19 再起動
[はい、お待たせしました。ルビの降り方が気にくわないという事で、何度も再提出を喰らったナレーショナーです]
『ルビは浪漫だ。妥協することは許さん』
† †
[──これで良しっと。世界線をずらすのは苦労しますね]
「────そうですね──」
「──いいのかしら────」
「──────仕方がないですから」
誰かが会話している。うまく聞き取れない。いったい何の話だろうか。
「おや? 目が覚めましたか?」
目が覚める? 俺は寝ていたのか? たしか……
記憶を探る。
真っ先に飛び込んできたイメージは、大きく開いた蜘蛛の顎だった。
「⁉ 蜘蛛は?!」
「ここに蜘蛛はいませんよ? ここにいるのは娘さまと私とあなただけですよ」
そんなことを言われて初めてナレーショナーのいうところの『あなた』──メア・キュリエイドは周囲を見渡した。
そこは例の真っ白い空間だった。
「あ、一回言ってみたかったセリフがあるんです。『おお、メアよ。しんでしまうとはなさけない!』──あれ? おお~い、聞こえてますか?」
ただ、『例の』という定冠詞はもう使えないかもしれない。
何故なら、あたり一面の白い床にメアが生きていた世界の品々が散乱していたのだ。
小さいものはデジタルデバイスから爪楊枝まで、大きいものは戦艦から高層ビルまで。戦闘用ロボットもあった。
マンガ、TV、戦車、雑誌、クッキー、ゲーム機、自動車、布団、スマホ、飛行機、田んぼ、銃、黒板、etc, etc, ……。中にはビキニアーマー、壊れているヘカミュルナ様のフィギュア、大人のおもちゃなんてものもあった。
その中の空白の空間に、メアは床の上に寝かされていた。
† †
[娘様のフィギュアはどことは言わないですが、精巧につくられすぎていてですね……胸部がパージします]
『……作ったやつは欲望に忠実な良いやつだったよ』
† †
「……どこだここ。ゴミ屋敷か?」
メアがぽつりとつぶやくと、反応したナレーショナーが
「ゴミ屋敷には同意します。もう少し整理すればいいのに、『把握している。変更の意味なし』と我らが父がいうものですから。私たちにはわからないことが分からないのでしょうかねぇ? そもそも──」
ここで、もう一人──ヘカミュルナが口を挟んだ。
「そこまで。無駄な時間を過ごしている暇はありません。ナレーショナー、始めなさい」
† †
[うわ、初っ端から真面目、あれ仕事モードですよ。私としてはもう少し雑談を楽しみたかったんですけどねぇ]
『貴様のは雑談ではなく、愚痴だろう』
[すぐ横に愚痴の対象がいたらさすがの私でも遠慮しますよ]
『!?』
[何ですか、その意外そうな顔と反応は]
『?』
[なんでそこで怒るの? みたいな反応やめてください。自覚はあるので余計傷つくんですよ]
† †
「そこまで。無駄な時間を過ごしている暇はありません。ナレーショナー、始めなさい」
「あ、ヘカミュルナ様居たんだ。気づかなかった」
「!?」
「前から言いたかったんだけど、ヘカミュルナって長いからあだ名で呼びたいんだよね? ヘルナちゃん? へカルナちゃん? どっちがいい?」
「」
「う~んと、はい! 人気投票の結果が出ました。へカルナちゃんが69% ヘルナちゃんが30%ですって! 残りの1%は、ひんにゅ──貧乳ちゃん!」
「ナレーショナーさん?」
† †
[貧乳ちゃんをわざわざリプで送ってきた人、恨みますよ……とても痛かったです]
† †
「あ“い。すみませんでした…… 」
「ナレーショナーさん?」
「すみまぜんでした」
† †
「では、気を取り直して、進めてください」
「はーい。さて、前回と同じでは面白くありませんよね?……ゴッテゴテの様式美で行きましょうか」
「……あなたは死にました。トラック──じゃない、蜘蛛に体中を喰われて死にました。そこで、何か一つ能力を授け、異世界に転生させてあげましょう。好きなものをこの中から──」「おいまて」
メアに止められて、ナレーショナーはお目目ぱちくり。
「はい? なんでしょう?」
「なんでしょうじゃねえ。一切説明がないんだが」
「したじゃないですか。一回目の時に」
「……」
「そんな目で睨まないでくださいよ。普段振り回されてるからその意趣返しですよ」
「……ナレーショナー」
「娘さまもメアさんの味方ですか。そうですか。いいですよもう。決めました。口止めされたことまで喋ってやりますからね」
それを聞き、慌て始めるヘカミュルナ。
「え、ちょ、ちょっと待ちな──」
「待ちません。この空間は我らが父があなたが元居た世界を研究するために作りだしたものです。また、この空間内にあるものはあなたの記憶を読み取り、具現化したものです」
「次に、あなたが死んだのちにこの空間に送られてきた理由は、死ぬのが早すぎて話にならないからと、ヘカミュルナ様があなたに渡し忘れていたものがあるからです」
「そして、これからあなたには渡しそびれていたものを受け取ってもらい、下界に戻ってもらいます。何か質問は」
ここまで、息継ぎ無し。
† †
[すこしばかり頭に血がのぼっていたんです。ゆるして]
『メアへの意趣返しではなく我が娘への八つ当たりに変化している』
[ユルシテ]
† †
ナレーショナーに疑問はあるかと問われると、メアは一瞬呆けるが、その後すぐに意図を察し、仰々しい身振りで、
