表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/281

8 炎のブレスと水のブレス

 僕ことレギュラス・アークトゥルスは、今までに何度も死んでいる。だが、死ぬ前の記憶を留めたまま、何度も異世界転生を繰り返している。


 幾度となく経験した転生人生の中では、魔王や日本人だったことがあれば、逆に蜘蛛なんてものになったことさえある。



 失われることなく前世、前々世の記憶を持ち続けている僕だけど、その原因は最初の人生で師事したシリウス・アークトゥルスという名の師匠に原因がある。

 僕は師匠に飲まされた『不老不死の薬』によって、最初の人生では成長することがなければ老いることもなく、致死の傷を負っても再生するという、本当の意味での不老不死となった。


 なった……と思ったのだけど、残念なことに不老不死の薬は不完全で、最初の僕の人生は二万年が経過した後に、ある日突然体が灰となって消滅した。

 死の直前まで、僕は薬を飲んだ時の姿を保持し続けていたのに、いきなり死を迎えてしまった。


 肉体が失われ、魂と呼べるものはその世界に留まることさえできなかった。


 普通ならば死んでしまえば、それでジエンドだ。

 でも、師匠の言う不老不死の薬は不完全であっても、確かに不老不死の薬だった。



 僕は最初の人生が死で終わった後、次の人生で前世の記憶を持ったまま赤ん坊として生まれていた。

 二度目の人生では普通に成長し、やがて老いて死んでいった。


 しかし二度目の人生が終わった後、僕はさらに転生を果たして、三度目の人生を歩むことになる。


 最初の人生と違い、二度目以降に転生した肉体は、不老でも不死でもなくなっていた。

 普通に成長し、そして老いていく。

 怪我の治り具合は体に備わっている自然回復能力分だけであり、ひどい怪我を負えば、それが完全に回復することは決してなかった。


 でも、体と違い僕の魂は滅びることがなく、不滅の存在となっていた。

 ある意味では、死を超越する存在へなったわけだ。



 師匠の言う不老不死の薬は不完全ながらも、まぎれもなく不死の薬だったわけだ。

 というか、不老不死の薬という名前が悪い。

 もう少し紛らわしくないネーミングにすれば、薬の効果もわかりやすいんだろうけど。


 いずれにしても僕は、その時に飲んだ薬が原因で、死んでしまってもそれ以前の人生の記憶を留めたまま、転生を繰り返すことができた。




 で、転生を繰り返していて学んだことは、郷に入れば郷に従え、だ。


 前世は魔族で魔王だったけど、あの人生では小さい頃には何かの動物の頭蓋骨でできた鍋なんてものを使って、自炊していた時期もあった。

 今思い返すとドン引きだけど、あの頃は道具がなかったから、頭蓋骨を鍋代わりに使わないといけなかったんだよねー。


 あの時は、まるで原始人の生活だった。


 それを思うと、日本人だった頃の生活って本当に恵まれていたんだと思う。





 そして現在の僕は、ドラゴンマザーが持ってくる、かみ砕いたズタボロ肉を毎日食べるのが日常になっていた。

 最初こそ戸惑いがあったけど、そんなもの一週間もしない内に当たり前になったよ。


「メシーメシー」

 特に長女の奴は、適応能力が高い。

 僕以上に高すぎるものだから、自分の分を飲み込むようにして食べてしまうと、すぐに他の兄弟が食べている肉にまで手を伸ばしてくる。


「ワーン」

「ヒギャー」

「ヒーン」

 非力な兄弟相手に、長女は乱暴に肉を奪い取っていき、それを自分の口に放り込んでいく。


 無駄に強いんだよね、この長女。


 とはいえ、赤い髪をしている次女は長女の乱暴ぶりに対抗して、口から炎のブレスを吐き出して抵抗した。


 そう、炎のブレスだよ。



 僕たちドラゴニュート兄弟だけど、竜と人間の間の間な生物だけはある。次女には炎の属性竜としての能力が高いようだ。

 そのおかげで、口から炎のブレスを吐くことができた。



 と言っても、まだ生まれてそれほど経っていないので、吐き出すブレスの威力は弱い。

 マッチやライターが起こす火に比べれば強いけど、それが原因で僕たちの暮らしている木造の巣に、延焼してしまうほどの火力はなかった。


 でも、次女の吐き出したブレスを顔面に受けた時の長女の間抜けな顔は、随分見物だった。



「フハハハハ」

 と笑う僕に、長女はふくれっ面になって襲い掛かってきたけど、その時の僕は尻尾で長女の足を払って、地面の上に転ばしてやった。


 でも、この長女は野生児じみた性格をしてるので、地面に転ばされた程度ではへこたれない。


「ガー」

 と、地面に転がっても白い歯を抜き出しにして、再度襲い掛かってこようとする。

 なので、僕は地面に転がっている長女の背中に足を押し付け、身動きをとれないようにしてやった。



「チッチッチッ、まだまだ甘いね妹よ」

 長女の抵抗を抑え込んで、僕は余裕ぶる。


 何事も腕力で解決する癖が強い長女だけど、僕の前でそれは通用しないのだ。





 なお、長女が他の兄弟から肉をかすめ取ろうとするのはいつもの事。


 この時以外にも、長女は他の兄弟の食べている肉をいつも横取りしようとする。

 ある時は青い髪をしている三男坊に襲い掛かり、問答無用で腹に蹴りを入れて三男坊を吹き飛ばしていた。


「うわーっ、手加減なさすぎでしょ」


 過去に長女を蹴り飛ばして巣の外にまで吹き飛ばしてしまった僕が言うのもあれだけど、三男坊は巣を作っている木材の壁に激突して、気を失ってしまった。



 ただ、腹を蹴られたのが原因だったのか、三男坊は気絶しながらも、口から水を吐き出していた。

 水であって、ゲロじゃない。


 ……うん、なぜかね、口からありえないだろってぐらい水を吐き続けてたんだよ。


 これは水属性のドラゴンが放つ、水のブレス(アクア・ブレス)だと思う。


 ただ、気絶しながら吐き出す水のブレスは、どう見ても酔っ払いが吐いている光景にしか見えなかった。



 ……口から吐き出しているので若干涎臭い気がするけれど、透き通った透明の水を吐き出す三男坊は、上水道の蛇口みたいだ。

 以後、この三男は水道としてとても重宝する、便利な奴だと僕は思うようになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