94 ミカちゃんに毒されてる兄弟たち
「ウヘヘ、ゲヘヘヘッ」
頭のおかしいミカちゃんは、現在平原のただ中にぶっ倒れて気絶中。
気絶しているのに、それでも両手をワキワキ動かして、口から涎を垂らしながら笑っている。
あまりに重傷だったので、僕が肉体言語を使って気絶させたけれど、それでも未だに気持ち悪すぎる。
「ユウ、これ捨ててもいい?」
「……ダメですよ。こんなのでも一応僕たちの兄弟ですよ」
「お前もミカちゃんの扱いが、結構ひどくなったな」
あのユウにして、ミカちゃんをこんなの扱いさせるとは。ミカちゃんの変態レベルはマジでシャレにならん。
「うううっ、もっと、もっと揉んで大きくしないと……」
一方ミカちゃんの毒に感染しているフレイアが、地面に突っ伏したまま、両手で自分の乳をモミモミしている。
「フレイア、それはやめなさい。揉んだからって大きくなるとは限らないから」
「で、でもレギュラスお兄様。私、負けたのが悔しいです。もっと大きくして、これでお兄様を……」
「お前がミカちゃんに何を吹き込まれたのか知らんが、とにかく止めなさい」
「うううっ……」
生後1年ちょっとだけど、既にフレイアの見た目は年頃の乙女だ。
十代中ごろの見た目をしていて、胸を自分で揉むなんて行動を、人前でしてどうするんだ。
「うわあー、ボインボイン。これは……気持ちいいなー」
そしてレオンもミカちゃんに毒されているだけあって、モコ牛の巨大な乳を触っている。
乳首を掴んで握ってみれば、そこからは白いミルクがビューッと飛び出す。
「うわっ、顔にかかった!」
この暢気な弟は純真無垢だけど、ミカちゃんのせいで変な育ち方をしている。
「……これが男ならば誰もが憧れる母乳ですか」
そしてリズも、飛び出したミルクを舐めながら、そんなことを言う。
「美味しいですね」
『ドラドにもちょうだいー』
初めて見るモコ牛。
ホルスタインのように巨大な胸に、兄弟たちは皆興味津々で虜になっていた。
これは子供の好奇心と捉えるべきだろうか。
それとも、全部ミカちゃんが悪いで片づけるべきだろうか。
「ああ、頭痛が痛い」
「兄さん、落ち着いて。日本語がおかしくなってますよ」
ミカちゃんが関わると、本当ろくなことがない。
誰か、あの変態を欲しい人はいないか?
今なら、たたで押し付けてあげるから。
なお、この後スケルトン軍団の別動隊が更に獲物を追い立ててきた。
けれど、その獲物はモコ牛が50頭という、とんでもない数だった。
「……ワー、羊毛と牛乳が滅茶苦茶手に入る。嬉しいなー」
「兄さん、凄く棒読みですよ」
「嬉しいけど、なぜか素直に喜べないんだよ!」
限られた資源の中で生きてきた僕たちにとって、モコ牛は貴重な発見だ。
なんだけど、全部ミカちゃんが悪い!
なお諸悪の根源であるミカちゃんは、気絶から回復すると、最初に出会ったモコ牛の乳に張り付いていた。
「マミー、ミルクミルクをちょうだい。ミルクでちゅー」
――ブモォー
ミカちゃんは乳に吸い付いて、直接ミルクを飲んでいた。
あれが子供とモコ牛なら許されるけど、子供の中身がおっさんだからね。
動物相手とはいえ、あの変態おっさんは本当にどうにかならんかね?
とりあえず奇天烈な生き物ミカちゃんの事は、しばらく頭の中から消し去ることにしよう。
それが精神衛生的にいい。
「それよりモコ牛が50頭か。これだけの数を放牧すれば、毛を刈れるし、ミルクだって手に入る。
管理はスケルトンどもに任せて、牧羊犬みたいな感じで働かせるか。
いや、でもさすがにそれだけで管理するのは無理だろうし……ブツブツ」
「あの、兄さん?」
「ユウ、お前がモコ牛の放牧してみないか?
ミルク飲み放題だし、楽しい労働ができるぞ」
「やりませんよ!」
せっかく僕が楽しい労働を提案したのに、ユウにあっさりと拒否られてしまった。
なお、ミカちゃんに放牧は任せんぞ。
あのおっさんにモコ牛を任せると、ろくなことにならない気がする。
「マミー、マミー」
というか、確実になるな。
可能であれば自宅の近くでモコ牛を飼育できればいいけど、自宅周辺は草が生えていない。
先ほどからモコ牛は草を食べているので、草食なのは確実。
僕たちの生活は自宅がメインなので、草原で放牧しても、自宅との間を毎日行きなんて来できない。
放牧したいけれど、それだけの人手がないので無理か……。
「仕方ない。羊毛とミルクを取って、後は放してやるか」
「肉はいいんですか?」
「こいつらは肉にするより、生かしておいた方がいいだろう。今度会った時に、また毛とミルクが手に入ればいいし」
そう結論付けて、僕たちはモコ牛から羊毛とミルクを手に入れた。
もっとも水筒なんてものはないし、液体を入れられる革袋も用意がない。
なのでミルクに関しては、その場で飲んでお終いだった。
今度ここまで来ることがあったら、その時はミルクを入れるための革袋をたくさん用意しておこう。




