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36 たまには違った食べ物を。その名は虫

 我らドラゴニュート兄弟の偉大なる母は、本日もご飯を運んできてくれる。


 いつも野生動物かモンスターのミンチ肉なのに飽き飽きしている僕の思いを察してくれたのか、その日のご飯はいつものミンチ肉と違った。


 ウネウネと動く、巨大な緑色をした物体。

 3から5メートルの大きさをした虫だ。


 これが1、2匹程度なら、背筋に悪寒が走るぐらいで済んだけど、その数はざっと見ただけでも20以上。

 中には体が途中から潰れている個体まである。マザーがうっかり体の途中で潰してしまったのだろう。

 しかし体が潰れていてなお、死に切っていないのか、ウネウネと気味悪く動いている。


「うっ、うげぇっ」

 この光景に真っ先に吐き出したのはユウ。

 うん、現代日本人には耐えられないものがあるね。


 僕も元日本人だけど、前世は魔王をしてた。

 巨大カマキリのモンスターとかはいたけど、さすがにここまで巨大でウネウネしている虫はね、虫は……


「うっ、ううっ」

 ユウみたいに吐き出さなかったけど、それでも気持ち悪くなって、思わず口に手を当ててしまった。



「……メ、メシーじゃー」

 だがしかし、元日本人の転生者であるミカちゃんだけは、一瞬躊躇しながらも、いつものペースになった。


「ウガー、ウマー?」

 虫の体に噛みついてガブリ。

 緑色の体液が飛び散り、それがミカちゃんの着ている服にも飛び散る。

 木造の巣の床も、緑色に染まってしまう。


 物凄く嫌な光景だな。

 ホラーだよ。

 それも、恐怖系のホラーでなく、生理的な嫌悪感を呼び起こすホラーだよ。



「モゴモゴモゴ。意外と食感がいいぞ」

 巨大な虫を食したミカちゃんは、やはり野生児だった。


 前世でアマゾンの奥地に1人取り残されても、ミカちゃんなら確実にターザン化して生きていける。

 僕はミカちゃんの野生児レベルを、今まで甘く見ていたと思い知らされた。

 まさか、ここまでだったとは……



「ユウ兄さん、大丈夫?」

 そして胃の中の物を戻しているユウを心配するのはレオン。


 だけど、ユウの奴はしばらく戦闘不能。……もとい食欲不振になるだろう。


「レギュ兄さん、早く食べないんですか?」

 なんて思ってたら、僕もリズに勧められた。



「あー、うん……食べようか」

 悩んだけれど、なんだかんだで僕のお腹はすいている。

 ドラゴニュートの食欲が非常に旺盛なのか、はたまた生まれて1年経たない体だから食欲が物凄く旺盛なのか。

 原因は分からないけど、とにかく胃袋は空腹を訴えていた。



 しかしな、目の前にある虫の表皮を見ると、ブヨブヨウネウネしている。

 毛虫でないだけましだと思いたい。

 そう、思い込むことにしよう。


 魔王もしたことがある僕だけど、さすがにこんな巨大な虫を食う経験はこれが初めてだ。

 僕は目を瞑り、覚悟を決めて巨大虫の体に噛みついた。


 ――ガブリッ。モキュモキュ、プチプチ、プニプニ


 なんだか弾力があって、噛むほどにいろいろな触感がする。


 そして口の中に広がるのは、不思議なハーモニーを奏でる体液の味。

 今までに食べたことがない味なので、どう表現すればいいのか困ってしまう。


 ――モゴモゴモゴ、ゴックン。


「んー、意外とうまいな」

 この世界に生まれてから、今までにいろんな謎肉を食ってきたからか、意外と虫の味を美味しく感じた。



 ところで他の兄弟たちだが、

 ――ゴオオオォォーーーッ

 次女のフレイアは、口からファイア・ブレスを吐いて虫の表面を焼き、それからパクパクと齧り付いていた。


「んー、プチプチした触感が素敵」

 と、ご満悦の様子。



「ドラド、ゆっくり食べないと喉に詰まりますよ」

「GYAOー!」

 ドラドは凄い勢いで、虫に齧り付いている。新しい味を前にして、随分ご執心の様子だ。


 傍にいるリズも、片手で虫の体を毟り取り、肉片を口に運んでいる。

 食べるペースはゆっくりだけど、それでも口と手を止めることなく動かし続けていた。



 僕らと違って前世がないので、当然先入観のない子供たちだ。

 虫と言えども、所詮はいつも食べてる謎肉の延長。いつもとは違う食べ物程度の認識しかなかった。



「ユウ兄さん体が悪いの?でも、ちゃんと食べないと元気が出ないから食べようよ」

 あと、レオンが虫の体をモキュモキュと口で噛みしめながら、ユウに虫の体の一部を差し出している。

 当人は兄の事を心配しているのだ。


「う、うん。た、食べるから……」

「はい、じゃあこれをどうぞ。すごくおいしいよ」

「ヒイッ!」


 レオンがユウに差し出したのは、虫の目玉だった。

 ユウは悲鳴を上げて、その場でぶっ倒れた。


「あれ、ユウ兄さんしっかりして、大丈夫?兄さーん」

 レオンがユサユサとユウの体を揺するけど、回復する見込みが全くない。


「今日のユウは元気がないんだよ。そのまましばらく寝かしてあげなさい」


 これ以上は過酷だろう。

 なので僕はやめるように言っておく。


 レオンは善意のつもりでも、ユウにとっては悪夢でしかない。

 レオンにはなぜユウが不調なのか、その理由を理解できてないのだから。



「ムフフ、ユウ君ってばこんなにおいしい物を前にして嫌がるなんて、なんてひ弱な子でしょうね」

 なんて言って、ミカちゃんがバクバクと虫を食べまくっている。


 きっとユウが食べなくなった分まで、食べてしまうつもりなのだろう。



 しかし、ミカちゃんタフすぎだろう。

 僕ですら引いたのに、抵抗なしでこの子は虫を食べ続けてる。


 まあ、僕も一口食べた後は食べる手が止まらなくなったんだけどね。


「ああ、動物の肉ばかり食べてたから、たまにはこういう変わり種も新鮮でいいなー」


 なんだかんだで、僕もすっかり野生児化しているかもしれない。


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