「この流れで行くと、この質問しかないだろう。『一体全体、麗しの女神様は何をお忘れになったのでしょうか?』」
ナレーショナーはヘカミュルナの方を向き、
「だそうですよ。麗しの女神様」
話を振られたヘカミュルナは恥ずかしそうに切り出した。
「──はぁ、雉も鳴かなかったら撃たれないのに「え、やだ怖い」……お恥ずかしながら、この手の展開ではお約束の能力付与、別名『環境適応』を忘れていました」
「なんだそれ」
「あなたがいた世界でもあったでしょう。異世界転生系と言われる小説が。その中で高位の存在から、主人公が何らかのチカラをもらっていたシーンがあったでしょう」
「確かにあったが……」
† †
[所謂なろうでのチート能力を授けるシーンですね。いろんな種類の能力がありますが、メアさんに贈呈されるのはどのような能力になるのでしょうね]
『筋肉強化』
[却下です]
† †
「そのシーンを我々はこのように捉えました。あれは、肉体及び魂をその世界に合わせた形に変え、世界からの根本的な拒絶、つまり生命として認識されない事態が起こらないようにするためだと」
「つまり異世界に適応するために体などを作り替える際、何かのはずみでチカラが目覚めるのだと」
ヘカミュルナはカップを傾け、口を潤した。
「[その……君の体をこの世界に合わせるために弄ってたら、なんか出た。その力ね、原理不明なの。ごめんね?]」
「こんな風に説明したら、神の威厳はありませんし、説明された方も不安を感じます。そのため、転生者が一番不安を感じない、言い換えると一番違和感を覚えないカバーストーリーを展開したのでしょう」
† †
[ガバガバ理論過ぎません? こ〇すばのクズマさんとかどうなるんでしょうね? あの人女神持っていきましたけど]
『言うな。娘なりの解釈だろう。それにしてもそのような考察聞いていないのだが……我々(1人) 』
[一番あなたがひどいこと言ってません?]
† †
「長々と語っていますが、簡単に言えば、生命維持装置の電源を入れ忘れていた、みたいなものです」
ヘカミュルナ様のどこに向かっているのか分からない、けれど微妙に関係がある話を遮って、ナレーショナーが話題を戻した。
「割と致命的なミスでは?」
「その通りです。通常なら一回きりの転生チャンス、ですがこの度の死亡はバンジージャンプの紐が取り付けられる前に背中を押されたようなもの。そこで、特別にもう一度だけやり直す権利をあげましょう!」
メアは真顔で。
「いや別に? いらないが」
その返答は、ナレーショナーやヘカミュルナが期待していたのとは違うものであるはずだ。
何故なら、メアの不参加は計画の失敗を意味しているのだから。
だが、
「ええ! メアさんならそういうと思っていましたよ! ね、娘様! 」
「そうね。予想できる回答だったわ。だから、これが第一のプレゼント」
ヘカミュルナ様はその『豊満な胸』の谷間から小型の板を取り出し、メアに渡した。
金属製で、ところどころに[ふぁての魔術回路のような]複数のラインが走っているデザインだ。
「……これがなんだ? こんなもので俺がやり直したくなるとでも?」
怪訝そうにメアに問われても、二人の笑みは崩れなかった。
「その通りです。その真ん中をポンと触ってみてください」
「こうka──!!」
──剣を向けられ、【憎悪】を向けられ、呪詛を向けられ、紅い空と紅い月
脳裏に多くの情景が流れていく。
──笑顔を向けられ、手を向けられ、〈信頼〉を向けられ、黒い空に輝く月
頭に激痛が走り床をのたうち回る。
──銃を向けられ、『好意』を向けられ、「好意」を向けた。そして──
いくつものシーンがフラッシュバックしては消えていく。違和感ごと消えていく。
† †
ようやくメアの頭痛が収まるころには、ヘカミュルナ達は三杯目の紅茶を嗜んでいた。
[削除済み]
「なにをした」
[削除済み]
ナレーショナーが別段興味もなさそうに
「メアさんがもともと持っていた記憶を一部返却しました。ただ今は実感がないとは思いますけどね」
「記憶を返却? 復元でもなく正常化でもなく、返却? いやまてその前に……一部?」
二人がその尤もな疑問を取り合う事はなかった。
「まあ、そのうち分かりますよ。記憶のことも、このような処理になった理由もね。あ、あとでするといっていた『あいつ』の説明[四話で言っていた]も、もういらないでしょう? では間髪入れずに次行きますね!」
ナレーショナーがそういうと、
いきなり、
ヘカミュルナ様が額に唇を落としてきた。
「?!」
触れると同時に頭に電流が走る。
短時間でキャパシティを大幅に超える情報を、二回も入れられた脳が悲鳴を上げているのだ。
〖Boot Registration for use.. .. ..〗
そして、脳裏に唐突に響く合成音声。
† †
[CV:ドナ・〇ーグで設定しましょう! そうしましょう!]
『いや、AC、セレン〇イズの伊藤〇紀も捨てがたい』
[あーそちらもいいですね。悩ましいです][つまり、クールな女性の声と思ってください!]
† †
〖──正式名:疑似空理演算型 活動 補助 相互術 式〗
〖──略称:DETA-AIReS ──Hello, My Master〗
[なんかテンポ悪くなってないですか?]
『詰め込みすぎたのだ。前回投稿が五月。その間煮詰められていたのだ。濃くなるのは当たり前だ』




