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47 死んでも一片の慈悲すらない!

 ――カーン、カーン、コーン。


 最近、ドラゴンマザーが魚介類を運んできてくれることが多いので、以前考えていた冷蔵庫を作ることにした。

 というわけで、まずは冷蔵庫用の部屋を作るところから開始だ。


 自宅拡張の為、いつものように兄弟揃って岩場を掘り進めていくことにする。

 なお今回は冷蔵庫用の部屋なので、なるべく日の当たらない場所がいい。


 今までに作ってきた部屋は全て明かりを取り入れるため、崖沿いに面していたけど、今回は岩場の奥へと、深く掘り進んでいく事になる。


「ほとばしれ、俺のライト・ブレス」

「ミカちゃん、あんまり動き回らないでよ。明かりが揺れて作業しずらいから」

「やかましかー」

「ヒギャー」


 レオンが劣化黒曜石製のツルハシを使って掘り進んでいたけど、明かり担当のミカちゃんがレオンの頭に噛みつく。


 なお、明かり役のミカちゃんは、光の属性竜らしく神々しく光り輝いていた。

 ……額が。


 だからといって、ミカちゃんは禿げているわけじゃない。

 でも明かりが黄色味を帯びているので、どことなく豆電球っぽい輝きだ。

 相変わらずミカちゃんのライト・ブレスは、宴会芸レベルが異常に高い。



「ウガー」

 ミカちゃんはレオンに強制肩車をさせ、その上で偉そうに吠えながら、目から光を出し始めた。


 懐中電灯としても、優秀なライト・ブレスだ。




「しっかしさー。俺たちが掘らなくても、こいつらに任せちまえばいいんじゃないか?」

 レオンの上からそう言うミカちゃん。


 さて、今回は僕たち兄弟が岩場を掘り進める以外に、掘り出した岩を運び出して、崖から捨てる作業員たちも用意しておいた。


「こいつらって、スケルトンの事?」

「それ以外にいないだろ」


 そう、今回用意した作業員たちは、ゴブリンの骨から作られたスケルトンたち。



 最近マザーが生きたままゴブリンを連れてきてくれるので、全身の骨格が揃ったゴブリンを使って、僕がスケルトンを作成した。

 僕にとって死霊術はお手の物なので、材料さえあればスケルトンをぽこじゃか作るなんて朝飯前だ。


 スケルトンたちは、僕たちが削り出した岩を静かに、ただ黙々と運び続けている。



「ガー、ウッ、グアアアッ」

「やかましかー!」

 ただ、その中の一体が、光っているミカちゃんに噛みついてきた。

 でも噛みつかれる前に、スケルトンに足蹴りをかますミカちゃん。


「うわっ、ミカちゃん肩車した状態で暴れないでよ。こけちゃう」

 強制肩車中だったので、肩車をしていたレオンが慌てて言った。


「ウルセー、そこのヘッポコスケルトンがいけないんだー」

 と言い、噛みついて来ようとしたスケルトンを、指さすミカちゃん。



 そのスケルトンは僕の死霊術で作り出したものでなく、ユウが生み出したものだ。


 僕の作ったスケルトンたちは、ただ黙って静かに仕事をこなし続けているのに、ユウの作ったスケルトンはとんだ失敗作だ。


 なので、ここは支流術の先輩としても、教えなければならない。

「ユウ、いいかい。死霊術を掛けるときは、なるべく生前の記憶を呼び覚まさないようにするんだ。機械のように、与えられた命令だけしかこなさない、感情も意思もないロボットのように作り上げないといけない」

「どうやったらそんな風にできるのか、全然わからないんだけど、兄さん」


 なに分からないだと!?

 ユウは生まれながらにして、ヴァンパイアの始祖。死霊術に対しての適性は驚くほど高いのに、分からないとは嘆かわしい。


「お前は労働者だ。24時間疲れることなく働ける上に、死んでも働き続けられるんだぞ。嬉しいだろーって語り掛けながら死霊術を使えば、意識のないスケルトンが出来上がるぞ」

「「……ブ、ブラックすぎる!」」

 ミカちゃんとユウの声が、見事にはもった。


 しかし通常のアンデットはスケルトンを含めて、命あるものに対して憎しみや羨望を持っているので襲い掛かることが多い。

 でも、素晴らしい労働の話をしてあげれば、死んだような目になり、陰鬱とした空気を纏って、常に希望を失ったかのように地面に視線を向けたまま、働き続けるようになる。

 まあ元々死んでいるので、死んだような目も何もないんだけどね。


 でも、そうすれば完璧なアンデットマシーンの完成だ。口答えしなくなるから、非常に優秀な労働者になってくれる。



「やっぱり兄さんって、本物のブラック企業経営者だったんだ」

「ううっ、レギュレギュの将来が心配だ。将来俺たちを労働者扱いして、死ぬまでこき使うんじゃないか……」


 なぜだろう。

 ミカちゃんとユウが仲良くヒソヒソ話してる。


 でも、2人とも勘違いしてはいけない。

 ここは魔法が存在する世界。


「大丈夫だって、死んでもアンデットにしてあげるから、死んだ後も働けるよ」


 魔法があるって、なんて素晴らしい世界だろうね。

 僕はにこやかに笑って、教えてあげた。



「「……」」

 だけどどうしてか、ミカちゃんとユウは凍り付いていたね。

 どうしてだろう?



