71 "ヒキニュート"初めて家の外に出る
とある日の事。
『いい、皆動いちゃダメよ。絶対に』
そう語りかけてきたマザーに、僕たちはいきなり食われた。
なんてこった、兄弟に食われるという忌まわしき蜘蛛人生。
あの時の光景が、脳裏でフラッシュバックした。
僕の転生人生には、いろいろと忌々しい過去があるけど、血族に食われてしまう経験はこれが2度目だ。
マザーは超巨大なドラゴンで、そのサイズはシン・ゴ○ラ級。
そう、シン・ゴジ○だよ。
しかもマザーの方は空まで飛べる。
で、マザーの口の中だけど、僕たちの住んでいる自宅に作った大広間並にでかい。
この中で遊び回れそうだね、ハハハ。
あと涎でベトベトしていて、舌が滅茶苦茶ざらついてる。
ざらついているというか、僕たちの肌にある鱗よりもっと大きい、返しの付いたうろこ状の組織で覆われていた。
マザーが肉を食べた際、この鱗の返しで、肉を削り取って食べるのだろう。
僕たちドラゴニュートの肌はこの返しで傷つくほどやわじゃないけど、人間だったらベロで舐められた瞬間に、血塗れの肉塊にかえられるんじゃないかな。
「アハハー、マザーに食われたー」
「ああ、兄さんが壊れた」
ユウ、君はこの状況でどうして冷静でいられるかな?
「わー、ボヨンボヨンして面白いよー」
「あら、とっても座り心地がいいですね。まるでクッションみたいですわ」
――コクリッ
レオンは、能天気にマザーのベロの上でジャンプして跳ねている。
フレイア、このどこがクッションだ!
あとリズ、お前も頷くんじゃない!
「これが、乳だったらなー」
おっさんの戯言には、もういちいち突っ込むものか!
なおドラドだけは、体の大きさの都合で、僕たちと一緒に口の中に入れられてない。
僕らが食われたら、次はドラドの番なんだろうな……。
もっとも、その後は食べられずにすんだ。
エレベーターの中で感じる浮遊感に襲われた後、僕たちはマザーの口の中からベッと吐き出された。
よかった、蜘蛛の時と同じことにならないで。
そして、マザーに吐き出された場所だけど……。
生まれてから今まで一度も外に出ることなく、自宅に引きこもっていたドラゴニート改め、"ヒキニュート"だった僕たちだけど、本日初めて自宅を出て、外の世界へとやってきました。
マザーに吐き出された僕たちは、なんと自宅の外にいた。
すぐ傍には、マザーの巨大な後ろ足が見える。
その反対側に広がっているのは、断崖絶壁にある僕たちの家から眺めていた、地上の景色だった。
と言っても、家のすぐ目の前は、毎日ドラゴンマザーが餌を運ぶために行き来しているので、草一本生えてない更地になっている。
そりゃ、シン・○ジラ級のマザーだ。
体の大きさだけでなく、体重にしてもそれに見合ったものがある。
結果、地面は重機で毎日踏み固められたのと同じ状態になっていた。
試しに地面を叩いてみると、コンコンと音がした。
地面が固められ過ぎて、コンクリートより硬いんじゃないか?
「ワー、外だー」
「広い……ですわ」
「……」
レオン、フレイア、リズと、それぞれ反応していく。
リズは黙っているけど、目は大きく見開かれて、外の景色に呆然としている。
「……チッ、これで自宅に引き籠ってのヌクヌク生活もお終いか」
「ミカちゃん、今までそんなこと考えてたんですか……」
「アホだな」
おっさんは相変わらずなので、ユウと僕は呆れてしまった。
「GYAOOO!」
なんてしている間に、自宅に1人残されていたドラドもマザーの口に入れられてから、地上へ降ろされた。
なお今のドラドは、ドラゴニュートでなくドラゴン体型の方だ。
初めての自宅の外に驚きながら、地面を駆けるドラド。
「あら、待ってくださいな、ドラド」
その後をフレイアが追いかけ、
「待ってー」
と、レオンも暢気に追いかけていく。
――GYAOOOOO!
『あんまり遠くまで行っちゃだめよ』
マザーが走り回る子供たちを見て、保護者らしく注意する。
「はい、心得ています母上」
子供たちを代表して、リズがそう答えた。
その後兄弟たちが暢気に駆け回っていたけど、一方でマザーは、ちょっと離れた場所で土を掘り返している。
前足を器用に使って、地面を掘り掘り。
程なくして、高さ20メートルぐらいの丘が出来上がっていた。
巨大なマザーにとっては、ちょっと土いじりをした程度の感覚だろうけど、20メートルの山だ。
(ドラド以上に優れた土木建築マシーンだな)
なんて僕が思ってしまったのは、病気みたいなものなので気にしないでほしい。
「でもあのクラスの重機があれば、山を作るだけでなく、運河を掘り抜くのも簡単か……ブツブツブツ」
「兄さん、マザーを重機扱いしないでください。それに運河なんて、どこに掘る気です?」
「ん、それもそうだな。まずは水源を見つける方が先だな」
「いや、そう言う意味じゃなくて……」
大丈夫だ、安心しろユウ。
僕だって別に水源を見つけたからって、すぐに運河を掘るつもりはない。
運河を掘ったら水運……いや、その前に水路を作って農地を整え、農作物の生産をして……ブツブツ。
「フフフ、労働力の確保が必要だな」
「兄さん、現実に返ってきてくださいよー」
僕は楽しい未来の構想にしているだけなのに、ユウに体を揺すられて、無理やり現実に引き戻されてしまった。
でも、僕はいつかこんな募集を出すんじゃないかな。
――農民募集中。労働時間は太陽が出ている間だけ。ただし日が沈んだ後は、楽しい副業が皆様をお待ちてしています。
とりあえずは副業としては、工場制手工業だね。
縄を編んだり、草履を作ったり。
あとは蚕があればいいよね。絹を生産して、それで……
それとも綿花かな?
でも綿花は水を大量に使うから、あまり大量に育てられないのがネックで……。
フフッ、いずれにしても夢が広がるなー。
あとがき(作者の独白)
こんなに……こんなに経つ(71話)まで、家から出ることすらできない話になるなんて、思ってなかったんだ……




