星のかけら
「わたしは星のかけら……」
満開のコスモスに包まれて永遠に目を閉じて
それは彼女の最後の言葉
「寂しくなんかないさ。そうだろう?」
あいつはにっこり笑ってシリウスを仰ぎ見て
永遠の川を渡った
二人とも覚えているか?
三人で流星を見に行ったあの夜を
コスモスの咲く丘で言ったことを
「俺たち、粉々になった星なんだぜ」
「宇宙に散らばった星のかけらで作られた新しい星なの、わたしたち」
今も鮮明に覚えている
東の空に昇ったばかりのシリウスとプロキオンが
馬鹿みたいに眩しかったことを
H、O、C、N、P、S
N a、C a、K、C l、Mg
F e、Z n、C u
F、I、S e、S i、B
As、Mn、M o、C o、Cr、V、N i、Cd、Sn、Pb……
あれから何年経つのだろう
満開のコスモスに囲まれてひとりぼっちの夜明け前
昇り始めたばかりのシリウスとプロキオンを前に、ふと気付いた
僕の頭上にはずっと前から君たちがいたことに
星たちは草原を埋め尽くしたコスモスを青い光で照らす
可憐に咲く花の群れは俺を包んで青い波のように揺れる
教えてほしい
僕は今、輝いているのか、それとも闇なのかを
いや、いいんだ
愚かな問いだった
遠慮なく笑ってくれ、幸せだったあの日のように
僕は大事なことを忘れていたんだ
僕が君たちを忘れたことがないように
君たちも決して僕を見失うことはないことを
あの日、おまえたちが言っていたことの意味が
今、やっとわかったよ
僕たちは今も同じ宇宙にあって
今を共に生きる、輝く光
そうだろう?
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秋―― 夜明け前の東の空に冬の大三角(シリウス、プロキオン、ベテルギウス)
が戻ってきました。