41 大馬鹿だから仕方ない
「腹減ったー。飯を持ってこいリズー」
「ユウ、焼肉を出せ、焼肉だー」
「フレイアちゃーん。将来の為に、お姉ちゃまがオッパイをモミモミしてあげまちゅよー」
「レオン、手前は俺の胸を揉むんじゃねえ。シット!」
「ドラド、進め進め。俺様を背中に乗せて、どこまでも進み続けろー」
我が家の兄弟に、シリアスは似合わない。
というか、僕によって半死半生状態にされ、あれだけズタボロにされたミカちゃんだけど……何も変わってない。
あれだけ肉体言語で体に教え込んだはずなのに、まさか奴は今でもこの世界をゲームの中だと思い、現実でないと思い込んでるのか?
「ミカちゃん」
「ヒエッ、レギュレギュ。俺の後ろに、いきなり立つんじゃねぇ!」
本気でボコったからか、以前より僕に対して、さらに苦手意識が高くなったらしいミカちゃん。
でもあれだけボコってできた傷口は塞がり、剥がれた肌の鱗は既に新しく生え変わって、再生済みだ。
大怪我させたはずなのに、ドラゴニュートの驚異の再生能力なのか、既に怪我の跡など微塵もなくなり、完治していた。
「お、俺はここがリアルだと理解しております。というか、ゲームとかリアルとかどうでもいいから。レギュレギュだけは怒らせないから、もうやめて。今度やられたら、俺が殺されちゃう。
だから、なにとぞお鎮まりをー。なにとぞお鎮まりをー」
「……」
僕の前で両手を突きだして、土下座を始めるミカちゃん。
怯えているというより、僕を馬鹿にしてないか?
というかこいつは馬鹿だ。
ゲームどうこうに関係なく、元が大馬鹿だな。
やっぱり天然物の野生児か?
マジでアマゾンの奥地でも、ターザン化して普通に適応して生きていけるタイプだ。
「とりあえずミカちゃん、今度ゲームと抜かしたら、次は死霊術を使って魂に消えない傷をつけるから」
「ヒエエー、レギュ様の俺に対する暴力が更にエスカレートしていってるー」
「失礼な。僕は大切な妹が変な道に進まないよう、脅してるだけだから」
「脅しかよ!しかも自分で言うなよ、自分で……」
その後なんだかんだと言い合いをした。
だけど、あれだけの事をしたのに、ミカちゃんはもうケロッとした様子で、半死半生にされたことを忘れ去っているようだった。
うん、こいつ本物だ。
本物の馬鹿だ。
ミカちゃんのことを、それだけ理解できた。
そしてミカちゃんと僕が、いつも通りに戻ったからなのか、他の兄弟も僕の事を怯えて遠巻きに見ることがなくなった。
「レギュラスお兄様、素敵です」
なお次女のフレイアが、僕の事をなぜかお兄様と言いだした。
「リズは兄上とか言ってたけど、そのお兄様って……」
「ミカちゃんがたまにレギュ兄さんの事をそう呼んでたから、今度からお兄様って呼ぼうと思います」
なんてフレイアは言った。
ただ、なんだろう。
なぜかフレイアが僕を見る目が、流し目なんだけど。
それに声が、少しだけ声が色っぽくなっていた。
この子って、こんな感じだったっけ?
もしかして、どこかで教育を間違えたとか?
間違えた原因と言えば、
「フハハハ、ドラド突進だー」
昔話で熊に跨ってお馬の稽古をする金太郎みたいに、ドラドの背中に乗ってお馬の稽古をしてる奴がいる。
……ミカちゃん以外に、あり得ない。
……ま、いいか。
僕は諦めから、空を見上げた。
どうせミカちゃんを修正する方法なんて、ないだろうから。




