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90 死霊術の訓練をしよう

 マザーなしでの狩りの旅4日目。


 僕たち7人だけで獲物を探すより、スケルトン軍団に探索をさせた方が、獲物の発見と囲い込む効率が物凄くいい。

 数だけは多いスケルトンどもだ。人海戦術が有効な場合、こいつらはとことん有効な手駒になる。


 おまけに食事はいらないし、疲れることもない。

 食料を余分に携帯する必要がなく、それでいて働き続けることができるので、非常に素晴らしい労働力だ。




 ところでこんなに素晴らしい労働力だけど、僕1人しか作れないのはよくない。

 今のユウはアンデットを作る能力はあっても、それを自在に操ることができない。

 将来のことも考えて、ユウにも死霊術士として、ぜひ成長してもらいたいものだ。

 そうすれば2人でアンデットを作れるようになるから、作成効率が実質2倍になる。ただで働く労働者が、2倍の速度で生まれていく事になるね。


 フフフ、楽しいブラック労働王国の夢が広がっていくなー。



「レギュレギュ、お前今の自分の顔を見た方がいいぞ。絶対何かヤバいものに憑りつかれてる」

「そんなはずはないよ、ミカちゃん。ちょっと楽しい未来を想像してただけなのに。クククッ」

「ヒィー、今物凄く背筋が寒くなった!」

 おかしいな、肉体言語でミカちゃんを黙らせたことはあるけど、何もしてないのにミカちゃんが怖がってる。

 どうしてだろう?


