44 海の幸三昧
魚介類を持ってくると、僕とミカちゃんとユウが喜んで食べるからか、ドラゴンマザーはたまに魚介類を持ってきてくれる。
ビバッ、海の幸!
肉食動物ドラゴニュートに生まれたとはいえ、動物の肉ばかりでは辟易してしまう。海の幸は、人類の宝だね。
犬じゃないけど、僕たち3人は仲良く尻尾を振って、喜びに浮かれてしまう。
マザーが持ってくる魚介類の中には、お腹を捌くと消化途中のエビがたくさん入っている、巨大魚なんかもあった。
「うおおおっ、伊勢海老じゃー。高級食材じゃー」
「すごく、大きい」
ミカちゃんのテンションが高いのはいつもの事。でも、ユウも胃袋の中から出てきた巨大エビの多さに、目を驚かせていた。
「エビエビー」
「GYAOー!」
ミカちゃんが伊勢海老ダンスなる怪しい踊りを踊り始めたので、それに合わせてレオンとドラドの2人も交じって、即興のダンスを始めていた。
「エビ殻で出汁を取ってスープにしようか。それとエビの脳みそを溶かしたら、味噌の代わりになるかな?
色合い的には味噌っぽくなるし、コクもでるからいいか」
「これって海草ですよ。出汁にしましょう」
僕は料理の仕方を考え、ユウは胃袋の中にあった海藻を発見。
今までマザーお手製のミンチ肉を食べてきた僕たちなので、今更魚の中から出てきたエビや海藻を食べることに、いちいち忌避感なんてものはない。
野生の中で生きてるから、強く逞しく育ってるのだ。
てなわけで、劣化黒曜石製の鍋を持ってきて、本日は魚介鍋パーティーをして楽しんだ。
「ああ、豆腐もあればいいのに。酒も飲みてー」
「でも、海の味が出ててこれはいいなー」
「幸せ。まさかこの世界で伊勢海老をこんなに食べられる日が来るなんて、思ってもみなかった」
ミカちゃん、僕、ユウの順番で至福のひと時を過ごす。
――ガリガリ、バキッ、ボキボキ
その他の兄弟たちも、動物の肉とは違う海の幸に舌鼓を打っていた。
ただしせっかくの伊勢海老を、頭付きで殻ごと食べてるけどね。
モンスターの骨をおやつ感覚で食べられる兄弟たちなので、伊勢海老の殻ごとき、そのままかみ砕いてお終いだ。
まあ、仕方がない。
「もう少し噛みごたえが欲しいですね」
リズは若干物足りないようだけど、それでも食べるスピードが速い。
「ゴリゴリゴリ」
最近女らしくなってきたと思っていたフレイアは、ただ無言で伊勢海老を齧り続けていた。
美味しいから、しゃべる余裕がなくなってるのかな?
とまあ、こんな素晴らしい海の幸に出会える時もあるけど、逆に困った海の幸に出会うこともある。
それは伊勢海老パーティーをしたのとは、別の日の事。
「イカだな」
「大きいね」
「ダイオウイカですね」
ドラゴンマザーが持ってきた獲物を見て、ミカちゃん、僕、ユウの順番で口にする。
「ダイオウイカと言うか、ここまで来るとクラーケンだよね」
僕たちの目の前にあるのは、実に30メートル級の超巨大イカ。
これは完全にクラーケンだ。
海に浮かぶ船を、触手で沈められるサイズのクラーケンだ。
「早く食べよー」
「早くご飯にしましょう」
レオンとフレイアの2人にせっつかれ、僕たちは我に返ってクラーケンを食べることにした。
白一色の真っ白い肉で、ツルツルの肌を……してはいない。
「粘つくー。ウガー!」
触るとベタベタして、粘着質な体液が体を包んでいる。
腹ペコモードになった野生児ミカちゃんが噛みつくけど、いつもと違って「ウマー」と言わない。
「……臭い」
「アンモニア臭がする」
ユウと僕も微妙な感想を口にする。
まるで掃除の行き届いていない、便所のような臭い。
「美味しいねー」
「柔らかすぎます」
「ハムハムハム」
でも他の兄弟たちは、僕たちと感想が違うようだ。
レオンは能天気にクラーケンを食べ続けている。
