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3 弱肉の弟と強食な妹

 なんだかんだあったせいで、巣の一部が壊れてしまったけど、そのことについては気にしないでおこう。



 それよりも巣の中では、

 ――メキメキ、バリバリバリッ

 と音を立てて、卵の一つが孵った。


 中から出てきたのは、黒い髪と目をしたショタボーイ。

 生まれたてだけど、既に赤ん坊を通り越してショタと言っていいだけの大きさをした子供だった。


 ちなみに僕と妹は頭髪がまだ生えていないのに、あろうことにも、新たに生まれてきたショタボーイ――僕の弟――は、既に髪の毛がはえている。


「羨ましいなー」

 思わずそう口にしてしまう。


 生まれた段階で髪の毛が生えているとか、世の中って理不尽じゃない?



 まあそれはそれとして、生まれてきた弟だけど、背中から生えている翼と尻尾も、髪と同じ黒色をしていた。

 もっとも髪と目が黒色と言っても、日本人っぽい顔立ちはしてなくて、彫りがある。西欧系の血が混じった、ハーフみたいな顔だちをしている弟だった。



 そんな弟が卵から生まれてきた光景を目にして、我が妹は口をパクパクと動かして、茫然としている。


 やっぱり転生者だな。

 翼と尻尾が生えているけれど、卵の中から人間が出てきたことに相当驚いてる。


 そんな妹の姿を見て、僕は心の中でニヤリと笑った。




 で、いざ生まれてきた弟だけど、弟はぼんやり……というよりは、茫然とした表情をしていた。

 右を見て、左を見て、上を見て、下を見て。

 それからおもむろに自分の手を眺めたかと思うと、近くにいる僕と妹の方へ歩いて来る。


「ダ、ダーダー」

 生後数十秒にして2足歩行ができるのに、口から出てきたのは赤ちゃん言葉だ。


「何を言ってるのか分かんないんだけど?」

「ガー」

 首をかしげる僕。

 まあ、僕の声だって日本語で話しているつもりでも、実際には赤ちゃん言葉だけどね。


 あと、妹の方は赤ちゃん言葉というより、なんか獣っぽい。

 それも草食獣じゃなくて、確実に肉食だ。


 外見が禿の幼女でも、絶対中身の性格はろくでもないだろう。


「ガー」

「ギャー」

 なんて思っていると、妹は弟にペタペタと触り始める。

 弟はそれをやや迷惑そうにしている。


 そうしているうちに、妹は弟の体を自力で這い上がっていって、気が付けば弟の肩の上に陣取っていた。

 つまり、肩車の態勢だ。


「ギャハハハハ」

「ヤーヤー」

 弟の肩の上に居場所を定めた妹は、我が物顔で笑い始める。

 対する弟は物凄く迷惑そうな顔をしていた。でも、それだけで振り落とそうとはしない。


 心優しい弟だな。

 ……というか、生まれて1分たたずに、既にボスと手下の関係になっている気がする。

 僕たちは見た目は人間に似ているけれど、実際には竜との混血である竜人ドゴニュートだ。


 半分は野生動物なわけで、弱肉強食の理屈で生きている。

 強い奴には逆らってはダメだと、本能が理解してるのだろう。


 そのために、弟は好き勝手している妹に無抵抗だった。



「ガハハハハ」

 にしても我が妹は、女の子なのに随分と笑い方がおっさん臭い。


「ナー」

 なんて眺めていた僕に、弟は助けてって感じの鳴き声を上げる。

 男なのに、随分と情けない有様だ。



「いいか弟よ。生まれた瞬間から生存競争は始まっているんだ。自分で勝とうとしなければ、この妹はどこまでつけあるぞ」

 とりあえず、弟の目を見ながら言ってあげた。


 まあ、日本語で語っているつもりでも、僕の口から出てくるのは、相変わらず「ダーダー、ワーワー」という赤ちゃん言葉なので、意味は通じてないけど。




 なんて言ってるうちに、弟の肩の上にいる妹が涎を垂らし始めた。


「メシー」

 ――ガジッ



 あ、妹の奴が弟の頭に食らいつきやがった!


「ギャアアアーッ」

 噛みつかれた弟は悲鳴を上げて走り出したけど、暴れる弟の肩にがっしりしがみついてる妹は、弟の肩から落ちることはなかった。



 うわー、妹の奴逞しすぎだろー。


 どうやら僕はとんでもない妹を持ってしまったようだ。

 そして弟よ、頑張れ。

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