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よろしくお願い致します。

『君に一目惚れをした』





気がつくと知らない部屋にいた。

目の前には男性が1人。私は背を壁につけ、顔の横に男性の手が置かれている。

おかしい、私はさっきまで舞踏会の給仕してたはずなのに。

これは、一体どんな状況なの……?



頭を巡らせると数分前の出来事が徐々に頭に蘇ってきた。

自分に不釣り合いな言葉をかけられつい固まった体と、目の前に迫る美丈夫な顔。


「……すまない、つい部屋に連れ込んでしまった」

「え、あ、……」


月明かりのみが部屋の灯りになっている、今この状況ではっきりと見えるのは目の前にいる男性の姿だけだ。

私の目の前に立っている男性、彼はトルネン・リチャード伯爵という方だったはず。

すらっとした高い身長、甘いマスクに低音の声、殆どの者が一度出会えば彼の虜になると言われるほど今注目されている人物。

私とはまるで縁が無いようなその人に私は今捕まっている。


「君、名前は」

「名前はエマです……」

「もしかしてワンダーソンの家の次女?」

「……は、はい……」


因みに私はそこそこ貧乏な男爵家の次女であり、地味な外見を生かして今日もとある舞踏会で密かに働いていた。

今までバレる事がなかったのに、なぜこの一瞬で。


「……あの」

「何故君が給仕を?」

「え……と……貧乏なので仕事を……」

「貧乏?先ほど貴方の姉が綺麗なドレスを着て歩いていなかったか?」

「姉様は、相手を見つける役割でして」


そう、確かに今日、姉様と同じ馬車に乗り近場まで来た上で別れ、私だけこの舞踏会の給仕をしている。それは事実だし、彼が疑問に思うのもまぁ、分かる。


ただそれよりも今急速にどうにかしたい事があった。

この、伯爵との距離だ。

先程から耳元で囁くように言葉をかけられており、酔ったのかと思うほど頭がクラクラしている。

なんだこの人の声、麻薬でも混じってるの?

まずい倒れる、そう思った時伯爵の体が少し離れ肩を支えられた。

あ、イケメンだ。


「……なるほど、つまり君もまだ婚約者などはいないということなのかな?」

「え?ええ、まぁ……」

「では、私と婚約しよう」

「……………………は?」


私は驚いて彼を見上げた。

どうしよう。つい「は?」って言っちゃった。なんでって、月がスッポンに求愛しているのだから当たり前の話だ。

何を言っているのかこの人は、絶対何か悪いことを考えている、通常の精神状態でこんな貧乏令嬢に婚約を申し込むなどどうかしているとしか考えられない。


少し離れたせいでよく顔が見えてしまいどんどんと心拍数は上がるけれど、そんなのは棚に上げて私は彼を精一杯睨みつける。


「な、なにを考えてらっしゃるのですか」

「え?」

「私になんか、き、求婚だなんて……」

「それは私が君に一目惚れをしたから」

「絶対にうそだわ!」


逃げ出そうとした私を伯爵の手が引き止め、一度彼の胸の中に引き寄せられた。

伯爵は自分の上着を脱いで私にかけ、ソファへとうながし、そのまま私の両手を握りながら俯いてしまう。

私は手を外してもらおうと少しだけ彼を覗き込んだ。


「はくしゃ……」

「本当に一目惚れなんだよ」

「ですが、」

「信じてくれないの?」

「…………」


少しだけ顔を上げ私を下から見上げる伯爵の瞳はとても綺麗な色をしていた。暗い青にうっすらと緑を混ぜたような、そんな色。

吸い込まれてしまいそう。ついうっとりと瞳を見つめてしまい私は、手を強く握りしめられていたことに気がつかなかった。


「はぁ、困った」

「困る?」

「……今君にキスがしたくて仕方がない」

「!!」


そう小さく呟くものだから、私は一瞬反応が遅れた。

伯爵が私の手を強く掴んだままぐいっと引き寄せ、近くなる顔に驚いて声が出ない。


何も触れてない唇に、彼の息がかかった。


「ふふ、慌ててる」

「あ、慌てますよ!」

「じゃあまだ、我慢してあげるね」

「まだ?!」


まだとはどういう事ですか、と聞くよりも早く、伯爵は私の服に手を伸ばし、先ほど開きかけた前ボタンを閉めてきた。


「ひ!!」

「そんな声を出さないでほしいな、私は今後これ以上をするつもりなのに」

「そ、そ、そ、そ」


それ以上とは、つまり。

「そ」の大量生産を終えた私を、伯爵は扉の前までエスコートした後、私の口に人差し指を当ててきた。


「ここで会っていたのは内緒だよ、私の愛しい人」

「…………あ、は、は、はい?」


ニコニコとした笑みを浮かべながら彼は会場に戻っていく。

私はその場にへなへなと座り込み、今起きた出来事が夢では無かったのかと頭でぐるぐると思い返してみた。


「伯爵が、私を……?」


なにかの間違いじゃなかろうか。


ただ、ひとつ分かるのは、今私は腰が抜けているという事と、仕事に戻るのはもう少し時間がかかりそうという事だった。





※ ※ ※ ※ ※




トルネン伯爵からとんでもない告白を受けてから一夜明けた。


現実だったのだろうか。

でも、彼が掴んだ腕の感触がまだ残っている気がしてならない。唇にかかる息も触れた指も、全部……。


「…………」


いや、そんな事を考えている時間はない。朝の準備をしなければ。

まず朝食を作って、今日はベッドシーツを洗うから水を多く汲みにいかないといけないな。


そんな事を考えながら井戸から水を汲んでいた時だった。


「やぁ、おはよう。エマ」

「………え…幻聴?」


なんだか伯爵の声が聞こえてきた気がした。

朝から彼の事を考えてしまったせいなのかもしれない。

私はその声を無視してそのまま水を汲みながら頭を横に振る。


「いやいや、こんな場所に伯爵がいるわけ……」

「無視とはひどいな、エマ」

「…………」


声のした方を振り向くとそこには今まさに考えていた人物が居た。私の頭は思考停止をしたのち、井戸からバッシャーンという音が聞こえてきて我に返った。

お読みいただきありがとうございます!

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