「兄さん、これで見てみる?」

 首を傾げる僕の前で、レオンが水球を空中に浮かばせる。

 水球の表面には向こうの景色が空けて見えると同時に、光の反射でうっすらと僕の顔も見て取れる。


「楽しそうな顔だね」

「馬鹿か!絶対に憑りつかれてる!魔王……いや、ブラック企業の社長の顔だ!」


 それ、どっちも僕がやっていたことある職業から仕方ないね。

 フッフッフッ。



「レギュラスお兄様の笑われる姿、とても素敵」

「見ているだけで、背筋が震えるほどの力強さを感じます」

「GYAOー!」

 ミカちゃんには大不評だけど、妹たちは皆僕の事を嬉しそうに見ているね。

 うんうん、実にいい子たちだ。


 あ、でもフレイア。

 君だけは性悪の悪女にならないように。




 とまあ話が脱線してしまったので、元に戻して将来の労働王国建国の為、ユウの死霊術の訓練だ。


 とりあえず今日の狩りで倒した土狼、その食べ終わった骨を使って、10体のスケルトンを作らせてみる。



 作成自体は非常にスムーズにいく。

 ユウは闇の属性竜の性質持ちの上、ヴァンパイアの始祖の能力まである。

 死者を操る死霊術への適性は、これ以上ないほど高い。


 フレイアが簡単に巨大な火球(ファイア・ボール)を作る様に、レオンがいともたやすく巨大水球(アクア・ボール)を作るように、死霊術を使えるのがユウだ。


 当人にその気がないけれど、本気になれば僕より簡単にアンデットを作りまくれるだろう。



 ――ガタガタガタガタガタガタガタガタ

 だけどユウの作るスケルトン土狼は、ガタガタと口を動かしてやたらと煩い。



「ユウ、僕のスケルトンみたいに、もっと大人しくできないかな?」

「無理ですよ。というか黙らせる方法ってのは、やっぱり……」

「労働は楽しいよ。お前、凄く働きたそうな眼をしているね、いいねその目が気に入った」

 僕が土狼の1体に語り掛けてあげると、それまでガタガタうるさかったのがぴたりと止まった。


「ねっ、簡単でしょう」

「簡単じゃねえ!もう死んでるんだから、ゆっくり休ませてやれよ!」

 なぜかユウでなく、外野のミカちゃんが叫んでる。


「はいはい、これでも取っておいでー」

「骨だー、がおぉぉぉー」

 面倒臭いので、スケルトンの頭の骨を取って、適当に放り投げた。

 それに向かって、ミカちゃんだ全力疾走していく。


「いいなー、僕も欲しい」

「レギュラスお兄様、私も構って下さい」

 レオンとフレイアも、骨っ子を投げてほしいらしい。なのでスケルトンの前足をもぎ取って、放り投げる。

 すると犬みたいに尻尾をパタパタ振りながら、投げた骨に向かって全速力で駆けだして行った。


 レオンはともかく、なんだかんだ言っても、フレイアもまだまだ子供だな。


 ――パタパタパタ

『ドラドもー!』

 リズも尻尾をフリフリ、瞳を輝かせて期待している。ドラドも口の端から涎を垂らしていた。

 なのでスケルトンの後ろ足をもぎ取って投げた。


 この2人も元気に放り投げた骨に向かって、全力で駆けていく。



 なんてしてたら、先ほど黙らせたスケルトン土狼が、胴体だけになっていた。

 すでに死んでいるからもう死なないけど、手足をもがれてしまえばもはや動くことができない。


「ユウ、おやつ食べる?」

「……ううっ。スケルトンより、僕らの方が明らかに鬼畜すぎる」

 死霊術のスケルトンってある意味恐怖の象徴だろうに、僕たち兄弟から見れば本当にただのおやつだよ。


 ユウもなんか後ろめたそうな顔をしているけれど、僕が試しにスケルトンの肋骨をもぎ取って放り投げたら、一瞬ためらった後、その後を追いかけて走り出した。

 その時、尻尾がちゃんとフリフリと機嫌よさそうにしていたのを、僕は見逃さなかった。


「ユウも既に日本人でなく、野生生物に成り下がってるな。バリバリ」

 ユウが肋骨に食いつく姿を見ながら、僕も残った骨をおやつにして食べた。


 なお貴重な労働用スケルトンが1体、僕たちの腹に消えてしまったわけだけど、問題は何もない。

 まだ骨どもは、いくらでもいるのだから。




 しかし死霊術の訓練が、ただのおやつタイムになってしまった。

 これではいけないので、おやつタイムの後、再び死霊術の訓練に戻る。


「それでだ、アンデットを黙らせる。つまり操りたいなら、まずは作ったアンデットに舐められないようにすることだな。

 アンデットは基本的に生者に対しての恨みが強いから、それを押さえつけなければ最悪術者に対しても襲い掛かってくる」

「……」

「生み出すときに脅迫や脅しを掛けると、案外簡単に言うことを聞くようになるぞ」

「脅迫に脅しですか……」

「ユウの不得意分野だな」


 ユウは真面目で優しい性格をしているので、こういう分野は極端にダメだ。

 前世では喧嘩とかした事がないタイプだろう。


 もっとも20世紀ならまだしも、21世紀の日本で喧嘩をしたことがある子供なんてのは、よっぽど特殊な部類になるかもしれないけど。



 なお、脅しと言えば、

「メシー、ガリゴリバリバリ」

 ミカちゃんは兄弟にだって平気で噛みつく野生児だから、スケルトンどもも逆らわない。

 ドラゴニュートならミカちゃんに噛まれても痛いで済むけど、スケルトンの場合はひと噛みで骨が木っ端微塵だ。


「骨を少し強めに焼くと、普段と違う味がするんですよね」

 そしてフレイアの場合、下手をすると巨大火球(ファイア・ボール)一発で、スケルトン軍団を蒸発させることができる。なのでスケルトンどもも大人しくなる。



「あの2人ぐらい脅しを掛けられれば、スケルトンも黙って従うようになるぞ」

「それって難易度が高いですよ。そもそも僕は喧嘩が強いわけでも、特殊な能力があるわけでもないですし」

「たまに魔力暴発させてアンデットを作るなんて、どう見ても特殊能力だろ」

「ヴッ……」

 なんだろう。

 ユウはもしかして、自分の事をただの平凡な人間とでも思ってるのだろうか?

 それは凄い勘違いだよ。


「だいたい喧嘩が弱くても、僕らってもう人間じゃないんだよ。今の僕らが素手で人間と戦ったら、ワンパンでとんでもないことになるから」

「そんなに僕たちって強いんですか?」

「強いよ」

 そう言いながら、僕は地面にパンチを入れた。


 ――ボガンッ

 と音がして、地面の土が吹き飛んで、直径3メートルの穴が地面に出来上がる。


「本気出さなくてもこれだもん。本気で人間と殴り合ったら、マザーがミンチ肉作るみたいに、人間が簡単にはじけ飛んじゃうよ」

「え、ええー!」

 ユウが狼狽えてる。


 ところがユウだけでなく、兄弟たちの反応もおかしい。

「……いや、それができるのはレギュレギュだけだから。俺もそこまでパワーないって」

「私も拳では無理ですね。炎でなら、それくらいの範囲の地面を溶かせますけど」

「僕は無理ー。アクア・ブレスでモンスターを吹き飛ばしたりはできるけど」

「レギュラス兄上は特別です」

『ドラド、土魔法使えば簡単にできるよー』

 なんか外野がいろいろ言ってるな。


「ほら、皆もああ言ってるから、拳だけでこんなことできるの兄さんだけですよ」

「いやいや、そんなことないって。それにユウってヴァンパイアの始祖の性質持ちだから、普通のドラゴニュートより身体能力が高いはずだから」

「いや、そんなことないですって。だいたい僕、いつもミカちゃんにいいようにされてるし、皆より弱いし……」

 事実を述べていくユウ。

 自虐で言ってるわけではないと思うけど、確かにユウは僕たち兄弟の中で一番弱い。


「ユウ、確かに君は兄弟の中で一番弱い。けれどそれは自分に戦う気合がないのが原因だ。身体能力が高くても、いつも逃げ腰でいるから弱いだけだ。体以前に、心が弱いのが問題だ」

「ヴッ」

 自宅だけにいた頃は、兄弟の教育をしたり、生産の手助けをしてくれて、大変役立ってくれたユウだけど、野生で生きていくには弱すぎる。

 体でなく、心が。


 日本のような高度な文明の中で生きていればそれでよかったんだろうけれど、今の環境では、そういう考えでは生きていけない。


「これはユウを鍛える必要があるな」

 と、僕は結論づけた。


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