43 エンジェル・ハイロウ
「うおおおおぉぉぉーーー!乳神様、巨乳神様、オラに力をー」
――ピカッ、ピカンッ
ミカちゃんが馬鹿な掛け声を上げている。
いつもの事なので、止めるだけ無駄だ。
そしてそんなミカちゃんの頭の上では、天使の頭の上にある光りの輪っか――エンジェル・ハイロウ――のようなものが、明滅しながら現れた。
「オホホホホ。どうよ、この超完璧幼女ロリロリ天使ミカ様の真の姿はー!」
「ワー、ミカちゃん凄い!」
「さすがはミカちゃんですわ」
天使化(?)したミカちゃんの姿に、レオンとフレイアの2人が、パチパチと拍手しながら歓声を上げる。
「フフフ、この超完璧な幼女姿をもってすれば、世の巨乳のお嬢さんたちの胸にダイブしても何も問題ないはず。女同士が戯れるだけだから、合法だ。
グフフ、俺はこの世界でやり遂げてやる。男ではできない、幼女だからこそできる、巨乳お姉さんの胸へのダイブというロマンをー!」
「「オー!」」
ミカちゃんの言葉の意味を理解してないだろうレオンとフレイアが、調子を合わせて拳を天へ振り上げた。
ミカちゃんは、黙っていて、かつ変なことをしてさえいなければ、一応見た目は天使と見間違えるような愛らしい顔立ちをしている。
金髪に青い瞳なので、完璧な外見と言っていいだろう。
唯一残念なのが、背中から生えているのが天使の翼でなくドラゴンの羽と言うこと。あと、尻尾がある事か。
もっとも中身があれなので、どれだけ天使のフリをしても、堕天使以外の何者でもないけど。
そしてミカちゃんは、なぜかドヤ顔フェイスで僕の方を見てくる。
エセ天使の輪っかを、僕に自慢したいのだろう。
――でも、全然可愛くない。
「ミカちゃん、まるで居間の切れかけの蛍光灯みたいだよ」
「ハウチッ!」
エンジェル・ハイロウだけど、ミカちゃんの頭の上でピカンピカンと、音を立てながら明滅を繰り返している。
色も黄色より白に近くて、本当に切れかけの蛍光灯にそっくりだ。
「ユウー」
ミカちゃんの顔が、ユウの方へ向く。
「言いにくいけど、兄さんの言うように、ケイコウ……」
「ウガー!」
ユウが僕と同じく真実を口にしようとしたけど、それより早くミカちゃんがユウに向かって飛びかかっていった。
「うわー、頭を噛むのはやめてー!」
「やかましい!誰が蛍光灯だ!俺は、マジマジプリティーエンゼルのミカちゃんなのにー!」
どうやら蛍光灯と言われるのが気に入らないらしい。
僕相手だと勝てないのが分かってるから、代わりにユウを襲いに行ったわけか。
――強くならないと、いつまでたってもミカちゃんのオモチャにされたままだぞ。もっと強くなれ。
僕は心の中でユウに声援を送るけど、目の前ではユウがミカちゃんに、頭をガジガジと噛まれていた。
まあ、痛いだけで血は出ないから問題ないだろう。じゃれてるだけだから。
なお、今回ミカちゃんが頭の上につけた切れかけの蛍光灯だけど、あれは一応魔法の訓練の成果だったりする。
ドラゴンマザーの持ってくる獲物を食べたり、料理したり、道具を作ったり、ユウ主催の日本式の勉強をしたりしている僕たち兄弟。
その中には、僕が主導している魔法の訓練もあった。
と言っても、うちの兄弟は全員が属性竜の性質を持っている。
瞑想して、周囲にある魔力の存在を感じ取ることができれば、属性竜としての能力によって、自分の属性に応じた魔法を簡単に使用することができる。
人間であれば、長々とした詠唱や、複雑な術式を用意したうえで魔法を扱うのだが、属性竜である僕の兄弟たちには、そんなものは不要だった。
なので、次女のフレイアは、炎の属性竜として、簡単に炎の塊を作り出すことができる。
三男のレオンの場合は、水の属性竜として、水の塊を空中に作り出せる。
四女のドラドは、土の属性竜として、土を隆起させたり沈下させることができる。
三女のリズは、土の属性竜の性質を持ちつつも、重力に対しての適性が高いため、瞑想して集中していると、自分の体が空中に浮かぶことがある。
