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「リチャード・トルネン……だと?」
伯爵がこちらを向いてにこりと笑う。
少しだけ息が上がっているのを見ると、急いでここに駆けつけてくれたのだろう。やはり手紙を出しておいて良かった。
「まずその2人を解放してもらいたいのですが、長殿」
「あっはははは!!トルネン伯爵殿でしたかー、貴方様は魔法が使えないそうですねぇ!そんな奴に…………俺が従うと思うんじゃねぇぞ!!!」
がっしゃーーんという音を立てて伯爵の横にあった棚が吹っ飛んだ。だが、何かしらの攻撃を仕掛けられたように見えた伯爵には傷一つついていない。
魔法の圧で風が舞い、伯爵の服を揺らした。
「なるほどな……」
多少なりとも傷つけられると思っていたのか、男は驚愕とも言える声を漏らす。
私からは見えないが、目を見開いて伯爵を見つめる姿が想像できた。
「私が何も対策せずに突っ込むと思ったのか、カラン・スタートッド」
「へぇ、その名前を知ってんのか、何者だお前」
「…………2人を離せ」
「むりだねぇ!!」
鋭い光が走り、つい目をつぶった。
ギィンという音が伯爵から聞こえ、目を薄っすらと開けると、伯爵の片手には先程までは構えていなかった短剣があった。その剣が何かをはじき返した音だったらしい。
もしかして魔法銃かなにかを使ってきたのかもしれない。
張り詰めた空気に、先程とは違う意味で身動きが取れなかった。それに、カランという男の近くにいる侯爵達はどんな状況なのだろうか。
「おいおい……魔力は無いんじゃなかったのかよ」
「魔力が無い者も同じ場で戦わなければいけないんだ。この程度造作もない」
「ほう、戦う、ねぇ」
カランの方から動く音が聞こえてきた。すると、伯爵が素早く胸ポケットから何かを取り出しカランの方向に投げた。
「魔法石!?お前レイの手下か」
「殿下の名前を呼び捨てにしないでもらおうか」
「ぐっ、こんなの…聞いてねぇぞ……カラン」
男の声が少しだけ弱くなったように聞こえる。
何が起きたのだろう。
それに魔法石を使っただけで殿下の手下と思われるなんてどういう事?
しかし、気がつくと伯爵が目の前に来ており私に手を伸ばしてきていた。
「エマ」
「え?」
「逃げるよ」
侯爵達は、と聞く前に、そちら側からダーンというすごい音が聞こえてくる。
「大丈夫」
私の疑問が聞こえたかのように伯爵が答え、あっという間に抱き上げられていた。一応気になり音が聞こえた方を見ると、侯爵達はランクの後ろ側に立っておりカランは片膝をついてお腹を抱えていた。ランクの手には既に何かの魔法が唱えられているのか光る玉があるように見える。
私が見ることができたのはそこまで。
「エマ、ごめんね」
「はくしゃ……」
目がさめるとふかふかな豪華なベッドの上に寝ていた。一体いつの間に寝ていたのだろう。そういえば伯爵にごめんと言われた後に気が遠くなった気がする。体を起こさずに左右を見ると、この部屋には誰も居ないようだった。
ゆっくりと体を起こそうとする。
「……はれ?」
体に全く力が入らない。
腕を動かそうとしても脱力し機能しなかった。
そもそもここはどこなのか。伯爵に連れられたから彼の家だろうか。
目の前にあるベッドの天井を睨みながらどうしようかと考えていると、外から声が聞こえてきたのが分かった。
2人くらいいるだろうか。何かを話している。
「______!」
「______!」
部屋の外だからか内容まで聞き取れないが、何かを言い争っているように思う。
人が寝てる部屋の前で言い争いをするんじゃないよ、と呑気な事を考えているとガチャリと扉が開きその2人が入ってくる。
私は思わず目をつぶって寝ているふりをした。
「全く、リチャード様にも呆れましたよ。人をなんだと思っているのでしょう」
「いや、昔からあの方はその人の為に動いているのだから今回の件も、今更だろう」
「ですが、こんな人さらいみたいな真似をするなんて、しかも殿下から頂いた魔法石まで使って眠らせているのですよ」
「あんまり騒ぐなよ、いくら魔法石でも騒ぎ立てれば起きる」
「でも」
「サリィ、リチャード様の命は絶対だ」
「……分かりました」
しばらく彼らは何かかちゃかちゃと音を立て何かを組み立てていたが、準備が終わったのか出て行った。
彼らが話していた『人さらいみたいな真似』をされたのは私の事ではないだろうか。その後に『騒いだら起きる』という事を話していたのだからきっとそうだろう。
ふむ。
これはもしや、逃げた方がいいのだろうか。
リチャード様って伯爵の事だと思ったけど、彼は私を攫ったらしい。あの状況ではきっと助けを求めていただろうから正直攫われたというのには語弊があるのだけど。
動かない体に頑張って力を入れてみるが、やはりいう事を聞いてくれなかった。これは身体がまだ寝ている状況からくる動かないだったのか。
だったらもう少し寝たら回復するかもしれない。
先程彼らが何かをセットしていたのが気になるけれど、今でも動けないのなら仕方ないだろう。
私は大人しく目を閉じた。
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さて、これはとある本の内容である。
『カラン・スタートッド』
いつ誕生したのかは不明とされる人間とは言えない生物。
世界唯一の『魔法使い』であり、代々の国王を補佐する人物であった。
1年、世界の歴史を年数として数え始めた時、魔法使いによって国王という存在が作成される。
78年、魔法使いという存在がいる事が世界に発表される。
406年、王族を皆殺しにされる事件において犯人として捕まり、世界に4人いる魔女達の手によってその殆どの魔力を封印され、地下牢に投獄される。
(427年、魔力を使用できる人物が減少した事が判明する。)
679年、地下牢から忽然と姿を消す。
1158年現在、カランと名乗る者が現れ各地で悪行を働く事件が多発する。
※魔法使いとは、人間とは違い魔力をエネルギーとして生存している。魔力が無くなる時が死ぬ瞬間とされているが世界の魔力生産は彼ら(魔法使いと魔女)によって行われているため完全に殺すことはできないとされる。
※魔女との相違点、性別が人間で言う男という事。人間に恋をしてはいけない事。魔女に呪いをかけられる事。
魔女は魔法使いによって呪われておりその呪いが解けることは無いが、これにより人間と恋をする事が可能となった。
何故ならば…………
以降の記述が破かれている。
お読みいただきありがとうございます!




