54 幼女監禁(合法)とブルーメタルタートルソード
亀を食べた日の夜、ミカちゃんが危険な変態エロ野獣に変身したので、僕とユウは協力して、ミカちゃんを冷蔵庫部屋に監禁して閉じ込めた。
「ウガー、出せー。俺はフレイアの胸を揉んで、将来とっても大きなビックボインボインちゃんにする義務があるんだー!」
部屋の中から、ミカちゃんの雄たけびが聞こえてくる。
だけど部屋の出入り口には、巨大な岩を置いて封鎖しておいた。
いかにパワーがあるドラゴニュートとて、これだけ大きな岩を置いておけば、そう簡単に突破することはできまい。
それでも相手はミカちゃんだ。
岩を砕いてでも脱走しそうなので、僕とユウは、その日は岩の前で寝ずの番をして見張りを続けた。
おかげで、フレイアの体は守られた。
……と思ったら、亀肉を食べて興奮気味だったレオンが、あろうことにもフレイアの胸を一晩中揉んでいたという。
「このクソエロ親父。お前のせいで、僕らの兄弟がどんどんヤバイ方に成長してるじゃないか!」
――ドゴンッ
手加減なしで、僕はミカちゃんの頭に拳を打ち込んでおく。
「ヘ、ヘブシッ。だ、だけど俺がやっているのは正しいことだ。男は誰でも、巨乳に憧れるんだ!」
「ミカちゃん、最低です!」
「いいや、お前らは絶対に間違ってる。お前らはそれでも男か!お前らの野性は、3歳児で止まってるのかー!」
僕とユウ対ミカちゃん。
転生組3人の間で、兄弟の教育を巡って譲れない対立が起こった。
とまあ、そんなこともあったけど、1日経って全てが落ち着いた後の事。
「さて、この亀の甲羅はどうしようかな?」
カニの甲羅に続いて、今回は青い亀の甲羅。
名前がないと不便なので、この亀にはブルーメタルタートルという名前を付けた。
青い色に、金属のように固い甲羅をした亀。
名前が安直だけど、名は体を表すという。なのでシンプルでわかりやすい名前が、いいだろう。
さて、この甲羅もカニの甲羅同様、ものすごく頑丈で硬い。
カニの時と同じで、食い意地の張っているミカちゃんが齧り付いても、甲羅には傷一つ入らず、ドラゴニュートのパワーですら破れない強度を持っていた。
「今度は、剣にしよーぜ。剣だー。ハッヒャー」
そこへやってきたのはミカちゃん。
なんだかろれつが回ってなくて、足取りが怪しくて、フラフラしている。
目も焦点が合ってなくて、グロッキーな状態になっている。
とても危険な感じだが、仕方のないことだ。
兄弟たちが変態の道へ進まないよう、僕とミカちゃんの間で、拳を交えた肉体言語で話し合った結果なのだから。
今回は半殺しにしてないけど、その結果が現在のミカちゃんだ。
なおユウは肉体言語でしゃべるのが苦手なので、僕たちが話し合い(闘争)をしている間は、ただ傍観しているだけだった。
僕はミカちゃんに謝りはしない。
間違ったことはしていないのだから。
とはいえ、教育に関する話し合いは既に終わったことだ。
「剣ねえ。……カニの時と同じで、物凄く加工し辛そうだけど」
「でもさ青色だぜ。格好いいぜ。水の属性剣って感じだなー」
「……」
「あ、もちろんここはゲームの世界じゃないと理解しておりますです。
はい、その通りです、レギュレギュ様。幸福は義務です、レギュレギュ様。俺は今とても幸せです」
肉体言語で語り合った後遺症が、思いのほか深刻なようだ。
ちょっとやりすぎたかと思ったけど、まあミカちゃんなのでいいか、と僕はすぐに思い直した。
「まあ、試しに作るだけ作ってみようか?」
「はい、素晴らしいです、レギュレギュ様」
本当にこれ、後遺症だよね?
実はおかしくなったフリをして、僕を馬鹿にしてるだけじゃない?
