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70 女の魅力とレギュレギュのちょっとしたトラウマ

 さて本日もドラドは、ドラゴニュート形態になっている。


 変身(メタモルフォーゼ)の魔法をかけているのはいつも僕。この魔法はかなり高度な魔法なので、今のところ我が家では僕以外に誰も使えない。

 いつかドラドが自力で使えるようになればいいけれど、それはまだまだ遥か先の事だろう。



「ギャオー」

 本日もドラドは尻尾を振り振り、トテトテと走り回っている。


「フハハハハ、そのような速度では俺様を捕まえることなどできぬぞー。フハハハハー」

 ドラドはミカちゃんを追いかけているけど、あのおっさんは子供相手に手加減と言う物を知らない。

 なので、逃げる速度がやたらと早い。


 以前超高速移動して8人に分裂していたけど、その速度は伊達でない。


「末っ子相手に本気を出さなくてもいいだろう、大人げない」

「ナハハハハー」

 僕の注意も何のその。ミカちゃんは笑い声を高らかに上げて、ドラドから逃げ続けるのだった。



 大人げないおっさんと、愛らしいドラドの追いかけっこ。

 2人は髪や肌などの色が違うだけで、それ以外は双子のようにそっくりだ。

 なのに、この性格の差はなんだろうね。


 そんな2人を見ていたら、フレイアが僕の所へやってきた。


「レギュラスお兄様、実は相談があるのですが」

「なんだい、フレイア?」


 脱皮して体が大きくなったフレイア。

 相談はいいのだけど、僕の目の前で両腕を胸の下で組みながら話しかけてくるのはやめてほしい。

 だってさ、僕だって男なんだよ。


 ミカちゃんじゃないけど、ついつい視線が、その大きなものへ自然と動いてしまう。

 ……男の本能って、悲しいね。


 そんなこと考えてたら、前世や前々世で、僕の権力と金に群がってきたバカ女どもを思い出した。

 ……胃の中が、ちょっとムカムカする。

 とはいえムカムカするのは心の中だけにして、表情にまでは出さないようにする。


「お兄様、実は最近眠るとき、胸が邪魔になるんです」

「ああ、なるほど。確かにそれだけ大きいと大変だろうね」

 僕らドラゴニュートは背中に翼と尻尾があるので、うつ伏せにならないと眠れない。ところがフレイアは脱皮して、巨乳になってしまった。

 あまりにも胸が大きいと、うつ伏せで寝るのも大変だろう。


「じゃあフレイア専用で、眠る場所の床に穴を掘っておこうか」

「胸が収まる大きさの穴ですね。それなら、よく眠れそうです」

「なら早速穴を掘ろうか」

「はい」

 当人がいないと、作る穴の大きさも分からない。

 なのでフレイアを連れて、僕たちが寝る場所の床に穴を作る事にする。


 ――カンカン、コン。

 寝る場所の床は岩だけど、さすがにツルハシで掘るほどの大きさではない。なので、劣化黒曜石製のノミとハンマーを使いながら穴を掘っていく。


「これでどうかな?」

「ダメですわ。胸がつっかえちゃって」

「そ、そうか……」

 いかん、試しに穴に胸を入れながら寝そべるフレイアが、上目遣いに僕を見てくる。

 胸の谷間まで覗くことができて、この光景はかなり危険すぎる。


 先ほど感じていたムカムカが、さっきよりも強くなる。

 権力と金だけが好物の、煩い女どもが……女なんて、ろくでもない生き物なのに。


 目の前のフレイアが悪いわけではない。だが、昔のことがいろいろと脳裏をよぎり、腹の底に沸々と暗く重たい感情が溜まる。


 ――女ってのは、男を裏切る生き物だ。



「お兄様、どうかされました?」

「何でもないよ。穴をもう少し広げようか」

「はい」

 寝そべっていた姿勢から、体を起こすフレイア。


 赤色の長い髪が、肩から流れ落ち、艶めかしさがやたらとある。

 ただの妹だったのが、脱皮を1回しただけで女に化けてしまった。それも魔性の魅力を放つ女にだ。


「フフ、お兄様もやっぱり殿方なのですね」

「……フレイア、あまりミカちゃんに毒され過ぎないようにね」

「あら、私はお兄様に愛してもらいたいだけですのに」

 なんて言って、僕の顔を近くでのぞき込んでくるフレイア。


 近い!

 近すぎるぞ、フレイア!


 悲しいのは男の本能。さっきから僕は、フレイアの体のあちこちをチラ見している。

 そして同時に、胸糞悪い過去も思い出しそうになる。


「ゴホン、あんまり僕をからかわないで欲しいな」

「ウフフ」

 嫣然と笑うフレイア。

 いや待て、お前いつの間にそんな女になったんだ。

 お兄ちゃんは、妹がそんな風に育って……悲しいよ。


 いいか、フレイア。お前は絶対に、馬鹿な女になっちゃいけないよ。

 いつまでも純真でいて、男を誑かす女になってはいけない。



「……イイ……」

 なんて思ってたら、僕とフレイアのすぐ近くに、ミカちゃんがいた。


 ジーと無言で僕たちを見ている。

 いや違った。

 僕の事は眼中になしで、フレイアの胸をガン見している。



「フレイアちゃん、もっともっと膨らむように、お姉ちゃんが揉んで……ゴゲベフェー」

「さ、穴をもう少し大きく掘らないとね」

「あ、はい……」


 僕の中で、過去の女性がらみのトラウマが蓋を開けて蘇りかけたけど、ミカちゃんのおかげで正気に戻れた。

 ふー、よかったよかった。

 危うく、過去の暗い記憶に囚われてしまうところだった。


 そして僕の恩人であるミカちゃんは、相変わらずセクハラしようとしてたけど、今はとても大人しくしている。沈黙しているともいう。

 このおっさんは、やっぱり静かな時が一番いいね。面倒事を起こさないでくれるから。


 それとなぜか、フレイアが残念そうな顔していてるけど、なぜだろうね?

 そういう顔をしたらダメだよ。

 ミカちゃんみたいな馬鹿な男が寄ってきて、フレイアを口説こうとするから。



 その後僕は穴を大きめに掘って、そこに服などに使っている、なめし皮の予備を敷き詰めておいた。

 むき出しの岩だけだと辛いだろうから、これくらいはしておかないとね。


 僕の過去のどうこうに関係なく、フレイアの体を大切にしてやらないと。



 こうして本日も、何事もなく僕たちの日常が続いていくのだった。


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