あれから5年
なぜいきなり5年後かって?
面倒だからさ!
「おい嬢ちゃん、ここはお前さんのようなガキが来るような場所じゃねぇ」
「……誰が来ようと勝手じゃないですか?」
「ハッ、これだからひよっこは!」
「ひよっこ?戦ってもいないのに何を勝手に決めつけてるんですか?あっ、もしかしてこんな見た目だから雑魚だろうと思ってます?」
「そんなヒョロイ体で何言ってんだよ!ギャハハ!」
モヒカンの男に絡まれる、白いローブを頭から爪先まで覆った女の子は、売り言葉に買い言葉で男を煽っていく。
だが何を言っても強がってるとしか思われず、煽るのもうまくいっていなかった。
それもそのはず、ローブの女の子は今日初めて冒険者ギルドに入ったのだ、誰も彼女の強さを知らない、初めて見る人だから舐められても不思議ではなかった。
「人を見た目で判断することしかできない豚は黙っててくれますか?」
一段低くなり、殺気が漏れ思わず困ってしまった女の子はしまったと思いつつも男に顔を向けない。
「んだとてめぇ!」
激昂し、殴りかかってきた男を女の子は軽々と避けながら男の頰を張り手した。
そう、張り手をしたはずなのだが、男は冒険者ギルドの壁に叩きつけられた。
「あちゃー、やっぱり加減が難しいなぁ」
女の子は知らず知らずにそう言った。
女の子の名前は……ルイ。
5年前に人形へと転生した少年である。
僕は今、自分の張り手の威力に戦慄していた。
この5年間、死に物狂いで強くなった甲斐はあったと自分でも思う。
最初なんて魔力が少ないせいで1年ぐらい魔力の強化をし続けたのはなかなか苦い思い出だ。
進化も何度もしたことを覚えている、最初のお目目ブランコ、部位欠損、2回進化したらようやく無くなったのもなかなかだと思った。
そして2回進化したときに魔物名が生き人形になった時はすごく感動した。
爛れた人形→カビた人形→生き人形、具体的にはこんな風に進化した、ランクで言うとG→G→Fランクと変わった。
スキルもかなり増えている……もう面倒だしステータスドン!
魔物名:生きた自動人形[ユニーク]
名前:ルイ
LV:1
ランク:B
HP:48000
MP:55600
電力:61130
総合戦闘力:57917
スキル
【念力LV9】【言語理解LV10】【立体機動LV6】
【無属性魔法LV10】【魔力操作LV8】【生命力操作(極)】
【電力操作(極)】【装甲強化LV3】【仕込み武装Lv5】
【Aモード:プロトタイプ】【Dモード:プロトタイプ】
【アリスモード:試作型】【オートパイロット】
【???】【カラクリ製作】【物理軽減LV4】
【魔法軽減LV3】【衝撃軽減】【光合成】【魔力吸収】
【人形制作】【魔石吸収】【電撃吸収】【自動修復】
【休息強化】【高速演算】【多重思考】【並列演算】
【演算予測】【人形の異常耐性】
大分変わったと自覚するね、人間のランクは平均Dだから、これは大分強いのだと分かるだろう。
スキルもかなり増えた、進化は合計8回ぐらいしたのを覚えている、進化する過程でランクが下がったりすることもある。
人形種は無属性魔法以外を覚えることができない、それと同時に剣術なども覚えることが出来ない、ステータスアップ系のスキルも覚えられない、だからスキルは他の種族に比べると少ないと言える。
とまあこんな感じに育っている。
でも張り手がココまで強くなる理由がわからない?まああれだよ、電力と魔力を消費しながらやるとね、何倍かに跳ね上がるんだよね、片方消費だけでも2倍、両方消費で4倍くらい、つまり20万近く威力が出てるわけで…まあそういうことだ。
「何の騒ぎだ!」
ようやくギルドマスターらしき人物が現れた。
まあ確かに結構大きな音が出てたと思うし仕方ないか。
「喧嘩売られたので買いました。」
「お前は誰だ!関係ないなら黙ってろ!」
「マスター!その人が男をフッ飛ばしたんです!」
受付嬢に指摘され、マスターと呼ばれた男はルイに振り返った。
怒りとか恐怖とかそういう分かりやすい顔ではなかった。
値踏みするように、真偽を確かめるようにじっと見つめてくる。
「あの、とりあえず冒険者登録したいんですけど」
僕は我慢ならず、思わずそう口にしていた。
「……ちょっとこい」
そうなりまずよね~…と他人事のように思いながらもマスターと呼ばれた男について行く。
移動する最中、しっかりと伝えておくことにする。
「マスター?さん」
「ギリクだ」
「ギリクさん、私人間じゃないですよ?」
「ほう、それは興味をそそられるな」
「私人形ですよ?正確には自動人形です。」
「それは魔物でも人間でもないんじゃないのか?」
ギリクは振り返らずに声をかけてくる。
確かに、普通なら誰かの自動人形と思われても仕方ないだろう。
だけど僕は違うのだ。
「姿形はただの自動人形、それは否定しません。ですが私の生まれは朽ちた屋敷、最初は爛れた人形から始まって呪いの人形にもなり、必死に生きてきた結果、作者の居ない自動人形です、要するに魔物なんですよ?」
「ほう?そこまで言うなら証拠を見せてみろ」
流石のギリクも足を止め、僕の顔を伺うようにじっと見つめてくる。
だから僕はフードを外した。
運動が好きな女の子のような髪型が露になった、ただ違うのは、顔の左右に胸まで届く触角のような髪があることと、その色が透明感のある白髪である、触覚のような髪の先には音の鳴らない鈴が付いている。
瞳の色は赤い。
肌は白く、作り物かも分からないほど艶やかだった。
僕は頭の中でプログラムを繋ぎなおし、ローブの袖をまくって右腕を前に突き出した。
すると、蓋が開くかのように皮膚が盛り上がり、左右に開くと、中は異次元のような宇宙のような変な空間が広がっているのがよく見える。
そしてそこから四角い筒が出てくると、右腕が銃のような兵器に包まれ原型が無くなった、普通に考えても収容量がおかしいのが目に見えている。
だけれど、これが魔物の自動人形と人工の自動人形の決定的な違いである。
「なるほど…疑って悪かった、だが魔物と分かった以上ほおっておくことは出来ないんだが?」
「何言ってるんですか?僕は元人間ですよ?」
「……そうか、だがなぜ冒険者なんだ?」
「人間だった者が精一杯人間であると主張して何が悪いんですか?」
「……」
ギリクは何も言わなかった。
いや、僕がそう仕向けた。
人間であろうだなんて1ミリも思っていない。
この表情も、声も、全て人形になってから上手くできるようになった。
心臓が無くなったことで緊張することもほとんど無くなった。
まあ人形になった副産物だと割り切っている以上はもうどうにもならないんだなと僕は思いながらギリクの後ろを静かについていった。




