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34 その名はガラス

「メシー、メシー、メシー」


 鍛冶場の作業で、疲れ切って眠った日の翌日。

 目が覚めた僕の尻尾を、寝ぼけたミカちゃんが、大口開けながら齧り付いていた。


 尻尾は鱗によって守られているので痛くないけど、涎でベタベタだ。


 ミカちゃんの口から尻尾を引き離し、

 ――ビビビビビンタ!

 顔面に100連発ほど、尻尾の往復ビンタをかましておいた。



「イテー、何しやがるレギュレギュ!」

「ミカちゃん無事みたいだね。あの程度ならやっぱり問題なかったみたいだ」


 昨日手加減が狂った一撃をミカちゃんに加えてしまったけど、一晩寝たらいつも通りだ。


「レギュレギュ、昨日の一撃はマジでやばかったんだけど。夢の中で見たこともないドラゴンが出てきて、こっちへおいでって手招きしてたんだけど」

「もしかしたら僕らのマザーのパパだったりして。きっとグランドファザーだね」

「ヒエー、三途の川なんて渡りたくねー」


 なんてバカな話し合いを僕たちはした。



 その後、ドラゴンマザーがいつものようにご飯を運んできてくれたので、それを兄弟揃って食べる。


 マザーは夜中でも狩りをできる様で、朝昼晩の時間に関係なく、僕たちの元へご飯を運んできてくれる。

 甲斐甲斐しくて、タフなマザーだ。


 僕ら兄弟もドラゴニュートなので、身体能力は人間と比べ物にならないほど高いけれど、マジもののドラゴンであるマザーは、そんな僕たちより、さらに身体能力が高い。


 それにこっちは生まれたての子供なのに対して、マザーは子供を産める成体の竜ってのもあるだろうけど。




 そんな御飯が終わった後、僕は鍛冶場へ行って、昨日作った物を改めて見た。


「フ、フフッ。ついにできた。この透き通る美しさ、素晴らしい」


 大量の魔力を、長時間にわたって使い続けて完成させたもの。

 それは黒い色をしているけど、向こう側まで透き通って見通すことができる。


「もしかして、ガラスですか?」

「そうだよ。ガラスだよ、ユウ」


 鍛冶場にはユウもいたので、僕は自慢げに作り上げたガラスを見せた。


 色は黒い色をしている。

 しかし劣化ではない、本物の黒曜石製のガラス。


 溶解した黒曜石を、限界まで薄く引き伸ばすことで作り上げた、黒曜石製のガラスだ。



「よくそんなものを作れますね」

「いやー、僕もこのガラスを作るのには、物凄く苦労させられたよ。でも、これでまた文明人として一歩近づいたね」

「確かにガラスがあれば、原始人ではないですよね」


 うむ。素晴らしきガラス。

 これでもう、僕らは原始人でも石器時代人でもない。

 ……と、思いたい。


 ガラスがあるだけでは、まだまだ石器時代から完全に抜け出したとは言えないけれど、それでも石器時代人が持っているはずがないガラスを作り上げたのだ。


「フ、フフ」

 僕は人知れず口の端が曲がり、笑いを漏らさずにいられなかった。



 そんな僕に、ユウが引いていたけれど、それでも僕は嬉しかったんだよ。


 ああ、これでまた一歩、文明人へ近づいた!





 ところで我が家の部屋は全て、太陽の光を取り入れるために、室内と屋外がぶち抜きの状態になっている。

 崖側の壁がぶち抜かれている状態なので、かなり危ない。


 僕が劣化黒曜石製の手すりを付けているので、崖の下へ落ちることはまずないだろうけど、それでも崖の向こうの景色が丸見えの状態だ。


 なので、僕はこのガラスを使って、室内と室外を区切る窓にしようと考えた。

 そのために、わざわざ魔力を注ぎ込みまくって作り上げたガラスだ。


 だったのだけど……。


「レギュ兄さん、部屋の中が暗いよー」

「真っ暗ではないけど、暗いです」


 レオンとリズの2人が不評の声を出す。


 試しに倉庫兼作業部屋に黒曜石製のガラスをはめ込んでみたけれど、黒曜石製のガラスは透明なガラスと違って黒く、太陽の光をかなり吸収してしまう。

 その結果、室内に十分な太陽光が入り込まず、室内が暗くなってしまった。


「こんなはずじゃなかったんだけどな……」

 ガラスさえできれば、家の中と外を間仕切りできると思ったけど、十分な光を取れないのでは意味がない。


 僕らの手元には照明に使えるものが何もないので、太陽光がないと採光が取れなくて、暗い部屋で過ごすことになってしまう。


 ――暗室で過ごすとか、どこの引きこもりだよ?


 これは失敗か。

 苦労させられた分だけ、失敗した残念感が僕の中で強く残る。


「うおおおー、スゲー。ガラスじゃん。なにこれ、スゲー」

「わー、向こうが見える。綺麗だねー」

「GYAOー」

 なんて思ってたら、ミカちゃんとフレイア、そしてドラドの3人がやってきた。


「うおおおー」

 無駄に興奮しているミカちゃんがガラスに手を伸ばし、

 ――パキッ

 ガラスを割った。


「ミカちゃん、割れちゃったよ」

「G、GAOooー」


 残念そうにするフレイア。

 そして危険を感じたのか、ドラドはいそいそと部屋の外へ逃げ出した。


「フ、フフフ、フフッ」

「レギュレギュ、違うんだ。これはわざとじゃねえ。俺は悪くねぇ!」


 苦労の成果が一瞬で砕かれて、僕の奥底から訳の分からない感情が溢れだしてきた。

 ミカちゃんが弁明しつつも、部屋の中から逃げ出そうとする。


 フレイアは、

「私しーらない」

 と小声で言って、ミカちゃんから距離をとる。



「畜生めー!」

 僕は泣きながら吠えた。


 その後の事はよく覚えていないけど、なんだか久々に体を動かしまくったおかげか、物凄くすっきりした気分になった。


 でも、なぜだろうね、

「レギュレギュサイコウ、レギュレギュバンザイ、レギュレギュステキー」

 ミカちゃんが床の上に突っ伏して、白い目しながら、訳の分からないうわ言を繰り返し唱えていた。


 はて、僕は一体何をしたのかな?



「ま、魔王だ。本物の魔王がいた」

 ユウがそんなことを呟いていたけど、さてはて一体何のことやら。


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