機嫌の直し方
先ほどまで着ていた服が足元に脱ぎ捨てられ、はぁはぁと乱れた息が二人だけの部屋に響く。
「ほんとはこうされたかったんでしょう?」
「そんなこと」
「嘘はダメですよ? とても可愛いです」
「だからちが」
「顔を赤らめながら睨んでも逆効果です」
「なっ」
「あー本当に可愛い」
キッと目を吊り上げて睨んでくる美人さんに私は眼福眼福と手を合わせた。
「待ってください! 逆じゃないですか! なぜ私がこのようなドレスを!」
「だって罰ゲームですもん。女装イエーイ!」
「くっ……こんなに精神的ダメージがあるとは……」
「お腹いっぱいになりました! ご馳走様でした!」
がっくりとうなだれてる悪の親玉さんに合掌する。
先ほどのR18に突入しようとしていたあの空気から一転、私たちはカードゲームで盛り上がっていた。
あの時咄嗟に顔面を頭突きした私は鼻血を出した親玉さんに「ゲームをしましょう」と提案したのだ。
カードゲームで負けた方が勝った方のいう事を何でもきく。
親玉さんは力技で私をどうこうできたはずなのに意外に紳士で「いいでしょう」と乗ってくれた。
そしてゲーム開始。私、ポーカーだけは強いんだよね。引きがいいのでお兄ちゃんにも負けたことがない。
見事勝利を収めた私は何でもいう事をきくという権利を手にして「じゃあ女装で!」と力強く言った。
「普通はここから逃がしてっていう所じゃないんですか!?」と慌てふためく親玉さんを余所に部下の人たちが綺麗なドレスを運び込みあっという間に着替えさせてくれた。グッジョブ!
いやぁ、美形さんは何着ても絵になりますなぁ。 目の保養! 目の保養!
頬を赤らめながらちょっと涙目な悪の親玉さん……って長いから親分にしよう。親分さん、泣かなくても大丈夫です。とってもかわいいです。部下の人たちが写真撮りまくるほど可愛いです。その写真あとでお土産に下さいね。
さて、充分堪能したし可哀そうだからそろそろ着替えさせてあげようかと親分の背中の紐を解いて脱がしにかかった瞬間、バアアアンッ!! と大きな音を立てて正面の扉が開いた。
「あ」
三人の声が揃った。
私と親分とジャックの声だ。
見てはいけないものと見てしまったような表情のジャックと見られてはまずい姿を見られてしまった私と親分が固まる。
……
その後何も言わずにパタンとジャックが扉を閉めてくれたので急いで親分は足元に散らかっていたさっきまでの服を着て(勿論私も手伝いました)何事もなかったように涼しい顔で扉を開け、ジャックを中に通した。
なんだろう。私を助けに来てくれたはずのジャックの視線が冷たい。
うん。本当にごめんなさい。調子に乗りました。
今過去に戻れるなら15分前の私を全力で殴り倒したい。
「で、ひなを攫った目的は?」
「ジャックの秘められた能力が欲しいらしいですよ、ハイ」
「彼女の言う通りです」
「フーン。なんかずいぶんと仲良くなってんだな」
「そ、そんなことないですよね? 親分!」
「裸を見せ合った仲じゃないですか」
「見せ合ってない見せ合ってない。私が一方的に見ただ……け……」
「……」
じゃ、じゃっく?? なんか怒ってる? なんかオーラが怖いって言うか……。
「彼の秘められた能力がついに!!」
「別に。能力なんて秘められてねぇし」
「え」
「あの秘められた能力うんぬん、嘘だから。そんな能力ねぇから」
「そうなんですか!?」
「あぁ。そんなガセ情報で俺を襲ってくる奴なんていないと思ってたのに……いたんだな」
「そんな……」
親分ドンマイ!
凹みまくった親分はそれなら私たちに用はないと普通に帰してくれました。ほんといい人だったな。
なんていうか誘拐とか本当にあったの? って感じにあっさり解決。それでいいのか。いや、いいんだけど。
そんなことよりも帰る途中ずーっとムスッとしているジャックの機嫌をどうやって直すかを考えなくちゃ。
うーん。お菓子で釣れるかな……。
家に帰りお菓子をあげて、食べているジャックの脇腹をツンツンしながら「いい加減機嫌直してよ」と言ったら「別に怒ってねぇ」とそっぽを向かれた。
怒ってるじゃん。
いつもならお菓子を食べるときに耳がピコピコ動いて嬉しそうなのに今は全く動いてないし。
それを言ったら「俺の事よく見てるんだな」となぜか耳をピコピコさせていた。
なんで今機嫌直ったの?