46 (元)魔王も逃げ出す変態
こんなことを言うと、ミカちゃんがまたゲームと現実の区別がつかなくなるだろうから言いたくはないのだけど、
「なぜだろう。これってパワーレベリングを彷彿とさせる」
僕はそう言わざるを得なかった。
ドラゴンマザーの教育で、生きた獲物を殺す経験を積んでいってる僕たち。
最初はゴブリンだったけど、日が経つにつれて難易度が上昇していき、2足歩行の豚のオーク、鬼と呼んでいい姿をしたオーガ、さらには巨大なサイクロプスにも止めを刺すようになった。
もっともそれらの獲物は、マザーによって全て瀕死の状態にされている。
連れて来られたモンスターは、生きてはいても死にかけで動けないほどの状態だ。
それを僕たちは倒すだけ。
これは、パワーレベリングを彷彿とさせても仕方ない。
「クフフフ、こうやって手ごわいモンスターに止めを刺していく事で、俺たちのレベルが上がって……」
「ミカちゃん、言っておくけどこの世界はゲームみたいに、強敵を倒したからって経験値やレベルが手に入るわけじゃないから」
案の定ミカちゃんがゲームっぽいことを言い出したので、僕は微笑を浮かべながら、注意しておいた。
「……も、もちろんここがゲームだなんて、これっぼっちも思っておりませんです。だからやめて、ぶたないで、蹴らないで。
俺は男になじられて、いじめられても、全然嬉しくも何ともない。
てかレギュレギュ、どうして巨乳のオッパイお化けに生まれなかったんだよ。オッパイ姉さんだったら、半殺しの目に遭っても、俺は幸せで、嬉しくて、天国へ行けたのに。
ク、クソウ。ウ、ウウウッ……」
「……」
どうしよう。
ゲームがどうこうより、もっと重症なんだけど。
ミカちゃんの病気は、僕ではまったく手におえない。
勝手に1人泣き出しているけど、なぜか両手だけはワキワキ動かしてるミカちゃん。
多分、幻のオッパイを揉んでいるのだろう。
こういう手合いは、関わらないのが一番いい。
僕はその場から、足音を立てずに逃げ出した。
元魔王である僕に逃走を選択させるとは、なんて恐ろしい変態だ。
ゲームでよくある、『魔王からは逃げられない』ではなく、『魔王が逃げ出した』だよ。
魔王って言っても、元だけどさ。




