1 勝気で寂しがりなお嬢さまとズレてるメイドと……
皆様初めまして!
この度投稿させていただく[削除済み]と申します。
――あ、この情報はまだ公開できませんか。
私自身で自動修正機能をつけたはいいですけど、書きにくくなりましたね。
あ、いえ、こちらの話です。
ごほん、気を取り直して、
どうぞ、ごゆるりとお楽しみください。
コツコツと、
窓と扉が並ぶ薄暗い大理石の廊下に足音が鳴り響く。
音の発生源は、夜だというのに
カーテンを開けながら廊下を進む。
突き当たりには、
周囲の扉と装飾の格が違う部屋があった。
その部屋の前に着くやいなや、
人影は何を思ったか、立ち止まった。
そして、唐突に、
満足した顔で頷き、
音を立てずにドアノブを回した。
† † †
「で、説明して貰おうかしら」
さっき部屋に入っていったメイドが、天蓋付きベットの横で正座させられていた。
「何で夜、目が覚めたら私の横にあなたが寝ているのかしら」
「申し訳ありません。起床の時間より早く寝室に着いてしまいまして。思いの外、疲れていたらしく、睡魔に負けました」
「いや、それ説明になって無いからね。私が聞いていることは、何で私のベットで寝ていたの かって話。普段は扉の前でモーニングコールしてくるじゃない」
「それはですね、あれです。睡眠をきちんと取るためは、上質な寝具で寝るべきですから」
「へ〜、あなたこの前、机に突っ伏して寝ていたじゃない。熟睡だったわよ」
勿論真相は違うのだ。
ただ、口が裂けても言えないことだが。
主人と同衾、つまり一緒に寝たいだけだなんて。
どうしようも無く、口が裂けても言えないのだ。
「そんなことより、お嬢さま。早くお召し物をお換えにならないと、風邪を引きますよ。それとも、見せつけているのですか? 魅惑のロリぼでぇを」
メイドは誤魔化しにかかった。
お嬢さまは起きてすぐメイドを問い詰めていたから、スケスケで風通しの良いネグリジェ姿のままなのだ。
ネグリジェのお嬢さまは可愛らしく、くしゃみをしたあと頬を染めた。
「女同士でしょ。見せつけてどうするの?」
溜息1つ。
「もういいわ。この件は不問にします。朝食の準備をして頂戴」
命を受けたメイド―――ローゼ・キュリエードは
少し落胆したように顔を伏せた。
直後、凛とした雰囲気を纏い、
「承りました」
と述べ、部屋の中から厨房へ向かった。
「………」
追い出した者、残された者は、ハァーっと溜息をついた。
† † †
ここはラングドニ邸。銀髪碧眼のメイドローゼ・キュリエードと、金髪緋眼のお嬢さま二ルソニア=A=ラングドニが住んでいる。
以上説明終わり。
え、短いって? 真面目にやれって? そもそもお前は誰だって?
[その疑問は過去の、いや未来ですかね? まあ、そのうち私が答えますね]
さて、私についての疑問は置いといて、
説明という名の設定でも騙りますか。
おっと、嘘言うつもりは無い。
語りますかっと。
このラングドニ邸がある場所は、アラスト大陸の左側。
アラスト、ゴンドール、ファフクリ。
この3つは三大大陸と呼ばれている。
アラストには主に、人が、
ゴンドールには主に、亜人(人に似て似ざる者。エルフ ドワーフ 獣人など)が、
ファフクリには主に、魔物が、住んでいる。
∵の右側がアラスト大陸。
∵の下側がゴンドール大陸。
∵の左側がファフクリ大陸。
さっき記述した通り、アラスト大陸左側に、詳しくは海岸沿いに、ラングドニ辺境伯領がある。
二ルソニアはあれでも、れっきとした貴族なんですよね。
お嬢様なんですよねー。
何が言いたいかは別にして。
閑話休題
海に領土は面しているが、深い森に邪魔され、手出し出来ない。
魔物も多い。色々いる。
さて、そろそろ彼女たちの食事が出来たようだ。
ここまでにしておこう。
また、随時説明する。
† † †
「本日の朝食は、昨日の野菜のスープ、ゆで卵、ベーコン、バター付き白パンになります」
運ばれて来た物を上品に平らげる二ルソニア。
