残されたマフィンと私
チョコチップマフィンを食べてからすっかりハマってしまったジャックのために今日もせっせとマフィンを焼いている。
ホットケーキミックスも簡単でいいけど、やっぱり1から手作りのマフィンの方が色々手を加えれて美味しいよね。
ま、どんな風に作ってもジャックはうまいうまいと全部ぺろりと食べてくれるだろう。
手作り苺ジャムを使ったジャムマフィンが焼きあがるのを見計らったようにひょこっと顔を出したジャックに思わず頬が緩むんだ。
焼きたてのマフィンをはむはむと食べる姿はいつ見ても萌えます。ご馳走様です。
……思考がお兄ちゃんに毒されている気がする。
「それにしても、いつ帰れるんだろうね」
「むぐむぐ」
「食べてから喋ろうか」
「……うまいっ! もっと食う!!」
「ありがとう。で、さっきの話だけど」
「……俺、帰れると思うか?」
「いつかは帰れると思うよ」
「そ、っか」
「うん」
「……ひなは」
「ん?」
ジャックが寂しそうに耳をしょんぼりとさせて俯いた。
私が「急にどうしたの?」と顔を覗き込むと切羽詰まったように呟いた。
「……俺に帰ってほしいか?」
そう聞かれて時間が止まった気がした。
言葉が出ない。
私は何て答えればいい? 思考がグルグルと周って正解が出ない。
戸惑っているとジャックが口を開いた。
「お、お、俺は……」
ジャックが何か言いかけた瞬間ボワンっと煙に包まれて跡形もなく消えてしまった。
――え?
来た時と同じだ。何の前触れもなくあっという間に帰っちゃったらしい。
……
えええええええええええええ!!!
今!? このタイミングで!? 間が悪すぎる!!!
超気になるところで帰っちゃったじゃん!!! 何を言いかけたのジャックーー!!!
ついさっきまでジャックが手を伸ばそうとしていたマフィンを手に取るとまだ温かくて、どこにどうぶつければいいのかわからない感情が高ぶってぽたぽたと涙がこぼれた。
何で泣いてるんだろう私。
これでいいはずなのに。これでもとの生活に戻ったのに。これでまたいつもの日常が始まるのに。
ぎゅっとなって苦しい胸を誤魔化すようにマフィンをかじるとなんだかしょっぱくて余計に涙が出た。
「ジャックの為に大量に作ったのにどうしてくれんの! 嫌がらせのごとく送りつけてやりたい!」
誰も居なくなった空間に泣きながら叫んだ。




