53 高級食材亀
「スッポンじゃー!高級食材じゃー!あそこがビンビ……ゲフッ」
興奮して騒がしいミカちゃんに、とりあえず回転尻尾蹴りをお見舞いして黙らせる。
さて、本日も僕らの偉大な母ドラゴンマザーは、獲物を持ち帰ってきた。
今回は死にかけのサイクロプスが数体いたので、まずはそれを兄弟でサクッと始末した。
いつものご飯だし、既に獲物の命を奪うことを淡々とこなせるようになっている兄弟たち。
けれど今回は、サイクロプスに混じって巨大な亀が1匹いた。
大きさは5メートルくらい。
高さは僕らの背丈より少し高い程度だけど、横に大きい。
サイクロプスの最大サイズが6メートル程度なのを考えると、かなりでかい亀だ。
この亀を見つけた瞬間、ミカちゃんのテンションが天井知らずに高くなってしまった。
でもミカちゃんは今世では女なのに、今更あそこがどうとかって関係あるのだろうか?
なお僕は転生を繰り返しているけど、女性に生まれ変わったことはないので、この手の問題に関して、何も答えることはできない。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「亀かー。でも、頭が引っ込んでるな」
「これ、どうやって食べるんです?」
マザーの持ってきた亀はまだ生きているけど、危険を感じ取って、頭と手足を甲羅の中に入っている。
ユウが亀の甲羅をコツコツ叩いてみるけど、返ってくる音はかなり頑丈そう。
――ドンドン
――トコトコ
――ガンガン
――グォングォン
ユウが叩くのを見ていた兄弟たちが集まってきて、真似て亀の甲羅を叩きだした。
「これ、すごく硬いよー」
「まるでカニの甲羅ですわ。燃やしちゃいましょうか?」
「でも、青くてきれいですね」
「GYAOー!」
レオン、フレイア、リズ、ドラドと続く。
脳天気レオンに、いつも炎で解決しようとするフレイア。
今回マザーが持ってきた亀の甲羅は青い色をしていて、それがとても綺麗だった。
まるで群青色の海のよう。さすがに透き通ってはいないけど、宝石みたいな輝きがある。
「ドラド、舐めるのは良そうか」
「GYAOっ」
綺麗な物は古今東西の女性が好む。とりわけ宝石みたいな美しさのせいか、ドラドが舌で舐めていた。
「うおおおーっ、頭じゃ。亀の頭を食べれば、きっと俺もビンビンに……ゲフンッ」
おっと、変なのが復活したので、もう一回回転尻尾蹴りをかまして黙らせておく。
――変態エロおっさんに、いちいち付き合ってられるか。
「とりあえず鍋で煮ればいいかな?でもこの大きさの鍋はさすがにないから……。
レオン、この亀を水球で包んで、空中に浮かばせられるか?」
「やってみるー」
レオンが口から水のブレスを吐き出し、それを魔法で操って、亀を水で包み込んでいく。
亀を包み込んだ水球が、空中へ浮かび上がった。
「よし、後はこの水をフレイアの炎で暖めてくれ」
「分かりました、レギュラスお兄様」
――ゴオオォォォーーー
フレイアが炎のブレスを吐き出す。
しばらく待つと巨大な水球がブクブクと沸騰を始め、熱さに耐えきれなくなった亀が、甲羅から頭と手足を出してジタバタ暴れはじめた。
「ムムッ、暴れるなー!」
亀が水球の中から逃げ出そうとするけど、それをレオンが押し止めようとする。
水球の表面が激しく波打ち、形が崩れそうになるので、僕もレオンの魔法操作に少し手を貸して、亀が水球から逃げ出さないようサポートしておいた。
それからほどなくして、煮立ったお湯に負けた亀が抵抗を止め、完全に動かなくなった。
「ふうっ、危なかったー」
「よくやったな、レオン」
「うん、頑張ったよー」
僕が褒めると、レオンは尻尾を振り振り、嬉しそうにした。
「うおおーっ、メシじゃー、亀じゃー。精力ビンビンじゃー」
なお、亀が茹で上がると、再び復活した変態おっさんの声がした。
おっさんは沸騰している水球の中に体ごと突入して、中にいる亀の頭に食らいつく。
ドラゴニュートは頑丈なので、100度に沸騰したお湯程度では火傷しない。
「ブクブクブクブク、ブガー!」
水の中で何か雄たけびを上げている。
いつもの「ウマー」だけでなく、他にもいろんなことを叫んでそうだ。
まあ、今回はろくでもない事を叫んでるだろうから、声が聞こえないのは幸いだ。
亀は日本だと高級料亭でも出てくることがあるそうで、庶民が簡単に食べられるものじゃないだろう。
ちなみに僕が日本にいた頃には、食べたことはない。
お金はあったけど、わざわざ食べてみたいとは思わなかったんだよね。
まあ、そんなことは置いといてだ。
レオンに水球を解除してもらって、僕らも亀の肉にありつくことにした。
「ウマウマ、ギンギラギーン。フレイアちゃん、今夜はお姉ちゃんが寝かさないからね」
「ミカちゃん、大きなお胸の為に、頑張らせていただきますわ」
「……」
フレイアが、僕の妹のフレイアが、どんどんミカちゃんに汚染されていってる。
「兄さん、このままだとフレイアが変な方向に育ちそうで怖いです」
ユウもそんな言葉を呟くのだった。




