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82 兄弟たちの初狩

 ミカちゃんたちが狩ってる蜥蜴だけど、砂の中に隠れて近くに獲物が来るのを待っているので、砂蜥蜴と命名した。

 名前がそのままだけど、分かりやすいからこれでいいよね。


 で、この砂蜥蜴だけど、大きさは1から3メートルほど。

 主に口にある牙を使った噛みつきと、足の爪を使ってひっかき攻撃をしてくる。



 野生の生物と言うより、モンスターに分類していいだろう。


 とはいえ、モンスターと言っても我ら兄弟の前では……




 ――シャー!

 レオンの前で鎌首をもたげて威嚇する砂蜥蜴。


「えいっ」

 それに対してレオンは装備しているカニ甲羅の盾の縁を、砂蜥蜴の首に叩きこんだ。

 いや、それは盾だから、縁を使って相手を叩く武器ではないんだけど……。


 だけどドラゴニュートパワーと盾の強靭さによって、盾の縁で首を叩かれた砂蜥蜴は、「グエッ」という悲鳴を出して気絶してしまった。


「わーい、仕留めたー!」

 と、喜ぶレオン。


「気絶してるだけだから、ちゃんと止めは刺しておきなさい」

「分かったー、レギュ兄さん」

 ――ドガッ、ドガッ


 ブルーメタルタートルソードを頭に叩き込み、レオンは容赦なく砂蜥蜴を殺した。


 刃のない剣なので実はただの鈍器だけど、ドラゴニュートパワーによって剣の刀身は砂蜥蜴の頭の半分までめり込む。


 緑色の返り血が飛んで、返り血が降りかかるけど、レオンはそんなことはちっとも気にしてなかった。


 マザーの謎肉を食べてれば、たかが蜥蜴の返り血程度、何でもないから仕方ない。




「GYAOー!」

 一方ドラドは、土の属性竜の性質を持っている。


 土魔法で地面に干渉して、砂の中で爆発を起こす。

 そして爆発で吹き飛ばされた砂蜥蜴が、空中へとふっ飛ばされる。

 あとは地面に落ちてきた砂蜥蜴が逃げる前に、足でグチャッと踏み潰してお終いだ。


 マザーではないけれど、ドラドも体が大きい。

 砂蜥蜴の頭を踏み潰すか、胴体を潰すかすれば、それだけで砂蜥蜴は即死だ。


 さすがは外見がドラゴン。

 戦い方が実に野性的だ。




 そしてフレイアだけど、

「んー、どこにいるのか分かりませんね。えいっ」


 隠れている砂蜥蜴を見つけられないフレイア。

 だけど、「えいっ」の一言が危険すぎる。


 人差し指を上に向けて、そこに現れたのは直径10メートル規模の火球(ファイア・ボール)

「えいっ」の掛け声と共に、火球を地面に叩きつけた。


 ――ゴワッン

 という音がして、地面の上を炎が走る。


「……この辺りにはいないようですね。じゃあ次はあの辺を」

 砂蜥蜴がいなかったので、再度人差し指を上に向け、その先に火球(ファイア・ボール)を作り出す。


 今度は直径15メートルほど。


「フ、フレイア。それは危険だからやめておこう」

「大丈夫ですわ、ユウお兄様。それっ」

 ユウの注意も何のその、フレイアは微笑を浮かべている。

 それっの掛け声で、ファイア・ボールが再び地面にさく裂した。


「グギャー」

 砂場に隠れていた砂蜥蜴に命中したようで、火だるまになった砂蜥蜴が、その場で転がり回りながら火を消そうと必死になっていた。


「フフフ、見つけました」

 だけどそんな砂蜥蜴に、フレイアは容赦などしない。

 止めに口からファイア・ブレスを吐きだして、砂蜥蜴の黒焦げ焼きを作り上げた。


「……あれっ、焦げちゃいました」

「フレイア、頼むからもっと穏便にしよう」

「そうですね。今度からはもう少し手加減します。そうしないと食べられそうにないですから」

 顔が引き攣っているユウ。

 それに対してフレイアは、ニコリと微笑んでいた。


 今はいいけど、この子が将来怖い方向に育たなきゃいいけど。





 ところでフレイアはフレイアで不安になるけど、ユウはユウで不安になる。


「ユウ、見てないでいい加減狩りに行こうか」

 僕は地面の草を掘り返して見つけた、謎の実を見ながら言う。


「いや、僕は兄さんの手伝いをしようかと……」

「別にいいよ。それよりも僕らは一応野生の中にいるんだから、ユウも自力で生き物を仕留められるようにならないとね」

 そう言いながら、僕は実を齧ってみた。

 ものすごく渋みがあって、とても食べられたものじゃない。


 肉以外の食い物が欲しいんだけどな……。


「ペペッ、マズい。落花生ぽいと思ったけど、ここが野生だからいけないのかな?

