7 日記
前回のあらすじ。
ローゼが悪夢から覚める→棒人間にイラつく→マクラタコ殴り→スッキリ→棒人間のセリフが気になる→確かめにニルソニアの業務室に行く→開かない扉と格闘する→つかれる
ローゼは気を取り直し、彼女の主――ニルソニアの部屋へと向かった。
図らずとも、昨日主――ニルソニアお嬢様を起こしに来たときと同じ体勢で固まるローゼ。
ただひとつ、ローゼが不安げだという事を除いては。
「罠だったらどうしましょうか……いえ、どうせあいつの戯言です。さっさと確認して(お嬢さまの)ベットに入りましょう」
神妙な顔つきで、ドアノブに手をかけた。
ドアノブは音もなく回った。
部屋に入ると、当然ながら天蓋付きのベットでニルソニアが寝ていた。
床には、脱ぎ捨てられ散らかったお嬢様服。
普段から身の回りを任せきりのお嬢様。生活力は皆無だった。
普段通り、無意識に服を回収していくローゼ。
そして、普段と同じく気配を殺している。
気配を殺しているため、ニルソニアが起きそうな様子はない。
後で本人から聞いた話だが、『お嬢さまに悪戯するために、努力しました』とのこと。
さすがは、駄メイド。いや、もはやメイドですらないかもしれない。
回収した洗濯物(お嬢様の服)を部屋の隅にポイッと投げ捨てる。
「これで足の踏み場が出来ましたね。―――おっと、お嬢さまは寝ていました。静かに……静かに……」
忍び足で、業務室へつながるドアへ歩いていく。
普段通りに、ニルソニアが起きる事もなく、そして何事もなく、ドアの前に着いた。
今回もドアノブは滑らかに回った。
静かな業務室は相変わらず散らかっていた。主に書類が。
ただ、ドアから業務用両袖机までは、動線が確保されていた。
ローゼは、周囲を紙に埋め尽くされた道を進む。
積み上げられた白い塔に当たらないように慎重に進む。
「まったく、お嬢さまを起こさないことよりも、書類の山を崩さない方が難しいとは」
愚痴りながら、たどり着いた両袖机の右側、下から二段目の引き出しを開く。
そこには―――――――
「――――――ん――――――」
――――――――何も入っていなかった。
「やはりからかわれた、いえただの夢だったようですね。ならばさっさとニルソニア様と共にベットで寝―――」
ガチャリ
棒人間は何と言っていた。
『願い事は吸血鬼が眠る部屋―――その隣の仕事部屋にある両袖机。左側下から二段目の中から始まる』
そう言っていた。
音がした。左側の引き出しから音がした。
業務机の備え付け引き出し、左側、下から二段目、その引き出しが。
ローゼには、何故だか鎖で縛られているような気がした。
つばを飲み込み、だが静寂に飲み込まれないように、
腕に力を籠め、だが期待は込めないように、
引き出しを開ける。
―――――止まっていた時が動き出す―――――
そこにあったのは、
一冊の古ぼけた黒革の手帳と薇発条の切れたオルゴールだった。
手帳の表紙には何かが書かれていた跡と、大きく刻まれた二つの『〆』。
望んだものと告げられたそれを覗き込んだ。
それは―――――――――
† † †
手帳――日記を丁重に閉じる。元あった場所に戻すと、ローゼは泣きそうな、それでいて決意したような顔でオルゴールの発条を巻き、机の上に置く。
流れてくるは、美しく気高い、だけどどこか寂し気な旋律。
その旋律は、この場に動くものがいない夜であることも合わさって、高らかに鳴り響く。
今にも消えそうな音は、屋敷中に響き渡る。
壁一枚隔てた部屋にも流れ出る。
バンッ!!!
ローゼが顔を上げると、
メイドが見たことない表情で、日記の持ち主――ニルソニアが扉を蹴り開けて、迫ってきていた。
次回
「幼子」
また見てね
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特別版:ハッピーハロウィン
[我らが父 我らが父、メアさん……棒人間曰く今日は『ハロウィン』というらしいですよ。]
『そうか。だが、お前を下界に行かさせるわけにはいかない』
[どうしてですか!]
『仕事しなくなるだろうが』
[しますよ!……多分]
『……駄目だ』
[そんなーーーーーーー〜]