67 魔法もレベルアップ?
我が家の兄弟たちの魔力操作が、危険域に突入している。
「GYAOOO!」
ドラドも脱皮して何ができるようになったのか確認したのだけど、自宅の100メートル下にある大地が、いきなりズガンという音を立てて、凹んだ。
地面が1メートルぐらい下へ凹んだけど、その範囲は1キロ四方を軽く超えていた。
「ドラド、お前は頭がいいね。いいか、絶対にその魔法を家の中で使うなよ」
「GYAOっ」
僕の言いたいことをよく理解してくれてるようで、ドラドはちゃんと頷いてくれた。
転生組でない兄弟たちでこれなのだ。
転生組のユウの場合など、
――ガタガタガタガタガタガタ
ドラゴンマザーの運んできた御飯のサイクロプスが5体。それが全部ゾンビになって動き出した。
以前はゴブリン程度しかアンデット化できなかったのに、かなり大きなものを一度にアンデット化できるようになったようだ。
『あら、動いたらダメでしょう!』
もっともドラゴンマザーが情け容赦なくゾンビ化したサイクロプスを、前足でまとめてペースト肉へ変えたけど。
マザーの強さの前では、アンデットサイクロプスごとき、造作もない存在だ。
普通人間が戦えば、身長3から6メートルの大きさがあるサイクロプスは、その大きさだけでも危険な生き物だ。
間違っても、人間では単独で戦っていい相手ではない。
おまけにゾンビ化すると、剣で切ろうが槍で突こうか、既に命がないので致命傷を受けることがなくなる。心臓や目を潰しても、それで動かなくなることがない。
不死身の肉体とは、死ぬことがなくなる故に強い。
もっとも、さすがに足や腕がもげたりしたら、動きに支障が生じるようになる。
マザーの場合、前足で体重をちょっとかけただけで、アンデットサイクロプスが、ペただのちゃんこ謎肉の塊となる。
動ける要素が壊滅して、それでお終いだ。
手や足どころか、全てが潰れてしまうから。
「ユウの能力より、相変わらずマザーの出鱈目さが際立つなー」
「ううっ、僕こんな能力欲しくない」
ユウはなんだか自分の能力を嫌っているようだけど、僕からすれば死霊術はとても便利だと思うけどなー。
主に、無料で疲れを知らない労働力を確保できるという点で。
さて、これで兄弟たちの能力は、あらかた確認した。
僕を除けば、残るはミカちゃんだけだ。
「フハハハハ、俺の弟妹どもがこれだけ成長したならば、このミカ様にも素晴らしい力が宿ったはず。
フハ、フハハ、フハハハハ。
いざ、主役補正。ここから俺のチート伝説が始まるのだー!」
――ガンッ
「ゲヒンッ」
まずミカちゃんを殴っておく。
「ミカちゃん、ここは小説でもゲームの中でもないからね」
「……は、はい。だから俺をぶつのはやめて。あと、その殺気がこもった視線、勘弁してください」
「……」
と、こんな脱線はあったけど、ミカちゃんの魔法も検証だ。
「ハハハ、見よ、浄化の光をー!」
ミカちゃんが神々しく光り輝いた。
目と鼻と耳、おまけで額。
頭にある口を除いたすべての穴と、おまけから、まばゆい光が煌々と輝く。
「蛍光灯?」
「だよね。脱皮前が60ワットだとすると、今は100ワットの明るさかな」
前までは黄色味を浴びていたミカちゃんのライト・ブレス(笑)だったけど、今は白い光になっていた。
ユウと僕の観察結果に、間違いはない。
「……てかさ、ブレスじゃなくて、魔法を使おうよミカちゃん」
忘れてはならないが、今ミカちゃんが使ったのは魔法でなくブレスだ。
「ラ、光球」
目を閉じて、それからううんと唸るミカちゃん。
トイレで大きなものを出そうと、頑張ってるような顔をしないでほしいな。見た目は可愛いのに、どうしてそういう顔ばっかなんだろう。
その結果、
――ヒ、ピカッ、ピカカン
切れかけの蛍光灯みたいな瞬きがあった後、ミカちゃんの頭上に例のエンジェル・ハイロウが現れた。
今回は白い色で、家庭用の蛍光灯そのままの輝きだ。
「……うおおおー、お前ら何も言うな。俺の魔法を家庭用蛍光灯とか言うなよ!」
「あ、あん」
「は、はい」
目の端に涙を浮かべて叫ぶミカちゃん。
僕もユウも、そっとしておくことにした。
元々集中力が乏しいせいで、魔法を扱う才能に乏しかったミカちゃん。
とりあえず、60ワットから100ワットに成長したことだけを明記しておこう。
……これを成長と呼んでいいのか?




