79 狩りの準備
マザーを言いくるめて、兄弟だけで狩りに行く事にした僕たち。
そもそも自宅周辺にどういう生き物がいるのか不明なのだけど、よほどのことがなければ大丈夫だと思う。
あくまでも「思う」としか言えないのは、この世界について僕たちの知っていることがあまりにも少ないからだ。
僕たちはドラゴニュートで人間に比べれば強いけれど、自然界では人間はそれほど強い部類に属する生き物じゃない。
知恵と道具があれば強くても、素手の状態の人間なんて、自然界ではまともに生きていく強さがないだろう。
とまあ、グダグダ理屈をこねるものの、実際のところ自宅周辺に危険はないはずだ。
少なくとも僕たちが歩きで移動できる範囲ならば、強敵と呼べる生き物はいないだろう。
「なんで兄さんはそう思うんですか?」
僕の推測に、ユウが疑問を呈する。
それは少し考えればわかることだ。
「だってこの自宅の周辺は、マザーがいつも獲物を抱えて飛んでるんだよ。僕たちはマザーの子供だから問題ないけど、超巨大ドラゴンが住み着いてる傍に、進んで近づく生き物はいないでしょう」
「あっ、確かに」
僕の言葉で納得するユウ。
「それに近くにいる危険な生き物なんて、とっくにマザーに狩られて、僕らの胃袋に収まってるだろうから」
「……」
この1年、僕たちはゴブリンやオークだけでなく、巨大な銀色の狼とか、黒い肌の魔物とか、ミノタウロスとか……なんか訳の分からない物をたくさん食べている。
基本的に狩りは、自分の住処の近くから行っていくから、この辺りにいる大型の生き物なんて、マザーがとっくに狩ってしまっただろう。
「だから僕らの自宅周辺で、僕らに危害を加えられるほど強い生き物はいないって」
「よくそんなことに気付きますね、兄さん」
「まあ、転生するのはこれが初めてじゃないからね」
この説明をすると、僕はユウに感心……ではなく、呆れ気味に見られてしまった。
でも、伊達に僕も長く生きてるわけじゃないんだよ。
ところで狩りは1日でなく、数日は掛けるつもりだ。
マザーと行った時にも3日は出かけたままだったから、この辺りの探索をするついでに数日を考える。
ただ日数をかけすぎると、心配したマザーにまた食べられるだろうから、その辺は注意するつもりだ。
というわけで、そのために事前の準備もある程度しておこう。
家にあるなめし皮と、劣化黒曜石の棒で作った簡易式のテントをまずは持っていく。
「テントじゃー、キャンプじゃー、冒険じゃー」
それを見てミカちゃんが大はしゃぎ。
この子は子供か?
山か川に行って、初めてするキャンプに興奮している子供か?
まあ、ミカちゃんだからしかたないか。
それに物を運べる背負い籠も持って行くべきだろう。
狩りで手に入る肉だけでなく、探検先で見つけた植物や鉱物などを、持って帰れれば嬉しい。
手ぶらでは抱えきれないものも、籠があればそれなりに運べるはず。
とはいえ籠を作るには、それに適した素材が必要だ。
竹や葦があればいいけれど、それらは植物が原料だ。
まだそういう素材は見つけてないので、今回はモンスターのなめし皮を使って、籠でなく、リュックサックを作った。
「こんなものかな」
「お兄様は相変わらず何でもできるのですね」
「なんでもってわけじゃないさ。それに見た目も良くないし」
フレイアがリュックサックを見て感心するけれど、僕としては慣れない作業をして、何とか作り上げた物だ。
染色などもできないので、見た目は皮のままで、物凄く無骨。
「フフフ、これは私が背負いますね」
でもこんなリュックサックを、なぜかフレイアが気に入っていた。
あとリックサックを作って持ち運べる物の量が増えたので、リュックになめし皮を少し詰めておくことにした。
前回ミカちゃんが火だるまになって、服が燃えてしまった。
またやらかすとは思わないが、もしもの時の為の予備だ。
そんなこんなで狩りの準備をする僕たちだった。