やはり出来るメイドなのか、ローゼは主が一息ついた所に、紅い液体で満たした水晶のワイングラスを、テーブルに置いた。
ちなみに、先程まで食事の邪魔にならないように背景と化していた。
ワイングラスを置く時も、気配を減少させていた。
メイドさんが通常持っている技能ではない。
そして、奴は何か期待するように目を輝かせている。
スッ。 ビクッ‼ ガシャン‼
結果、二ルソニアは、
突然横から現れた手に驚き、
身体が跳ね、膝がテーブルにぶつかった。
衝撃で皿が、食器が、宙を舞い、床に叩きつけられる。
しまいに、聞こえてくるローゼの失笑。
……いわゆる駄メイドだったらしい。
† † †
割れた皿の後処理も終わり、
二ルソニアは、改めて紅い液体に口をつけた。
鮮血を嚥下するたび、妙な色気を帯び、顔は恍惚の表情を浮かべていた。
そう二ルソニア=A=ラングドニは吸血鬼。
「ローゼの血液は濃厚で美味しいわね。仕事は...(催促すれば)出来るし、料理も血も美味しいし、」
溜息1つ。
「これで、いたずら好きと、馴れ馴れしさが消えたら完璧なんだけど」
「失礼な。元から私は壁です。……何間違えているのですか? それだと私がまな板みたいじゃないですか」
[え、なんで修正入れたのに何で分かるんですか? 『完璧です』を『壁です』って書き間違えかけてすぐに直したんだけど。あれ? 反映されてない? 直しておきましょう。 あ、どうも、未来の私です。まだ私については説明しません。続きをどうぞ]
† † †
「失礼な。もとからわたしは完璧です。どこら辺が馴れ馴れしいのでしょう。厚かましいのは、お嬢さまでしょうに」
溜息一つ。
「そういう所が馴れ馴れしいのよ」
一拍間が空いて、ようやく気づいたのか、
「私厚かましいの?!」
少しズレた反応をする世間知らずのお嬢さま。
「そりゃーねぇ(笑)」
言いながら全身を、ジロジロ見るローゼ。
もはやこの時、敬う気はゼロに近い。
からかわれたと分かり、引きつった笑みを浮かべる二ルソニア。
「……まあ、いいわ。不毛な掛け合いはやめましょ。今日のスケジュールは?」
ローゼは少し項垂れ、顔を上げ、
メイドは答える。
「本日のタイムテーブルは、正午(真夜中)まで領主の事務仕事。そこからは、今日のメイン。紅月祭です」
紅月祭
それは、吸血鬼たちのお祭りだ。
先代のラングドニ辺境伯が世界に広めた祭りだ。
一年の中で一日だけ月が紅く染まる日がある。
昔は不吉の象徴だったが、
今では酒飲み共に、愛されている。
二ルソニアは、前半イヤーなお顔をしていたが、紅月祭と聞いた時、神の啓示を受けたかのようにパァーッと花咲いた。
「もう、紅月祭の時期なのね。そういえば、今日であなたと契約してから十年たつのね。おおきくなったわねー」
しみじみと、近所のおばちゃんっぽいことを漏らすお嬢様。
「ええ、お陰様で、身長も胸も器も胸も、お嬢さまより大きくなりました」
ローゼは二ルソニアの躰を見渡して、
「それにしても、二ルソニアお嬢さまは、まったく変わりませんね(笑)」
哀れみの目を向けた。
ローゼ16歳。二ルソニア外見12歳。
高校生が、背丈が自分のお腹までしかない小学生に張り合った瞬間であった。
「おいそれはどういう意味だ」
………無い胸を張りながら、青筋立てるお嬢さま。
それを無視しながら、
「さ、早くお嬢さま。お仕事の時間です。もし、しないのなら、私もサボれるのですが」
同時に、ニート宣言も―――言外に祭の時間が削れますと伝えた。
「仕事はするわよ!? あなたも祭までには、間に合わせなさい!!……人選間違えたかしら」
もちろん、お嬢さまの青筋が増えたことは言うまでもなかった。
† † †
真夜中、吸血鬼は黄昏ていた。
人が寝静まる時間ではあるが、街では、酔っ払い共がまだ騒いでいた。
人が寝静まる時間ではあるが、黄昏ていた。
周囲に人はいない。
そもそも森の中なので、目に入る場所に家がない。
紅い月を見てボーっとしていると、いつの間にか、隣にローゼが座っていた。
ちなみに、
