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35 お風呂場の鏡

「フンフン、フフーン」

 その日、僕の目の前で緑色の髪に青い瞳をしたドラゴニュートのショタ少年が、機嫌よさそうに尻尾を振っていた。

 まるで犬みたいに、上機嫌に左右に揺れる尻尾。


 ――お前は犬か!

 って突っ込んでやりたくなるけど、今の僕は上機嫌だから、そんな野暮な突っ込みはしない。


「わー、レギュ兄さんが2人いる。なにこれ?」

 僕の傍にレオンがやってきた。


 僕がたった今設置した物を、しげしげと覗き込む。

 そこに写っている緑髪のショタ少年は、実は僕だ。

 そしてその傍に青い髪のショタ少年の姿がある。


「あれっ?これって僕だよね。なんで僕がいるの?」

 青い髪の少年はレオンだ。

 レオンは不思議そうにしている。



「いいかいレオン。これは鏡と言って、目の前にある物を左右逆にして見えるようにしてくれる道具なんだ」

「水面に映る景色と同じだね」

「そうそう。それと同じだよ。もっとも、こっちは水と違って水面が揺れないし、はっきり見ることができるけどね」


 ミカちゃんじゃないけれど、僕はない胸を張って、自慢する。

 男なので、胸がなくて当然だ。


「こんなもの作るなんて、レギュ兄さんは凄い」

「フフ、まあ当然だけどね」

 賞賛を受けて、僕は鼻高々になった。




 さて、僕が作成したのは鏡。それも人の全身を写しだせるほどの、大きさのものだ。

 前回黒曜石製のガラスを苦労して作ったけど、今回はそれを応用して黒曜石製の鏡を作った。

 日本で使用されている鏡とは比べるまでもないが、それでも実用性のある出来だ。


 少なくとも、古代の銅鏡の写すぼやけた像より、かなりはっきりとした像を見て取れる。



 フフ、古代文明とは違うのだよ。

 この黒曜石製の鏡を作るのは、ガラスを作る以上に苦労させられた。

 鍛冶場で黒曜石製のガラスを作るのと、まったく同じ作業をしてガラスを作り。そこから光を180度反射するための反射膜を、黒曜石を用いて、何度も試行錯誤して作成。

 通常のガラス鏡であれば、反射膜には、銀や銅の膜が用いられるが、そんなもの僕たちの住んでいる場所では当然手に入らないので、黒曜石で無理やり代用して作り上げた。

 要は、光を反射させられればいいのだから。

 あとは、黒曜石の反射膜と、それを保護するためのガラスの膜を合わせて完成。


 日本で市販されているガラス鏡の亜種、性能面では劣化品でしかない。

 それでも、まぎれもなくガラス鏡だ。



「フ、フハ、フハハハハ。古代人や石器時代人とは文明のレベルが違うんだよ」

 ついつい嬉しくなって、僕はテンションが高くなってしまう。

 文明人たるもの、やはり文明の道具を持たなければ!


「凄いね、レギュ兄さん」

 レオンが古代や石器時代を理解しているかは不明だが、賛辞を送ってくれるので、僕はありがたく受け取っておいた。


 うむ、実に気分がいい。




 なお、この鏡を設置したのは、我が家に新しく作ったお風呂場だ。


 このお風呂場、ミカちゃんの強い要望によって作られたけど、現在この部屋の主になっているのはレオンだった。


 いつも口から出したウォーター・ブレスの水で浴槽を満たしていて、その中に浸かってくつろいでいる。


「お前、ずっと水に浸かってたら、ふやけないか?」

 なんて、過去にはミカちゃんが言ったけれど。

「ううん、水の中ってすごく気持ちいいよー」

 と、レオンは返していた。


 現に、レオンは水の中に1、2時間、半日、1日中入っていても、皮膚が全くふやけない。


 ドラゴニュートの肌は見た目は人間のものでも、力を加えれば鱗が浮かび上がる。

 鱗があるから、ふやけないのだろうか?


 あるいは、レオンが水の属性竜の性質を持っているので、ふやけないのかもしれない。

 いずれにしても水の属性竜らしく、レオンは水の中にいることを、すごく気に入っていた。


「チクショウ、どうしてフレイアちゃんが水の属性竜じゃないんだ。俺は、俺は、男の素っ裸なんかに用はないのに!」

 水の中なので当然服は着ていない。

 1人だけそんなことを言っていた変態親父がいるけど、気にする必要ないね。

 いつもの事だから。




 と、風呂場に鏡を設置したのはいいのだけれど。


「オホホホホ、見てくださらないかしらレギュお兄様。私のこの愛らしい姿を」

 体全体を写す鏡の前で、ミカちゃんが超ドヤ顔になる。

 2本の足で大地を踏みしめ、ない胸突きだして偉そうな態度をとる。


「はいはい、可愛い可愛い。だからその鬱陶しい顔でこっちを見ないでね」

「ヌフフフフ、俺って超美幼女。マジ天使。エンジェル。ヌハハハハ」


 自分の姿が愛らしい幼女の姿だと認識したミカちゃんが、非常にうざくなった。


 もともとレオンの出すウォーター・ブレスの水に写った姿を見て、今世の自分の姿を理解しているミカちゃん。

 だけど鏡ができたせいで、自分がどれだけ愛らしいかを、余計に気づいてしまったらしい。


「オホホホ、羨ましいだろう、ユウ。俺みたいな白羽幼女のお姉ちゃんがいて。ヌハハハハ」

「あー、はいはい。うれしいなー」

 ミカちゃんの鬱陶しいテンションに、ユウは棒読みで返す。


 だけど、

「ミカちゃんマジエンジェルー」と、ミカちゃんの洗脳教育を施されているレオン

「プリティー幼女ー」と、こちらも同じくフレイア。

「美しいです」と、同じくリズ。

「GYAO、GYAー!」と、ドラドも褒めたたえた。



「天使っていうより、堕天使だろう」

 褒めたたえる兄弟たちだけど、僕にはそう思えない。

 そんな僕のつぶやきに、近くにいたユウも深く頷いた。


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