「でもさ、僕はこの世界に来てから新しい発見があったよ。以前は、生者を死ぬまで働かせて死んでしまえば、次はアンデットにして働かせればいいと思ってた。

 でもドラゴニュートだったら、アンデットにしただけでなく、その後の処分方法におやつとして食べられることまでできる。

 ここまで無駄なく労働者を使いつぶせる方法があったなんて、目から鱗だよ!」


 まさに感動ものだね。

 僕はギュッと拳を握って、感動のあまり目から涙が出そうになった。



「イ、イヤダー。労働者の敵、悪魔、魔王、鬼畜経営者ー!」

「ううっ、兄さんの下にずっといたら、若死にさせられそう」

 僕の感動が伝染したのか、ミカちゃんとユウまで、感動の雄たけびを上げ、涙までうっすらと流していた。

 うんうん、実にいい妹と弟だ。

 今は幼いので成長させる必要があるけど、将来は大切な労働者として酷使していこう。





 ……とまあ、そんな将来の計画はおいといてだ。


「ガーガー」

 ユウの作ったスケルトンが煩い声を出しながら、僕の方に手を伸ばしてくる。


 アンデットは基本的に術者の命令には忠実だけど、生きているものへ襲いかかりやすい性質があるので困ったものだ。


 僕の作るアンデットみたいに、意思のないアンデットを作れないユウだと、今はこれが限界なのだろう。


「フフフッ、労働は楽しいよ」

 なので僕は、そのスケルトンの頭に指を突きつけて、魔法の言葉を口にした。

 その瞬間、スケルトンの頭がカクリと地面を向いて、動きを止める。


 心なしか、その目に宿っていた憎しみが消え去り、代わりに深い絶望に沈んだような、光のない死んだ目となる。

 まるで24時間休むことなく毎日働かされ続け、眠ることさえ許されず働き続ける労働者のような目。


「さあお前も石を運んで、崖下に捨てる仕事に従事しなさい」


 ――ガガッ

 スケルトンは頷くように骨を軋ませた。


 その後は命令されたことだけを、延々と繰り返しこなし続ける機械のように、恨みの声を上げることもなく、黙々と仕事だけをこなすマシーンと化した。

 明日への希望も、未来への展望もない、ただ目の前にある仕事だけを絶えることなくこなし続ける。


 実に素晴らしい労働者が、また1体誕生した。


「さすがはレギュお兄さまです」

「兄上は凄い」

 そんな僕の技に、フレイアもリズも感心している。


「フフ、そんなこともないよ」

 2人の妹の賛辞がこそばゆくて、僕はつい笑いを浮かべた。



「ヒエー、あいつマジだ」

「なんであんな方法で、スケルトンが大人しくなるんですか!」

 ミカちゃんとユウも、体を震わせて感動している。


 少なくとも、僕の目にはそう見えたよ。

 フフフッ。




 ちなみに僕たちは冷蔵庫用の部屋作るために採掘作業をしているけど、スケルトンに採掘作業をさせると、物凄く作業効率が悪かった。


 骨しかない体なので、力仕事が今一つらしい。

 対して僕ら兄弟はドラゴニュートのパワーがあるので、力仕事はお手の物。


 岩を掘り出す採掘作業を僕たちが担当し、そこで出た岩をスケルトンたちに捨てさせるようにすると、採掘作業はスムーズに進んでいった。



 特にドラドなんて、採掘作業をするために生まれてきたかのような素晴らしさだ。

「GYAO、GYAO、GGAAOOーー」

 鼻歌交じりに吠えながら、土魔法で岩場をガリガリ掘り進めていった。


 さすが土の属性竜の性質を持つだけある。

 穴掘りが大好きなんだね。


 そんなドラドの事を、僕はドラゴンと言うより、ドワーフっぽく思ってしまったのは秘密だけど。




 そんなこんながありつつも、僕たちは穴を掘り進めて、やがて冷蔵庫用の部屋を完成させた。

 部屋が無事に完成した後、僕たちは顔を見合わせた。


「冷蔵庫用の部屋が完成したお祝いに、おやつにしよう」

 僕が音頭をとると、兄弟たちは「オー」と声を合わせる。


 というわけで労働用スケルトンたちは、その後おやつとして僕たちがおいしくいただきました。


 一片の無駄もなくて、死霊術とは実に素晴らしい。




『ヒエエッ、死んだ後に夢も希望もないブラック労働をさせられた上、用済みになったら食われるとか、どれだけ鬼畜なんだよ』

 骨を齧ってたら変な声が聞こえたけど、ただの幻聴なのでどうでもいいや。


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