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メイド共観察日記~それを編集して小説に~  作者: ナレーショナー: [データ削除済]
断章 壊れた世界線
24/27

2:悪夢は終わる

 ローゼは夢を見ていた。


 この屋敷にやってきた頃、よく見ていた夢だ。

 詳細も朧気(おぼろげ)な夢だ。

 殆ど思い出せない夢だ。





 遠ーーてーくー屋、

 ー暗ー窓ーーい部ー、  

 夜通し聞ーえーーてーる少ーのーえぎ声、

 むせーーるほーのー臭ー鼻をつー

 恐ーーに響ーー吠ー、

 ーかいー―プの味、

 幸ーそーなー供達ー笑ー、

 肌ー焼ー炎ーー気、

 向けーーた恨ーの視ー、

 憎悪ー眼ー映ーー人々、

 ーざ嗤う人、ヒト、ー





 ......死にかけの少女が、血にまみれた手をわたしのほおにあてた。


 


 どうか……………………




 何かがローゼの頬をなでる。


 目蓋(まぶた)を開けると、何も見えない暗闇の世界だった。自分が立っているのか、横たわっているのか、それすらわからない。


 そんな異常事態でもローゼは(どう)じない。(うご)かない。

 心が、動かない。


 と、どこからともなく、スイっと何かが近づいてくる。

 さも当たり前かのように堂々と泳ぐ魚だった。

 魚はローゼの目の前を通り、来た方向へ引き返していく。

 それはまるでついて来いと言わんばかりであった。


 だが、ローゼは動かない。

 付いてきてないことに気づき、魚はもう一度目の前を通過する。

 やっぱり、ローゼは動かない。




 ………………

 …………

 ……






 何度繰り返しただろうか。

 しびれを切らしたのか、魚はどこかに行ってしまった。


 それを見送り、朦朧としてきた意識を自覚しながら、ローゼはゆっくりと目を閉じる。








 ………………

 …………

 ……








「ああ、もうほら! 酸欠で死にそうじゃないか! キミが死んだらボクも一緒に死ぬんだからね! ああ、もういろいろ狂ったじゃないか!」



 不意に唇に柔らかく温かい感触を感じた。



 なにかを注ぎ込まれた気がした。

 とても大切な何かを。

 とても怖い何かを。

 とても暖かい何かを。



 意識の靄が晴れていく。

 目を開けるとそこは美しい海の中だった。

 太陽の光がサンサンと降り注ぎ、海水を煌めかせる。

 一面のサンゴ礁の間をカラフルな熱帯魚が駆け回っている。


 ふと視線を感じ、振り返ってみると、そこには大海淵が広がっていた。

 その深淵のギリギリ光が届くところに、海底よりも浅瀬の方が似合う魚が一匹いた。

 その魚はローゼを見ていたあと、くるりと、深海に向かって泳ぎ始めた。

 その姿はすぐに見えなくなった。


 ローゼはその後姿を見えなくなった後でもじっと見ていた。

 ずっと、ずっと。



 ようやく、視線をそらしたローゼの耳のそばで声がした。


「吸血鬼が眠る部屋―――その隣の仕事部屋にある両袖机。左側下から二段目の中。それがキミのスタートラインだ」


 振り返るが誰もいない。ただ深い闇が広がるだけだ。


 声は続く。


「さあ、お目覚めの時間だ。ただ、ボクがおはようを言えないのが、少し残念だけどね」


 フ、と体が浮く。

 そして海面へと浮上していき、




 ローゼは目を醒ました。
















「はあ、もう、あんなに気に病む、気を病むことないのに。だけどそんなに想ってくれていたってこと自体は、シシッ! うれしいじゃないか!」




「でも、それじゃだめなんだ。ボクたちはもういないからね」

「だから、自分の心象世界で溺れることになるんだよ」

「キミが死んだらボクたちも死ぬってのに。本末転倒じゃないか」

「これ以上はボクでは守りようがない。――女神さまも何かするようだし、いい機会だと思ったんだ」

「だから、キミを解放しよう。不完全でもこれからだ」

「ボクたち以外のつながりを見つけなきゃ。だから、聞こえないだろうけど言うね?」


「いってらっしゃい」


 どこか旧い時の中でシシッと笑った。


[ええ、願いは叶えましたよ? 優しくて残酷な女神さまが、できる限りの権限を使って]







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