80 光物がお好きです
マザー抜きで改めて狩りへ出かけた僕たち。
今回も向かう先は西南西の方角。
マザー曰く、この方角が一番安全とのこと。
自宅の周辺は荒野になっているけれど、南側は荒野を抜けた先に巨大な森が広がっているとの事。
その森は木々が生い茂っているために視界が悪く、どこからモンスターが出てくるかわからない。
マザーなら森に生えている大木ごと足で踏み潰し、力任せにモンスターを蹂躙すればいいけれど、僕らにマザークラスの強さはないので無理だ。
視界の悪い場所での不意打ちは怖いので、初めて狩りをするには向かない場所だ。
一方自宅の西側は平原が続いていて見晴らしがよく、それゆえに獲物も見つけやすいとの事。
危険な生き物がいる場合も、いち早く発見しやすい。
てか、危険な生き物第1位は、間違いなくマザーだ。
僕たち兄弟以外の生き物にとって、マザーは出会えば勝ち目のない超巨大怪物なのだから。
平原は見通しがいい分、獲物の側も周囲の警戒がしやすい。
そのせいで、マザーがいる間は、獲物が影も形も見せなかったのだろう。
そんなこんなの話がありつつも、僕たちは狩りの旅へ出た。
出発して最初の日は、陽が沈むまでひたすら歩いて移動。
自宅の周辺は荒野が広がっていて、ここには生物が全くと言っていいほどいない。
「おやつ―」
たまに蛇や小さな蜥蜴がいる。
蜥蜴は小さくて食べられる大きさじゃないけど、蛇の方はおやつ感覚でミカちゃんが捕まえていた。
ふわりと翼をはばたかせ、空から急襲してつかみ取る。
「ワハハハ、メシじゃー」
――ガプリッ
そのままミカちゃんの口へ放り込まれる。
超野生児の勘なのか、ミカちゃんは蛇を見つける感覚が異常に優れている。
「いいなー、僕も欲しいー」
「ワッハッハッ、だがやらん。これは俺の物だ!」
涎を垂らすレオンを無視して、意地汚く蛇を頬張るミカちゃんだった。
背中から翼と尻尾がはえているけど、蛇をそのまま食べるなんて、愛らしい顔立ちの幼女がやる事とは思えない光景だ。
まあ、僕らは普段マザーのとってきた謎肉をいろいろ食べていて、血塗れの肉とか食べてるから今更だけど。
「レオン兄上、あれを」
なんて思ってたら、リズが遠くにとぐろを巻いた蛇を見つけた。
「おおっ。リズ、ありがとう」
獲物に逃げられると思ったのか、レオンはリズに小声で感謝。
先ほどのミカちゃんと同じく、翼をはばたかせて飛んでいく。
ふわりと跳んで、それから蛇のいる地面に大激突。
「ブギャッ!」
着地に派手に失敗。
ミカちゃんのようにはいかず、情けない声を出していた。
「まあ、レオンってば着地がなってませんわね」
「GYAOー!」
フレイアとドラドは、レオンにダメ出しだ。
「い、痛いー。でも、ちゃんと捕まえられたよ」
地面に激突しても、痛いだけで済むのはドラゴニュートの防御力故。
片手に捕まえた蛇を見せながら、レオンは僕たちの所へ戻ってきた。
だけどさ、その蛇って、
「レインボー巻き糞」
と、言うミカちゃん。
表現は酷いけど、物凄く蛇の事を的確に表す言葉だった。
蛇は七色に輝く鱗を持っていて、
『明らかに有毒です。
私、毒がありますよ。
食べちゃっていいんですか!?
死にたいんですか?』
って、派手な色で主張している。
「綺麗な色ですねー」
「GYAOー!」
でも、毒がどうこうなんてお構いなし。
フレイアとリズは、目をキラキラさせて光物に釘付けになっている。
ドラゴンは光物が好きとか、女性は宝石に弱いなんて言われてるけど、この女子2人はそれなのか?
(ドラドはともかく、フレイアにはあまりそう言う方向に成長して欲しくないなー)
僕の昔の女性経験のせいで、そう思うだけなんだけどね……
「いいでしょう。2人とも食べる?」
一方レインボーな蛇を取ってきたレオンだけど、ミカちゃんと違って、ちゃんと気配りができている。
そんなレオンに、2人はコクリと頷いていた。
「うふふっ、この綺麗な鱗は大事に取っておきましょう」
なお蛇の肉は食べたものの、フレイアは蛇の鱗に視線が釘付け。
ドラドも、「GYAOー」と言いながら、フレイアに「自分の分も取っておいてくれ」と催促している。
そんなわけでレインボーな蛇の鱗は、フレイアが使っているリュックに保存されるのだった。
なおいかにも毒がありそうなこの蛇は、見た目そのままに『レインボースネーク』と名付けられた。
蛇を食べたレオンたちだけど、腹痛とかを起こすこともなく、ケロリとしていた。
今まで僕らが食べてきた謎肉の中には、気味の悪い虫とかも含まれていて、中にはレインボースネークと同じで、「私毒がありますよ。食べちゃっていいんですか?死にたいんですか?」って、色で主張しているものもあった。
でもドラゴニュートだからか、そんな虫とか食べても、僕たちは平気だった。
毒への耐性も、おそらく人間とは比べ物にならないほど高いのだろう。
ところで、そんな兄弟たちの横で、僕とユウは簡易テントの敷設作業をしている。
まあテントと言っても、劣化黒曜石製の棒を地面に打ち込んで、あとは棒の先についているなめし皮の天井を張るだけの、簡単な作業をするだけだ。
そんなこんなで、マザーなしの狩りの旅初日は終了した。
ただ翌日、
「ああっ、鱗の色が落ちてますわ!」
「GYAOー!」
フレイアがリュックに入れていたレインボースネークの鱗だけど、時間がたったら色が落ちてしまうようで、ただの薄汚い蛇の鱗になっていた。
フレイアとドラドの2人はガッカリして、用済みになった鱗を地面へ捨てていた。
光物でなきゃ、この2人は喜ばないらしい。
(……いいかい、フレイア、ドラド。2人とも光物に虜になる、嫌な女に成長するんじゃないぞ)
妹たちの姿を見ながら、心の中でそう思う僕だった。
あとがき
もしマザーが上空から子供たちを見守っていたら……
マザー上空1000メートルにて待機中。
レギュラス「……未確認飛行物体(UFO)が空を飛んでる。てか、マザーの金色の鱗が光を反射してて、ここからでもいるのが分かるんだけど」
マザー上空3000メートルにて待機中。
――GGGGGYYYYYAAAOOOOOーーーー!!!!
(訳:ああ、地上にいる子供たちは大丈夫かしら、お母さん心配で心配でしょうがないわ)
ユウ「マザーの鳴き声が聞こえる。そのせいで他の生き物が全然姿を見せないんだけど」
マザー上空5000メートルにて待機中。
――GGGGGYYYYYAAAOOOOOーーーー!!!!
(訳:ちょと、遠すぎてうちの子供たちの姿が見えないわよ!)
レオン「あれ?マザーの声がどこかから聞こえるよー」




