56 超越者の手のひらの上
「兄さんの過去が重すぎる……」
「レギュレギュの師匠がおかしすぎる。っていうか、何だそよいつは、神か!神なのか!
言っておくがカミと言っても頭の毛じゃないし、文字を書く方のカミでもないからな!」
ユウの方はともかく、ミカちゃんは相変わらずだ。
僕は転生を何度も繰り返しているけど、ミカちゃんとユウはこれが初めての転生。
しかしよりにもよって、転生者3人が同じドラゴニュートの兄弟として生まれている。
僕も今までの転生人生で、別世界からの転生者に出会ったことはあるけど、それでも兄弟で転生したなんて話は聞いたことがない。
そもそも転生者自体がレアな存在で、そこに3人も兄弟で生まれるなどと言うのは、自然の確率ではありえないと言っていいレベルだ。
ならばこれは自然現象ではなく、何者かの人為的な操作の結果、僕ら3人が転生者として兄弟に生まれたと考えるべきだ。
「おまけに俺なんて、プレーしてたゲームキャラのミカちゃんの要素を、かなり受け継いでるしな」
兄弟での転生だけでもありえないのに、さらに加えてミカちゃん。
ミカちゃんの前世である鈴木次郎氏が、VRゲームでプレーしていたキャラが今のミカちゃんの姿とそっくりだという。
もっともゲームでのミカちゃんはドラゴニュートでなく、白羽の天使だったそうだ。
多少の違いはあれど、あまりにも似すぎているのは、何者かが意図的にそうしたと考えるべきだ。
「こんなことを人為的にできる人なんて、僕が知る限り師匠しかいないよ」
「レギュレギュの師匠って、ヤバすぎないか?単体で核弾頭より物騒な魔法ぽこじゃかぶっ放す危険人物だろ」
「僕たちって、そんな危ない人の手の上で、転生人生を歩んでるんですね……」
ミカちゃんとユウの2人の表情が優れない。
「あの人は、物凄く優秀だけど、同時に物凄く抜けてる人だから。
……僕らを揃って転生させたのには理由があるかもしれないけど、たぶん本人に聞けても、『そんなことしたっけ?忘れちゃった。アハハハ』で済ませるだろうから」
「アハハハ、じゃねえよ。死んだユウはともかくとして、俺はゲームしてたらここにいたんだぞ!」
怒るミカちゃん。ごもっともだ。
「でも師匠だからね。
僕の時だって不老不死の薬を飲まされた後になって、『あ、それ不老不死の薬で、もう死ぬことができなくなったから。長い人生に飽きるか発狂でもしたら、殺すのは無理だけど、その時はレギュラスの魂を食べてあげるから安心して』なんて抜かしてたからね……」
「魂を食べる?」
「僕は肉体はともかく、魂は不滅の存在になってしまったから、死ねないんだって。
ただ同じ不死の存在に魂を食べられると仮死状態になって、その間は時間の経過を感じることがなくなる。死んではないけど、生きてもない状態になるそうだよ」
「……」
「お前、そんなのの弟子になるなよ!」
ユウはドン引き。
ミカちゃんも怒っている。
「まあ、仕方ないよね。
僕だって師匠に出会った時は、不死でも転生者でもない、ただの16歳の子供だったんだ。
死にたくなかったから、とりあえず強そうな奴についてけば何とかなるだろって、物凄く甘い算段だったから。
アハハ」
「アハハじゃねえよー!」
僕はミカちゃんに胸倉を掴まれて、思い切りガクガクと揺らされてしまった。
いつもはミカちゃんに好き放題している僕だけど、さすがに今回はやり返せない。
やがて僕の胸倉からミカちゃんが手を外したけど、暗い顔をして、
「なあ、レギュレギュ。俺は元の体に帰れないのか。お前らと違って、俺は死んだわけじゃないんだ……」
と、問い詰めてきた。
「日本に帰りたいの?」
「帰りたい!」
しんみりとするミカちゃん。
なんだかんだと野生児みたいな生き方をしていても、やっぱり……
「だって、この世界にはオッパイの大きな姉ちゃんがどこにもいないんだぞ。
……フレイアが、フレイアが巨乳ちゃんに育ってくれればともかく、俺はこの1年、エロVRをプレーできなければ、ビデオですら巨乳姉ちゃんを見てない。せめて、せめてエロ雑誌を……」
発狂するミカちゃん。
エロVRってのは、多分エロビデオと同じで、VRの中で、そういうことができるのだろう。
ただし仮想現実ということは、ただ見ているだけのビデオなんかとは、全然リアリティが違うはず。
しかしミカちゃんが日本に帰りたい理由が、酷すぎないか?
さっきしんみりしたのは、それが理由かよ!
いや、今までのミカちゃんを見ていれば、さもありなんと言うべきか。
普通、家族に会いたいとか、日本の生活が恋しい、あの便利な世界に戻りたい……なんて理由が先立つと思うけど。
なんて思ってたら、僕とユウの視線が重なってしまった。
「ミカちゃんだね」
「ミカちゃんですね」
なんとなく2人で見つめ合って、その後溜息を吐いた。
ミカちゃんの脳みそが、おめでたすぎる。
「それでさ、レギュレギュよ。俺は日本に帰れないのか?」
「師匠ならばともかく、僕にはミカちゃんを元の世界に戻す方法すら知らないよ」
「元魔王なのに?」
「魔王どころか、その領土ごと軽いノリで消せる人と一緒にしないで欲しいな」
僕は師匠の弟子ではあっても、その技術や知識の万分の一すら会得できていない。
下手をすれば、億分の一にすら届かないだろう。
師匠も元は普通の人間だったそうだが、最初の人生で独力で不老不死の薬を作り出した後、僕と同じように何度となく異世界転生を繰り返したそうだ。
その結果、既に千とか万という回数を超えて、転生を繰り返しているらしい。
文明のない原始時代に転生することもあれば、モンスターやドラゴンに転生したこともある。日本型の世界もあれば、はるか超未来で、数百億の人口を抱えた宇宙艦隊が戦い合うような世界にも、転生したこともあるとか……。
結果、異世界の知識を獲得しまくって、超越者と呼べる次元の存在と化してしまった。
僕も前世では魔王までしたので、既に人間でなく化け物の領域にいる。
けど師匠は元人間でも、既に化け物の領域すら超えて、超越者となってしまった。
「うおおーー、レギュレギュの師匠のバカヤロー。俺から巨乳というロマンを取り上げたら、何も残らないだろうがー!」
ミカちゃんが1人吠えた。
なんか全然深刻にならないなー。
まあ、僕らにシリアスは似合わないからいいけどさー。
「てか、レギュレギュよ。俺のプレーしていたVRゲームに、シリウスって名前のプレーヤーキャラがいたんだけど……」
「案外、それが師匠かもね」
さすがに師匠とて、見ず知らずの相手を適当に異世界転生させたりしないだろう。
ミカちゃんの知っている、そのシリウスというプレーヤーは……。