重力を操作することで空を飛ぶ重力浮遊という魔法があるけど、リズはその魔法を無意識に使用している。
こんな具合で、我が家の兄弟たちは、自分の属性に応じた魔法を、かなり簡単に取り扱える。
生後1年も経っていないので、まだまだ魔法の扱いが未熟なものの、時と共にその能力はさらに強くなっていくだろう。
なお、ユウは闇の属性竜だったりする。
それを知った時のミカちゃんは、
「何それ、かっこよすぎだろ!俺にも分けろ!」
なんて言っていた。
ただユウの場合は属性竜としての能力より、ヴァンパイアの始祖としての能力が強い。
そのせいで死霊術をたまに暴発させて、アンデットを作ってしまうのはご愛敬だ。
こんな具合で兄弟たちは魔法の能力を次々に開花させているのだけど、ただ1人だけ劣等生がいる。
「フンガー。光れ、光るんだ、俺の天使ちゃん!」
訳の分からない雄たけびを上げ、ユウの肩の上で肩車をさせているミカちゃん。
別名、ミカちゃんによる強制肩車ともいう。
ミカちゃんは雄たけびを上げているのだけど、さっき頭の上で点滅していた蛍光灯が、今度は点滅すらしない。
「フンガー、ウガー。キョエエー」
気勢を上げて、ついには目からライト・ブレス(笑)を出していた。
本人はエンジェル・ハイロウを光らせたがっているけど、ブレスは全く関係ない。
あと、いい加減ブレスを口から出せるようにならないのか?
「ミカちゃんって、魔法に対してすごく才能がないね」
「く、くそう。レギュレギュは魔法使いたい放題なのに、どうして俺はできないんだ」
ガックリと項垂れるミカちゃん。
「イデデデ。ミカちゃん、どさくさに僕の髪の毛を引っ張るのはやめて!」
なお未だにユウの肩の上で強制肩車中なので、目の前にあるユウの髪の毛を、毟る様に手で引っ張っていた。
「いいよなー、ユウだってアンデット作れてるんだから。それに比べて、俺は落ちこぼれなんだもーん」
不貞腐れ、ユウの肩の上からジャンプして床に着地。
床の上に転がっている小石を蹴って、ミカちゃんが1人でいじけモードに入った。
「ミカちゃん、元気出して」
そんなミカちゃんをレオンが慰めるけど、ミカちゃんは1人いじけ続ける。
床に座り込み、視線を下に向けて、人差し指を床の上でイジイジ動かす。
普段いろんな意味で鬱陶しいミカちゃんだけど、いじけたらいじけたで、いつもとは違う別の鬱陶しさがある。
「兄さん、ミカちゃんってそんなに魔法の才能がないんですか?」
死霊術を暴発させるユウが僕に聞いて来る。
ユウの場合は、ミカちゃんと違って才能が有りすぎて、逆に無意識で魔法を暴発させていたりする。
無意識で魔法が使えるのは凄い才能だけど、コントロールができてないので、その点で不安定だったりする。
「ミカちゃんの場合は才能じゃなく、単に集中力が足りてないだけなんだけどね」
僕として言えることはそれだけ。
ミカちゃんは光の属性竜の性質を持っているから、光魔法に対する才能は、生まれながらにして非常に高い。
しかし魔法を使うためには、集中して魔力の存在を感じることが必要だ。
だから問題なのは才能でなく、魔力を感じ取るための集中力が足りてない事だけだ。
なんて僕たちが話している前で、ミカちゃんが気味の悪い笑いを上げ出した。
「ウヘヘ、パッツンパッツンで服が破れそうな巨乳お姉さん」
「ミカちゃん、絵が上手だねー」
どうやらいじけていたわけでなく、床の上で落書きをしていたらしい。
――だが、レオンを巻き込むな!
ミカちゃんの変態思考が、レオンにも伝播してしまうだろうが!
なんて思ってる間に、ミカちゃんの頭の上で例の蛍光灯染みたエンジェル・ハイロウが現れて、光り輝いた。
今度は点滅もせず、綺麗に光り輝いている。
「集中してたら、ミカちゃんもあれぐらい簡単にできるんだけどね」
もしかするとミカちゃんの場合、エロが関係しないと魔法を使えない気の毒な子かもしれない。
普段は集中力のない気もそぞろな子だけど、エロなことが関係したときだけは、異常に集中力が高いんだよね……。




