59 空腹
僕とミカちゃんとユウが、この世界に3人纏めてドラゴニュートの兄弟として転生した原因は分かった。
原因は分かったけど、原因になった人は今どこにいるのか分からない。
多分、今頃は僕らのいる世界とは別の世界で、転生人生を歩んでいるだろう。
それに原因が分かったからと言って、僕たちに今の状況を変える力も能力もなかった。
僕は元魔王で師匠の弟子だけど、、さすがにこの件は解決不能だ。
僕の処理能力を遥かに超えた次元の事を平然とできるのが師匠。僕は魔王にはなれても、超越者の次元に立てるほどの能力はなかった
というわけで、僕たち転生者3人と、他の兄弟たちの生活は普段と変わることなく続いていくのだった。
……と、言いたいけど、最近問題がある。
「メシー、メシー、メシー、ウガー」
「ヒギャー」
腹ペコモードで錯乱したミカちゃんが、レオンの頭に齧り付いた。
「メシー」
「ミカちゃん、僕は食べ物じゃないって!」
レオンが嫌がって必死に抵抗するけど、それでもレオンの頭をガジガジと噛み続けるミカちゃん。
ダメージはないものの、涎が物凄く垂れてきている。
レオンの頭どころか、服にまで涎が染み込んでいってるけど……。
「えーん、レギュ兄さん助けてー」
「いいかレオン。強くならいと、いつまでたってもミカちゃんに食われたままだぞ」
助けを求めてくる弟だけど、いつも僕に頼られても困る。
人間、1人でも生きていける強さを身に着けないとね。
「メシー、ウガー」
「うわああああーっ」
その後、哀れなレオンの悲鳴が響き続けた。
でも、僕は助けない。
というか、若い僕たちはいつも空腹を感じるくらい、腹ペコなお腹をしているけど、最近その空腹がひどくなっている。
ドラゴンマザーは、いつものようにご飯を持ってきてくれている。
サイクロプスだとか、巨大な狼とか、あと真っ黒な姿をした魔物もいた。
やけに黒い肌が頑丈な魔物だったけど、マザーにとっては前足で小突けば、一撃で潰せる相手。
倒せる相手ではない、潰せる相手だ。
マザーは巨大な上に、ちょっと強さが常軌を逸している。
僕の見立てだと、前世の魔王をしていた頃の僕と正面からタイマンを張れば、僕の方がやや不利なんじゃないかってくらい、強いと思う。
まあ強い相手とは正面から戦わなければいいし、そもそも敵にせずに味方にしてしまうのが上策だ。
僕はマザーの子供なので、別に戦いになることはないだろうけど。
と、マザーの事はいい。
黒い魔物はやけに肌が頑丈で、僕たちドラゴニュートの歯で噛んでも、かなり噛み応えがあった。
スルメやイカを食べるみたいに、とにかく噛みまくらないと、食べられなかった。
そしていつものように食べているのだけど、それでも空腹をすごく感じてしまう。
「メシーメシーメシー」
ミカちゃんがヤバい目をしているけど、僕も空腹に負けてしまいそう。
具体的には、ミカちゃんの尻尾に齧り付きたくなるくらい、酷い空腹を感じるんだよね。
「あー、うまそう」
「兄さん、落ち着いて。どうどう」
いけない。
ちょっと理性が飛びかけていた。
ミカちゃんの床に垂れた尻尾の先が、おいしそうなイカ焼きに見えてしまった。
僕は馬じゃないのに、ユウにそんなこと言って止められちゃったよ。
「あー、腹減ったー。なんだかもう動きたくないー」
あまりに腹ペコで、僕は床の上に腹這いになって寝そべった。
それでも空腹を感じるので、眠れるわけじゃない。
すきっ腹は、物凄く辛い。
そしてすきっ腹で辛いのは、僕だけでなかった。
「モンスターの丸焼き」
フレイアは口から、小さな炎を蛇の舌のようにチョロチョロと出しながら、目の前に存在しない、モンスターの丸焼き肉に齧り付いている。
幻覚で見ている食べ物に食らいつくなんて、かなりヤバい。
「いただきます」
「GYAO!」
リズはドラドに齧り付き、ドラドが小さな悲鳴を上げている。
向こうも向こうで、空腹に襲われてる。
リズよ、頼むからお前までミカちゃんのように、何でもかんでも食らいつくようにならないでくれ。
「ハヒー」
そしてミカちゃんに食いつかれて逃げ回っていたレオンも、ついに空腹に負けてしまったのか、床の上にバタリと倒れてしまった。
「モシャモシャー」
レオンの頭に齧り付いているミカちゃんは、それでもレオンを涎まみれにしていた。
ああヤバイ。
いつも通りの量を食べているのに、このすきっ腹は異常過ぎる。