 所詮品種改良してない原種か……品種改良していけば食べられるかな?」

「兄さんだって、採取作業してて狩りをしてないじゃないですか」

「ん、僕は別にいいんだよ」

 自宅にいた頃はユウは兄弟たちに勉強を教えたりして、いい保護者ぶりを発揮していた。


 けれど獲物(食べ物)を仕留めて運んでくるのは、いつもマザーだった。

 命を奪うという行いを、自分の手を汚さずにマザーが行い、肉を食べていればいいだけの身分だった。


 前世の日本人としての感性が強いユウは、命を奪う事への忌避感が未だに強い。


 まあ、前世日本人でも、ミカちゃんなんて例外すぎる生物もいるけど。

 あれの中身は、元日本人と言うより、原始人だからね。



 ところでユウの前世は17歳で死亡しているので、成人してなかったか。

 親の庇護下にいて、社会経験はしてないのかな?


「ユウ、これはドラゴニュートの大人への階段。社会経験みたいなものだから、狩ってきなさい」

 僕はもう一つ見つけた、謎の実を頬張りながら言う。

 さっきの渋い実よりは食べられる。

 でも、苦い。


 この辺に埋まっている実を食べられるようになるまで品種改良するとしたら、数十年とか、百年単位の時間が必要になりそうだな……。


「で、でも……」

 僕が考えている間、ユウは踏ん切りの付かない顔をしていた。


 面倒臭いね。

 ミカちゃんみたいにとは言わないけど、男らしく狩りぐらいして来ればいいのに。



 なのでお手本と言うわけではないけど、僕は人差し指を出して、

(とつ)

 と、魔法の言葉を口にした。


 指先から鋭く尖った風の刃を放ち、砂場に隠れていた砂蜥蜴の頭を一撃で貫く。

 殺した砂蜥蜴の頭から、緑色の血が砂場に滲んで染まっていった。


 僕のオリジナルルで、貫通力を重視した一点集中型の攻撃風魔法だ。



「さあ、これで獲物を仕留めてないのはユウだけだ。男らしく頑張っておいで」

「……わ、分かり、ました」

 説得と言うよりは単にユウの退路を塞いだだけだけど、ユウは小さな声で答えた。



 さあ、ユウにも頑張って初めての獲物を狩ってもらおう。


 もっとも僕はそんなことより、地面に転がってる石に興味があるんだけどね。

「この石は何の鉱物かなー」

 獲物を狩る事より、この世界にある珍しい物の採集だ。




 なお採集している僕の横で、ユウは覚悟を決めていた。

 装備しているブルーメタルタートルの剣を片手で握り締め、もう片方の手にはカニ甲羅の盾を持つ。


「い、いけるいける。やればできる」

 自分に言い聞かせているユウ。


 どこかで聞いたことがあるセリフだな。

 確か、熱血系のテニスの先生の口癖だったかな?

 あの人超晴れ男らしいので、これから1週間は雨が降らないかもしれないね。



 自分を勇気づけた後、覚悟を決めたユウは、砂蜥蜴の潜んでいる場所へ向かって行った。


 ――シャー

「う、うわああっ」

 砂場から出てくる砂蜥蜴に威嚇されて、へっぴり腰になるユウ。


 相手が弱気なのを見て取った砂蜥蜴は強気になり、ユウに向かって口を広げて噛みついてきた。


「く、来るなー」

 と叫びつつ、盾で何とか砂蜥蜴の突進を防御するユウ。


 へっぴり腰でもドラゴニュートの力があるので、蜥蜴の体当たりなんて真正面からでも跳ね返せる。


「うわあっ!」

 残念。

 やっぱりへっぴり腰だったらだめだ。ユウは砂蜥蜴の体当たりに力負けして、地面の上をゴロゴロと後ろ回りに何度も転がってしまった。


 土塗れになって、ものすごく無様だ。



 我が弟ながら、何と情けない。

 君はそれでもドラゴニュートかね?


 もっともそんなユウを視界の端に捉えつつも、僕は手を貸しはしない。

 これはドラゴニュートとして大人へなるための、通過儀式のようなものだ。


 まあ実際にはユウより、今拾った鉱物の方が気になるだけだけど。


 それに僕らの場合、砂蜥蜴に噛まれても、肌の鱗が頑丈だからダメージを受けないだろう。

 ゲームじゃないけど、いくら攻撃されてもダメージは0しか受けない。砂蜥蜴程度じゃ、負ける要素がない。



「うわ、あああっ、わあああっ」

 その後、地面の上を転がされたユウはパニックになっていて、出鱈目に手に持っている剣を振り回していた。


 その振り回していた剣が、蜥蜴の顔面を右から左に強打。

 パニックになっていても力のある一撃だったので、それだけで砂蜥蜴は吹き飛ばされて、砂地に血を流して倒れ込んだ。


 死んだかは分からないけど、あれだけのダメージを受ければ、しばらくは動くことができないだろう。



「うわ、うわああっ、ああっ、あれ?」

 そのあとパニックの収まったユウは、気が付くと目の前の砂蜥蜴が倒れているのに気付いて、物凄く不思議な顔をしていた。

 自分でやったことなのに、パニックで記憶が飛んでしまってるようだ。


「ちゃんと止めは刺しておくんだよ。反撃されたり、逃げられたら大変だから」

「あっ……はい」

 半ば茫然自失のユウだけど、僕はそれだけ言っておいた。


 生き物に止めを刺すこと自体は、マザーが既に僕たちに訓練させていたことだから、ユウにだってそれはできる。



 しかしユウの場合、戦うことへのメンタルが弱すぎるのが課題のようだ。


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