45 肉食獣ドラゴニュートのお食事風景
肉食動物の教育として、ドラゴンマザーが運んでくる獲物に、生きたままのモンスターが含まれていることがしばしばある。
しばしばというのは、マザーが運んでくる獲物が明らかに僕たちの手におえないようなモンスターだった場合は、事前にマザーが殺している。あと、マザーが巨大すぎるたるため、生け捕りにするつもりでいても、うっかり踏み潰してペースと肉にしてしまう場合などがあるからだ。
そして生きている獲物の代表が、ゴブリンだ。
この件でユウが激しく落ち込んだりいたり、ミカちゃんがこの世界をゲームの中だと思い込んでいて、僕が激しくブチ切れたりしたけど、それも今や過去の事。
ゴブリン程度なら、反撃したところで僕たちは無傷。
ゴブリンが僕たちに噛みついてきても、僕たちは傷一つ負わないほどに防御力が高い。逆に僕たちがゴブリンに噛みつくと、ゴブリンは大怪我をしてしまう。
表現を変えると、ミカちゃんに噛まれても僕たちは無事だけど、ミカちゃんがゴブリンに噛みつくと、ゴブリンは肉を抉られてしまう。
そして肉を抉ったりだけど……そういうのを積極的にやってるのは、ミカちゃんだ。
ゲームどうこう関係なく、ミカちゃんはマジで野生児だった。
元日本人なのに、この子が一番野生動物染みた戦い方してるんだけど。
「ウガー、メシー」
「ちゃんと止めを刺してから食べるように」
「は、はい。レギュ様」
以前ボコりまくったのがよほど効いてるらしい。
ミカちゃんは素直にゴブリンの首に齧り付いて、頭と胴体をちょん切った。
完全に化け物じみた戦いだよ。
モンスターだよ。
切れた頭と体に、ミカちゃんの歯型がそのまま残ってるんだけど。
まあ、僕らは半分ドラゴンだから、半モンスターなんだけどさ……。
次に四女のドラドは、外見が完全にドラゴン。
「GYAOー!」
吠えて、それからゴブリンの体にのしかかって、がぶりと噛みついて相手に致命傷を与える。
ミカちゃんの場合は見た目が愛らしい幼女姿なだけに、ゴブリンに噛みつく姿は恐ろしくシュールだ。
ドラゴン姿のドラドが噛みつくのは、普通に野生でありそうな風景だ。
トラやライオンが、鋭い牙で獲物に食らいついて仕留めるのと、似たような光景だし。
――ゴオオオォォォ
「美味しく焼けましたわ」
次女のフレイアは、ファイア・ブレスを使って、ゴブリンを丸焦げにして仕留める。
さすがは火の属性竜の性質を持つドラゴニュートだけあって、炎による攻撃は効果的だ。
こんがり焼けたゴブリンを、フレイアは美味しそうに食べていく。
見た目だけで見ると、ミカちゃんと似たような幼女が、ゴブリンを丸焦げにしてそれを美味しく食べている。
腕をちぎったり、足をもぎ取って、それをニコニコ顔で口に入れていく。
ものすごくシュールな光景だろうけど、これが僕らにとってのいつもの光景なので、すっかり見慣れたものだ。
「フレイア、あんまり炎ばかり吐かないでよー」
ただ、マザーが運んでくる獲物は、いつも木造の巣に置かれている。
フレイアがファイア・ブレスを吐くと、木造の巣に引火してしまうため、それを防ぐために、いつもレオンがウォーター・ブレスを使って、事前に木材を湿らせていた。
そうしないと、自宅が大火事で全焼してしまう。
なお、昔は口からダバダバと水を零すようにして吐きだしていたレオンだけど、さすがに成長して、水鉄砲のようにウォーター・ブレスを吐けるようになっていた。
そしてレオンの場合、ゴブリンを仕留める時は、魔法で空中に水球を作り出し、それでゴブリンの体を包み込む。
水に覆われたゴブリンは息ができなくなり、暴れ回って空気を求める。しかし水球はゴブリンが暴れるのにお構いなく、全身を覆いつくし、やがてゴブリンは窒息して水の中でぐったりと動かなくなった。
「ご飯、ご飯ー」
その後、ゴブリンを食べ始めるレオン。
フレイアやミカちゃんに、いろいろ苦労させられている弟だけど、
「レオンって、地味にえぐいよな」
水に溺れさせての溺死とか、ゴブリンの殺し方がエグイ。
