら頭を撫で続ける伯爵を見ていると逃げる気が失せてくる。
本当にこの人は私に何かを害のある事をしようとしたのだろうか。
「そろそろ行かなければ怒られてしまうな」
言葉を呟きながら立ち上がろうとする伯爵の服の端をぎゅっと握り呼び止めると、伯爵がとても驚いたような顔でこちらを見るのが分かった。
それを良いことに一応上目遣いをしてポツリと言葉を吐くことにする。
「……もう行ってしまうのですか?」
「エ……エマ……?い、い、一体どうしたの。そんな事を言われては、もう……どうしたってここに残ってしまうじゃないか」
私が体を起こそうとすると、手を支えて起き上がらせてくれた伯爵は、私をそのまま抱きしめて肩に顔を埋めてぎゅうと音がする程腕から力が加えられた。
少しだけ苦しい。
「ああ、エマ……最近、避けられていたから……もう会ってくれないんじゃないかと思っていたんだ」
「婚約者様がいると聞きましたから」
「そんな人物作らないよ……」
「でもランクさんが」
「ランクさん!?」
ガバリと私の肩から顔を上げた伯爵は、そのまま両手で強く肩を掴んで、その勢いのまま少し恨めしそうな顔を近づけてきた。私は何とも言えない恐ろしさに震える。
「ひっ」
「ランクさん?」
「え……ええ、ランクさん」
「何故ランクの事を名前で呼んでいるの?」
「え??」
そこかーい、という心の中をなんとか外に出さないように飲み込み、単純な答えを口に出す。
「それは」
「それは?」
「名前しか、しらないので……」
「……!!なるほど…………」
驚くほど目を見開いた伯爵は、納得がいったらしく、それ以上の質問はなかった。しかしランクさんは要らない恨みを買ったことだろうと何となく察する。
「エマ、私の名前はリチャードだよ」
「ええ、存じてます」
「……リチャードだよ」
「ええ、存じてますよ」
「リチャード」
「はい」
「…………」
「伯爵は、伯爵ですから」
「なんでだい!」
がっくりとうな垂れた伯爵を見ようとするも、うなだれる流れで再び抱きしめられてしまい顔は見えない。
ただ、先程よりは少し力が加減されている。
私は自分の手を伯爵に添えた方がいいのか悩んでみるも答えは出ず、手は添えられないまま宙に浮かせた。
そういえば私は今ベットの上にいるのだけど、彼はそれを認識しているのだろうか。
「エマ……」
「はい」
「私は貴方に、一切嘘を言わない」
「はい?」
「今までも、これからもだよ」
「はぁ…………」
何を突然言い始めるのだろう。
彼の話はいつも唐突すぎて真意が見えない事がある。
そもそも私は伯爵に対して嘘つきだとも言っていないのに。私が伯爵に対して不信感を抱いた事でも感じ取ったのだろうか。
「伯爵、婚約者様は本当にいないのですか?」
「……陛下から、推薦状が来てるだけだよ」
「それって命令に近いのでは?」
「もう断ってるんだけれどね」
「大丈夫なのですか」
「………………」
きっと、そんなに大丈夫ではないのだろう。
相手はもしかしてこの間見かけた令嬢だろうか?
この国では陛下から婚約者の推薦が来ることがあるのは侯爵位の地位の場合などに多いらしい。
伯爵に来ると言う事は歴史的に見ても珍しい事だそうだ。
つまり、何かしらの力が働いている可能性が高い、気がする。
そうすると、疑問に浮かぶのは伯爵の婚約者として推薦されたご令嬢は一体どんな人物なのかという事だ。なぜその令嬢を推薦したのか、その裏にどんな意味があるのか。
そしてこの人は国のためにどんな動きをしているのだろう。
どうやら殿下とは関わりがあるようだし。
_______コンコンッ
「…………」
「……伯爵、誰かがお呼びですよ」
「だめだ、行きたくない」
「リチャード様!そろそろお戻りになってください!」
「……ほら、呼んでますよ」
「じゃあ、エマが名前で呼んでくれたら多分仕事ができるよ」
じゃあってなんだ。
大の大人が聞き分けがなくなると、なぜこんなに面倒なのだろう。しかもこの方は分かっていてやっている。
全く。本当に、仕方がない人だな。
「………………リック、ハウス」
「なっ!!エマ、い、いや私のエミー!!分かったよ、ゆっくり休んでいて。仕事を終えたらすぐ来よう」
驚きの早さで私の頬にキスをすると、簡単なハグをして部屋を出て行った。
それをため息をつきながらそれを見送り、私はベットに体を戻した。
昨日の夜のことは良く覚えている。
もしかしたら私は伯爵に騙されているのかもしれない。
ただ、伯爵に抱いていた心が痛くなる気持ちが先ほどの彼自らが言っていた言葉によって取り払われていたという事。そして、どうしても信じてあげたいというこの気持ちは。
完敗だと思った。
もう、彼に恋をしているから以外に答えが出ない。
本当は、少しだけ甘えてそれで終わりにしようと思っていた、騙されているなら最後に彼の本当の言葉を聞いて諦めようと。
それなのに、平静を装うのがやっとだった。
あんなにキツく抱きしめられてそこに気持ちが無いなんてどうしても思えない。嬉しくて、まだ苦しい。
彼の裏にある何かを解決してあげなければ。
お読みいただきありがとうございます!




