89 スケルトンを調教
マザーなしでの狩りの旅3日目。
お昼までは土狼を食べて過ごし、その後は満腹に任せて惰眠を貪った。
なお僕たちが眠っている間周囲を警戒しているのは、スケルトン軍団の仕事で、彼らは主である僕の命令に従って、忠実に周辺の警戒に努めてくれた。
おかげで危険な野生生物のいる平原にいながら、自宅にいる様な安心感を持って休めた。
「よしよし、代表してお前には社畜警備員の名をやろう」
「違うだろう!それは名前じゃなくて称号だ。それもバットステータス全開の称号だ!」
土狼の中に生前は群れのボスだったのか、少し体格のいい奴が1匹いたので、そいつに名前を付けた。
でもミカちゃんは、この素晴らしい名前の何が気に入らないんだろう。
労働一等賞なんて名前を付けてあげた方がよかったかな?
「社畜警備員、お手」
なんて僕たちが言い合ってる間に、レオンが嬉しそうに尻尾を振りながら、社畜警備員の前で手を出していた。
「……」
「お手ー」
尻尾フリフリから、徐々に尻尾のふり幅が縮んでいくレオン。
「レオン、私にやらせてみなさい。さあ、お手よ、お手」
それを見ていたフレイアが、レオンを横に押しのけた。
尻尾がしょんぼりと垂れてしまうレオン。
「……」
そして相変わらず社畜警備員は、ピクリとも動かない。
僕の命令がないと、こいつは身動き一つ取らない。
「生意気ですね、ただの食べ物の分際で」
――ビクッ
なんて思ってたら、フレイアが口からチョロチョロと炎のブレスを吐きながら、社畜警備員を睨みつけた。
すでに死んでいるのに、動揺した社畜警備員は、フレイアの差し出している手にお手をした。
「いい子ですね。次逆らったら、その体を跡形もなく焼き尽くしますから」
――ガタッ……ガタガタガタガタ
フレイアに凄まれ、社畜警備員が震えていた。
フレイア、お前はいつからそんな怖い女になったんだ!
格下相手に手加減がなさすぎるだろう。
「ボリボリボリ。
フヒヒヒッ、フレイアたんのあの目に上目使いで睨まれながら、胸の谷間が迫ってくる。ク、クハハ、なんていい光景なんだ……」
あとおっさんが、せっかく作ったスケルトンの骨を食いながら、変な妄想をしていた。
「ミカちゃん、さっき食べたばかりなのに、もう食べてるの?」
「寝たら腹が減った!」
堂々と言い放つミカちゃんだった。
なおミカちゃんがスケルトンどもを完全にただの食料にしか見てなかったので、スケルトンどもがミカちゃんにも怯えるようになった。
既に死んでるから恐怖を感じなくてよさそうなのに、随分メンタルの弱いアンデットどもだ。
生前の記憶を引きずりすぎじゃないか?
とまあ、そんなことはあったものの、この日の午後は再び移動を再開して、僕たちは狩りの獲物を探したり、珍しい植物や鉱物の採集をしながらら進んでいった。
ただ僕は狩りの方には興味が薄いので、スケルトンどもに獲物になりそうなモンスターを探させた。
獲物を見つけたら社畜警備員にリーダーを任せ、スケルトン軍団で獲物の群れを包囲していく。
包囲した先で、兄弟たちに好きにモンスターを狩らせていった。
その間、僕は珍しい物の採集だ。
その結果、この日の晩には土蜥蜴スケルトンが12体、土狼スケルトンが60体になった。
獲得した獲物は、肉を削ぎ落として食べた上で、残った骨を労働用スケルトンへ作り変える。
なお土蜥蜴の数が減っているのは、僕らにとってスケルトンはおやつにもなるからしかたない。
兄弟が空腹につられて、つい食べてしまったからだ。
普通アンデットって怖がられる存在なのに、うちの兄弟たちにとっては、ただのおやつ。おつまみ感覚の存在でしかなかった。
本当、僕らって半分モンスターだよねー。
人間の感覚だったら、マジであり得ないわー。
「でもあんまり食べ過ぎないように。数が減るりすぎると、狩りの効率が落ちるから」
「はーい」
「モガモガ」
「聞けよ、おっさん!」
「ホゲエッ!」
理解を示す兄弟たちだけど、ミカちゃんだけは僕の言葉などお構いなしで、スケルトンを食っていた。