ここは地元の住人から『お化け樹』と呼ばれる
全長20メートル弱の木の上だ。
5メートル地点の洞にある二ルソニア特製秘密基地なのだ。その洞の前にある木の枝にニルソニアは座っていた。
「あら、早かったじゃない。普段通りならもう少しだけかかると踏んでいたのだけど」
「完璧メイドのローゼちゃんからすれば、あのような仕事、二ルソニア様の―――失礼、赤子の手をひねるようなものです。」
「ねぇ、ローゼちゃん。あなたの発言間違いだらけよ? ちょっとそこの裏まで顔貸しなさい」
二パァ、と満面の笑みを貼り付ける二ルソニア。
空気が張り詰める。
さすが、腐っても吸血鬼。
常人が浴びたら、失神する威圧を放っている。
が、10年間いじり続けてきた完璧メイドローゼちゃん(自称)には、効かず
「お断り申し上げます。結果は分かりきっていますから」
と、なめた口をききながら、いつの間にか用意していた酒を傾ける。
「ローゼ、それは?」
「今日のために取っておいた、とっておきの安酒です」
「どうして安酒なのよ」
「本番は明日。二ルソニア様のお誕生日ですので」
笑いあう二人。
いつの間にか険悪な雰囲気は消えていた。
数秒後、
何事も無かったかのように、差し出される手。
恭しく酒をグラスに注ぎ、
手渡すローゼ。
なみなみに注がれた酒
スーッと細まる緋眼。
見事なジト目を醸し出していた。
「どうして、水面が盛り上がるほど入れているのかしら?」
「あ……申し訳ございません」
只々心ここに在らずだったようだ。
素で気づけなかっただけだった。
悪気はなかった。いいね。
手を少しプルプル震えさせながら、
ワインを零さぬよう、
ゆっくり味わう。
心地よい風に吹かれながら、
「あなたを初めて見てから十年か。早いわね。ああ、今年も契約更新ね」
感傷にも浸る。
ローゼの方を横目で見て
「あなたの仕事のおかげで、私は生活出来ているからね。いなかったら、領主の仕事に専念できないもの。また、1年よろしくね、ローゼ」
笑みを作った。
「承りました。ご主人様」
深々と頭を垂れた。
だが、神妙な態度も長くは続かず、
「お嬢さま。領主の仕事といっても、実際は町の役人頼みで、書類の処理だけじゃないですか」
お嬢さまニート疑惑にメスを入れた。
二ルソニアは、肩の位置まで手を上げ、
「人間のことは、人間に任せるわ」
やれやれと、オーバーアクションを取って誤魔化した。
そんなたわいも無い会話が続いていく。
夜が更けていく。
† † †
紅月祭は、お開き。
あと片付けも終わらせ、ベットに入るローゼ。
自分の部屋の天井をボーッと見あげ、思う。
(二ルソニア様は、先程私のおかげでやってこれたなどの節をおしゃっていたけれど、とんでも無い。
私はあなた様がいなければ、こうして思考することさえ出来なかったでしょう。私の方が救われているのです。
私は、
十年前、私を買って頂いた、
いや拾って頂いた恩返しがしたいのです。
なのに……なのに……、
二ルソニア様は何も教えてくれません。
何も探させてくれません。
何も知らないから、分からないから、
許してもらえないから、何も、何も出来ないのです。
1番喜んで貰えることを出来るのが望ましいのですが、何がいいのかサッパリわからないのです。)
支離滅裂なことを考えながら睡魔に沈んでいく。
† † †
紅月祭は、お開き。
日課の日記を書いて寝る。
人間が起床してくる時間に、ニルソニアはベットに入りこむ。
吸血鬼の『夜』がくる。
微睡みに沈んでいく意識の中で、
(また一年、たった。わたしはやっぱり一人。ずっと一人。今までも、これからも)
例年通りの言葉を吐く。
完全に墜ちる前、
例年とは違い、
黒く昏い闇の底と、
紅い月が照らす空の上で、
『ナニカ』が嗤った、気がした。
感想,ブックマーク,評価などをしてもらえると、この小説が主神に捧げるにふさわしいか否か、がはっきりとわかるので、大変助かります。
ところで、お嬢さまの名前には、顔文字は
入っておりません。=A=