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遅くなりました!
家族と伯爵が面会してから数日が経った。
あの日……これでもかと働かせたのに、寧ろ嬉々として働く姿は少し気持ち悪く、もう二度と手伝ってもらう事の無いようにしようと反省した事を今でも思い出す。
そして、家族に会ってしまったことで朝に伯爵が来なくなる事を期待したがそんな事もなく、同じくらいの時間に頭を撫でられ颯爽と仕事へ向かう姿を見送る毎日を送っていた。
少しだけ変わった事と言ったら、伯爵が店に訪れなくなった事。聞いても誤魔化されるのであえて聞きはしないが、どうやら仕事が忙しいらしい。それなら朝来るのも止めてしまえばいいのに。
「ふぅ……」
今日は店番を始めてから誰一人お客さんは来ていない。
こんな店番をしているだけでお金がもらえるなんてパラダイスである。
____ガチャ
「手を上げろ、そこを動くんじゃねぇぞ」
パラダイス一転デンジャラス。
目の前には、魔法銃(自分の魔力を人が殺せるほどの速さで撃ち出してくれる器具)を持った男が立っていた。
いかにも悪役みたいな坊主頭に三白眼、白のタンクトップを着た筋肉がむきむきの男だ。
1人のように見えるが、お店の外には他にも仲間がいる可能性もあるので迂闊に逃げるのも危険だろう。
ここは指示に従って動くことを止めた方が良さそうだ。
「あのぉ、動かないので質問とか……」
「話しかけんじゃねぇ」
「はぁい……」
大人しく手でも上げて待っておけばいいかな。
でもその後にバーンて撃たれたらたまったもんじゃない。それならば少しでも抵抗するべきだろう。
伯爵、なんかお店の危機を察する道具とか設けてないのかな。今とっても危険な感じなんですけど。
それにしても魔法銃持ってるなんて魔法でも使えるのかしら?それならばこんな事をするよりも国に仕えた方がよほど良い暮らしが保証されているのに。
などと考えている間に、男は周りの宝石を見定めるかのようにうろうろとしていた。
あれ?盗んだりしないの?
「おい」
「は、はい!」
「ここにトルネンが大切にしている物があると聞いてきた。それを出せ」
「………………大切にしてるもの?」
「ああ?てめぇ店番のくせに知らねぇのかよ」
「あはは、すんませんです……」
一瞬自分の事じゃないかと頭をよぎったのだが、それは良くない思考である。とりあえず知らないと思ってくれたようなのでそのままにしておこう。
「はっ、じゃあもうてめぇに用事はないな」
そう言って男は魔法銃をこちらに向けてきた。
おや、穏やかじゃないぞ。
このまま放置はやはり駄目なようだ。抵抗を試みるしかない。
「こ……ここで発砲しても良いのですか?」
「あ?」
「貴方が魔法銃を使用するなら、ここに貴方の魔力を残すことになる。探知されてしまうのは明白ですよね」
「……」
「なので今ここで撃つのは得策ではないかと」
「なるほど、一理あるな」
「ていうか、魔法使えるならこんな事しなくても伯爵に何か出来るのでは?」
「ふん、お前は知らない様だな。あの男はかなりのやり手なんだ、弱みでも握っとかなきゃまず動かねぇ」
「へ、へぇ……」
「それにやる前に言葉でぼこぼこにされる」
「はぁ、そうですか……ん?」
この男の言葉には何か引っかかるものがあった。
ただ単に伯爵を脅す為に盗もうとしている感じではない。
何やら関わったことがありそうな言い方をしている。もしかして、伯爵の知り合いなの?
ただ、もし知り合いというなら私をこんなあっさり殺そうとするものだろうか。
「なんだ、何か言いたい事でもあるのか」
「もしかして、伯爵とはお知り合い……」
「当たり前だろうが、そんな事も分かんねぇのか」
いや、分かんねぇし!
まさか伯爵の知り合いから魔法銃突きつけられるとは思わねぇし!
しかし、何故かイラついた様子の男との間を保つため、とりあえず笑ってみる事にした。
「あはは、そうでしたか……」
「ああ?何笑ってんだ、馬鹿にしてんのか庶民が」
馬鹿にされたのは私だ。
少しだけ安心したものの、どんな人物でなぜここにやって来たのか気になるもの。普通に聞いても答えてくれないかもしれないがひとまず聞いてみる事にした。
「あなたは何者なのでしょうか」
「俺?俺か?俺はなぁ、国王に命令されて、魔法の使えないトルネンの手となり足となり使いっぱにされてる可哀想な奴なんだよ」
「へ、へぇ…それは大変そうで」
すんなり自分の事を話してくる上に、割と国の内情についても熱く語り始めてしまった。どれだけ自分が不遇の立場なのかを力説する彼にとっては話す相手など関係の無い事らしい。
まだぺらぺらとどんな扱いを受けているのかを話し続けているのを見ていたら、パチっと視線が合った。
「んん?」
「ん?」
「ふーむ、もしやお前、ワンダーソン家の娘とかいうやつか?」
「え?」
「ほほぉなるほどなるほど、じゃあお前がトルネンの言ってたど……ぐっ」
「お喋りが過ぎるぞランク」
気がつくとトルネン伯爵が入ってきていた。
いつもの穏やかな笑顔に少しだけ黒い何かを含ませた様な顔をして銃を持つ男を凄い力で押さえつけている。
男の方の体は、いかにも肉体派ですという風貌だった為に華奢な体の伯爵が押さえ込んでいるとより悪役みたいに見えた。
それにしても、伯爵の言っていたどってなんだろう。
「やぁ、エマ」
「こんにちは伯爵」
「おい!トルネン!離せ!」
「ほう、今の私に命令とは良い度胸だなランク」
「いででででぇ!やめろ!関節が外れる!」
「その飾りの筋肉を早く活かせる様にするんだな」
黙って見ていた私をランクと呼ばれた男が睨んできた。
顔を真っ赤にさせて必死にこちらを睨む姿は猛獣のようだ。
人間てここまですごい顔をすることが出来るんだなぁと関心していると、男は私にがなる。
「おい!お前、この男に離れるように言え!」
「え、でもなぁ、その道具突きつけられたしなぁ……」
「へぇ……エマにそんな事を」
「あだだだぁ!!ばっかやろお前、何チクって」
「先程からエマにお前呼ばわりとは何様だ、ランク」
「あぎゃぁぁー!!!」
私は、魔法が使えるならば使えば良かったじゃないかと思いながら、伯爵に倒されるその男を憐れみの目で見つめたのだった。
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