「セイッ」
そして三女のリズだけど、見た目がリザードマンなのに反して、僕たちの中ではかなり文明的だ。
ゴブリンを倒すのに、僕が作った劣化黒曜石製の槍で、ゴブンリの心臓を一突きしている。
見事な突きを受けて、ゴブリンは一撃死。
その後死んだゴブリンに瞑目してから、リズは「いただきます」と言って、ゴブリンをムシャムシャ食べていく。
まあ文明的と言っても、単に道具を使っている所だけ、文明的なんだけど。
そしてユウは劣化黒曜石の剣……という名前の刃の潰れた鈍器で、ゴブリンの頭を一撃。
「……」
命を奪ったことにしばしためらいがあるものの、その後黙って食べ始める。
ドラゴニュート生活を続けているので、もう元の日本人には戻れないだろうね。
そして文明人たる僕も、もちろんユウと同じく劣化黒曜石製の剣で、ゴブリンを強打して絶命させる。
剣に刃をつけて切れるようにもできるけど、そのためには剣を研がないといけない。
研ぐにはそれ相応に手間がかかるのだけど、劣化黒曜石製の剣は割れやすかった。
ぶっちゃけ刃を研いでも、それに見合ったコストパフォーマンスがまったくない。
それに僕らの力なら、鈍器で殴ろうが、剣で切ろうが、ゴブリンが死ぬという結果に変わりがなかった。
でも、素手や歯で噛み切るなんてのは、野蛮すぎて僕は御免だ。
さて、ゴブリンを殺した後だけど、このまま齧るというのもあれだ。
たまにはおふくろの味が恋しくなるので、ここはゴブリンをミンチ肉にしてしまおう。
人体の80%は水で構成されているけれど、それはモンスターにしても同じこと。
なのでゴブリンの体内にある水を魔法で操作し、体内で水の刃の嵐を起こして、内部の肉をズタボロに引き裂いていく。
――カッターと言うよりは、ミキサーと言う方が正しいか。
なのでウォーター・ミキサーと名付けることにしよう。
水でできたミキサーの刃によって、体内の骨も肉も砕かれ、ペースト状になって混ざり、撹拌されていく。
体内ではとても絵面にできない光景が起きているけど、表面の皮膚は全くの無傷。
――元魔王なので、これくらいの魔法操作はお手の物なので。
ほどなくしてゴブリンの体内だけがペースト肉と化した、ゴブリンのミンチ肉が完成だ。
マザーのように噛んで作ったミンチ肉ではないけど、僕流のアレンジということにしておこう。
あとはゴブリンの皮を1か所だけ食い破って、そこからチューチューと中身を吸っていく。
「ありゃ、中身が液状化して、ミンチじゃなくなってる」
これは失敗だ。
魔法のミキサーで体内を撹拌しすぎたのが、ダメだったようだ。
仕方ないので、ゴブリンジュースとでも名付けようかな?
なんて思ってたら、兄弟の全員が僕の方を見ていた。
「レギュレギュ、お前何をしたんだ?美味そうだから俺にも食わせろー」
とは、ミカちゃん。
飛びかかってきたので、とりあえず尻尾を使ってミカちゃんの足を引っ張り、地面の上へ転ばせる。
「フギャッ」
転ぶというか、ミカちゃんは顔面からもろに地面に激突した。
とはいえ顔面を強打しただけでは、ミカちゃんにとってダメージにならないだろう。
画面をぶつけたまま、ズルズルとはい寄ってきて、
「フハハハ、この程度でへこたれる俺様ではないのだ」
と言って、意地汚くもゴブリンに噛みついて、中身をチューチューしだした。
「なにこれ、ジュース」
「うん、やりすぎてジュースになっちゃった」
その後もゴブリンに噛みついたまま、チューチューと中身を吸い続けるミカちゃん。
「美味しいのかしら?」
とは、フレイア。
「僕も食べたいなー」
と、レオン。
リズとドラドの2人も目を輝かせていたので、僕は残っていたゴブリンを使って、兄弟たちの人数分、ゴブリンジュースを作ってあげた。
「どうしよう。ものすごく冒涜的なはずなのに、おいしい……」
前世の日本人としての倫理観がいろいろ邪魔しているユウにも、ゴブリンジュースは好評だったようだ。
物凄くグロイことしてるけど、僕らは肉食獣のドラゴニュートだから、仕方ないよね。




