「オオカミ少年の真実」
嘘を吐いたときに、ふと思いついた物語です。
僕は、嘘を吐くのが下手だ。
隠し事は昔から苦手だったし、なにより、自分を偽ることが嫌だった。近所の子が飼っていた猫が死んでしまって、その子を慰めるどころか、「ミケは死んじゃったんだ。もう、戻らない。」と言ってしまい、その子を泣かせてしまったこともある。そもそも僕は、誰かに嘘を吐くということ自体に抵抗があった。でも……嘘を吐けないせいで、よくからかわれもした。すごく嫌だった。
だから僕は、あることを試してみた。なにかの本にあった、ばれないように嘘を吐く方法だ。
嘘が吐けないなら、嘘を吐かなければいい。ただ、嘘に見せかければいいんだ。つまり……「本当のことを言って、それを本当だと思わせなければいい」んだ。
やり方は簡単だ。嘘は吐かない。でも、本当のことをすべては言わない。核となる大事な情報を隠し、それとないことだけを答える。そして、あたかも「嘘を吐いているかのように」装う。それだけで、周りは勝手に騙されてくれる。これならちゃんと、“嘘は吐いてない”ことになる。
効果はてきめんだった。もう、誰も僕をいじめたりしない。でも……僕は、「嘘吐き」のレッテルを貼られてしまった。もう誰も、僕の言葉を信じない。たとえそれが真実だろうと、嘘だろうと。
ある日、村にオオカミが現れた。
月のない夜だった。
深い夜の闇の中に、ぎらぎらと光る目がいくつもあった。
結局、オオカミは何もしなかった。
でも……それから以後、オオカミは頻繁に村を訪れるようになった。
はじめは数匹だったのに、どんどん増えていって、今では20を超える数で群れを作っている。
まだ、オオカミたちは何もしていない。
でもそれも、もうじき終わる。
なんとなく、わかるんだ。
そろそろだってこと。
オオカミに気付いていたのは僕だけだった。
だから一昨日、僕はオオカミの存在を村のみんなに伝えた。でも……僕の言葉をまともに聞いてくれた人は、誰もいなかった。
僕が何を言っても、もう、信じてくれる人は、どこにもいないのだ。
でも……それでも。僕は、みんなに伝えなきゃいけない。
嘘吐きだと蔑まれても、疎まれても構わない。
もう一生、誰にも信じてもらえなくなってもいい。
ただ、僕は。
これまで本当の自分を隠す“嘘”ばかり吐いてきた、その償いではないけれど。
僕以外の誰かのために、本当のことを伝えたい。
だから僕は、僕以外の誰かのために、喉を枯らし、声を張り上げる。
嘘偽りない、僕の、僕自身の言葉で。
「オオカミが来たぞ!」
適量の嘘は人間関係を円滑に保つ上で不可欠なものです。
ホワイト・ライが良い例ですね。
嘘も方便、とはよく言ったものです。
もし、この世界に嘘がなければ……どうなるでしょうね。