リズは柔らかすぎと言ってるくせして、次々にクラーケンを食していってる。
フレイアは、とにかく食べ続けていて、何も言わない。
「GYAOー」
ドラドは尻尾を振り振り、暢気にクラーケンに食らいつき続けている。
「なー、レギュレギュ、ユウ」
「何、ミカちゃん?」
「ずっと食べてたら、ゴムでも食ってるような気分になってきた」
「それ、凄く分かります」
兄弟たちと違って、転生組の僕たち3人は、終始微妙なテンションだった。
それにしてもいつも野生児全開なミカちゃんですら、食い物で苦手に思うものがあったとは。
これは新しい発見だ。
クラーケンがご飯だった日の翌日。
ドラゴンマザーは2日続けて海の幸を運んできてくれた。
今度はクラゲだった。
全長50メートルくらいありそうな、ちょっとありえないサイズのクラゲ。
クラーケンのモデルはダイオウイカがモチーフになっていると言われてるけど、ひょっとして今目の前にいるクラゲでもいいんじゃないか、と僕は思ってしまう。
「うわー、あのでかさのクラゲを飛んで運べるとか、マザーって半パネェ」
ミカちゃんも驚いていた。
その後は恒例の「メシー、ウガー」と叫ぶミカちゃんの雄たけびによって、クラゲを食す時間になった。
……のだけど、
「メシー、メシ、メ…シ……」
テンション、だだ下がりのミカちゃん。
「ショッパーい」
と、レオンはクラゲの肉を口の中から吐き出しつつ言う。
「モグモグ、噛みごたえが全くないですね」
リズは文句を言いながらも、それでも止まることなく食べ続ける。
ただ、その顔は不満顔。
僕らと違ってリザードマンっぽいリザは、鱗が顔にまで生えているけど、それでも不満なのが分かるほどだ。
「GYAO?」
ドラドは触感のあまりのなさに首を傾げる。それでもクラゲに噛みついて、モゴモゴと食べる。
でも、あまりおいしそうでない。
「あれ?火で焼いたらなくなっちゃった」
フレイアはファイア・ブレスでクラゲを焼いたけど、消えてなくなってしまったそうだ。
あれ?
クラゲって一応肉があるから、消えるはずはないけど。
一体どれだけの火力で焼いたんだ?
クラーケンは転生組の僕たちだけ美味しく感じなかったけど、今回のクラゲは誰もが不満げだった。
「うーん、天日干しにして干物にすればいいのか。それでキュウリやワカメと一緒にして酢で和えれば……」
料理を考えるけど、クラゲ以外は手に入らないので、作りようがない。
「クラゲなら中華で使いましたよね」
「うーん、中華かー」
ユウの提案にしばし考え込む。
だけど僕はそこまで中華に詳しくないんだよね。というかクラゲを使った料理なんて、ほとんど知らない。
「仕方がないから、素麺みたいに細長く切って食べてみるか?」
「包丁持ってきますね」
とりあえず困ったときは、麺の形に加工してみよう。
ツルツルと啜れば、そのままで食べるよりは、まともになるかもしれない。
ユウに持ってきてもらった包丁で、クラゲを麺の形に切ってみた。
「ズルズルズル。さっきよりはマシだな。メシー!」
試食をしたミカちゃんのテンションが、目に見えて回復した。
とりあえず、クラゲは麺の形にして処理するか。
でもさ、全長50メートルあるクラゲを麺の形に捌いていくとか、どれだけ時間がかかるんだ?
麺にするだけじゃ確実に処理しきれないので、天日干しもして、干物にして処理しておこう。
そんな感じで、不評なクラゲは、あの手この手を使って処理されていった。
なお、後日クラゲの干物とモンスター肉を鉄板で和えながら焼いたら、おいしく食べることができた。
肉の味がクラゲにも染み込んで、噛めば噛むほどコリコリとした食感と、肉の味を楽しむことができた。
クラゲは生より、加工して食べるものだな。