「ミカちゃん、実は正気なんてことはないよね?」
――ビクッ
ミカちゃんの体が一瞬震えた。
「市民は、とっても幸せです」
「おかしくなったフリして、僕を馬鹿にするのはやめようか」
「ギャアアアアーーー!」
ミカちゃんの頭をガシッと掴んで、お仕置きをしておいた。
なお、ミカちゃんが提案した剣だけど、その後数日かけて完成させた。
カニの時のように、膨大な量の魔力を使いまくって加工することになったけど、とても綺麗な青い剣が出来上がった。
ただし劣化黒曜石の時と同じく、例によって刃を付けてはいないので、この剣で切ることはできない。
ただの鈍器だ。
とりあえずモンスターに付けた名前からとって、ブルーメタルタートルソードと命名しよう。
「うひょー、カッコいい。見て見ろよ。ホラっ、セイッ、トリャッ」
ミカちゃんは剣を左右に振り回し、それから剣舞を舞うように、剣を回転させながら自分も舞って動く。
単に遊んでいるだけかと思いきや、かなり剣の扱いに慣れている。
確実に初心者の動きじゃなかった。
「ミカちゃん、剣の扱いにすごく慣れてるね。そう言えば前世が警備会社勤務って言ってたよね。武術とか剣道をしてたの?」
「チッチッチッ、俺は警備会社勤務でも、ただの事務員だったぞ。柔道も剣道も空手もド素人どころか、同僚の事務の女の子にすら負ける、無敵の弱さだったぜ」
「全然自慢にならないよ」
自慢にならないのに、なぜか歯をキラリと輝かせて、いい笑顔を浮かべているミカちゃん。
なんでも前世で勤務していた会社では、年に1回格闘技の研修があったそうで、警備員だけでなく、事務をしていた次郎氏と、同僚の事務の女の子も、研修に出なければいけなかったそうだ。
そして、そこで同僚の女の子に、一方的にボコボコにされたそうだ。
「てかさ、レギュレギュ。殴らないで、落ち着いて聞いてほしいんだけどさ」
「変な事じゃなきゃ、殴らないけど?」
「……」
あ、いかん。
ミカちゃんの目に恐怖が宿っている。
僕にまた半殺しにされるんじゃないかって、怯えてる目だ。
「……分かった。殴らない」
「あと蹴ったり、魔法でのリンチとかもなしで頼みます」
「お、おうっ」
僕ってミカちゃんに全く信用されてないのかな?
うーん、思い当たる節しかないから、仕方ないか。
「実はさ、前世の俺は、リアルでは運動も喧嘩も全然だめだったけど、VRゲームでは強かったんだ」
「へー……。強いって、どれくらい?」
ゲームの話を持ち出してきたので、少しだけ僕の口調が尖ってしまう。
ミカちゃんはこの世界を、ゲームの中と勘違いしていた過去がある。そして現在も、その考え方から、完全に抜け出せていない節があった。
ゲームと現実を混同して考える。それは凄く危険な考え方だ。
僕の雰囲気が危険な方向に変わったので、ミカちゃんが僕から視線を逸らす。
だけど殴らないと約束したので、僕もそれ以上の事はしないでおく。
「3072」
「?」
ミカちゃんがよく分からない数字を口にした。
「俺がプレーしていたVRゲームでの、年間プレーヤーキル数」
それってすごい数字なのかな?
僕も日本にいた時はゲームをしてたけど、そうとう昔の事なので、記憶に残っているものがほとんどない。
何しろ日本人だったのは、かれこれ2000年以上も前の事だからしかたない。
「それって、オフラインゲーム?」
「いや、オンラインゲーム。VRMMORPGで、年間にそれだけプレーヤーを倒した。
ゲーム内でのプレーヤーキル部門で、2位に1000人近くの差をつけて、堂々の1位だったんだ」
いつものように、『ドヤ、凄いやろ』なんて顔はしないミカちゃん。
でも、
「2位に1000人近く差をつけてるとか、凄い事なんだよね?」
「凄いことだけど」
分かる人が聞けば凄いんだろうけど、どうも僕じゃあ、その凄さが今一つ変わらない。
「そのゲームでの話と、今世での話に、何か関係があるの?」
「なんとなくだけどさ、今の俺って、そのゲームをしていた時にかなり近い動きができるんだよ。始めは気のせいかと思ってたけど、どうも気のせいじゃないっぽい」
「ふーん。でも、それだけ凄いのに、僕には簡単にボコられてない?」
「……レギュレギュが、強すぎるんだよ!
確かに俺ってそのゲームではプレーヤーキルで頂点に立ったけど、俺に戦い方教えてくれた師匠なんて、レギュレギュと同じぐらい強かったんだ。
あの人と戦って勝てた事なんて、一度もなかったんだから!」
ゲームの中とはいえ、世界にはいろんな人がいるようだ。
しかし、ゲームの感覚に近いねえ。




