33 鍛冶場で料理とおまけの作業
新しく作った部屋、鍛冶場は素晴らしい。
今まではあまり大きな火を使った作業ができなかったけど、この部屋ができたことでその制限が取り払われた。
まずは試しと食料事情の改善を兼ねて、保続の効く燻製肉を作ってみることにした。
――鍛冶場なのに、食べ物を作るなんてこれいかに!?
なんて思ってはいけない。
僕たちは生まれてからずっと、ドラゴンマザーの持ってくる謎肉のミンチと焼肉くらいしか食べていない。
食糧事情を改善することは、文明人たるもの当然の事なのだ。
マザーが持ってきた御飯に、原形をとどめていた豚に似たモンスター、オークの死体があった。
なのでオークの腸を取り出して、それを使ってソーセージも作ってみることにした。
ソーセージと言えば肉だけでなく、ハーブや香辛料なども一緒に混ぜて腸詰にできればいいけど、生憎野生生物とモンスターの死体以外で手に入る物とは言えば、石材しかないんだよね。
相変わらず、断崖絶壁にあるのが僕たちの家なので、手に入る物が乏しくて困ってしまう。
それでも、鍛冶場を使って燻製肉とソーセージを燻していく事にした。
燻すための火力は、フレイアのファイア・ブレスと、僕の炎魔法がある。
本当は香りのいい木を焼いて燻製にすればいいけど、そんなものはないので、室内を炎で直接暖めることにした。
その結果、燻製肉もどきとソーセージが完成した。
肉だけでできたソーセージは、香草類が何も入っていないので、肉の味だけする。
それでもパリッとした触感がし、噛めば中から肉汁が溢れだしてきた。
さすがはオークの肉。2足歩行で歩く豚の魔物だけあって、油はとてもジューシーだ。
そして燻製肉だけど、こっちは微妙だった。
「何というか、違うんだよね。これじゃない感が凄くする」
燻製にしたつもりだったけど、微妙に生の肉が出来上がった。火が弱かったようで、ちゃんと燻製された肉ではなかった。
「燻製肉って、燻すだけじゃ作れないらしいですよ」
「うーん、僕もあんまり詳しくないからなー」
結局、燻製肉に関しては失敗作しか作ることができなかった。
とても保存食として使えそうにない。
「メシー、ウマー」
「ウマー」
「モグモグモグ」
もっともミカちゃんと他の兄弟たちは、失敗燻製肉の事など全く気にせず食べまくっていた。
ミカちゃんは野生児だし、他の兄弟は転生したわけでないので、燻製肉なんてものを知らないから仕方。
「あ、でもこれはこれでありかな」
僕も失敗燻製肉を食べたけど、味は悪くなかった。
それと鍛冶場とは全く関係ないけど、料理ついでにハンバーグやシャブシャブなんかも作って、僕たちは肉料理のバリエーションを増やしていた。
全部肉料理だけど、前世の記憶持ちとしては、謎肉のミンチ肉だけだと、さすがに辛すぎた。
さて、鍛冶場を使っての最初の作業が料理になってしまったけど、もちろんやることはそれだけじゃない。
以前から頭蓋骨を鍋代わりに使っていたけど、骨の間から水が漏れ続けるので、非常に使い勝手が悪かった。
なので、劣化黒曜石製の鍋を作ることにした。
既に劣化黒曜石を使ったバーベキュー用のプレートを作っていたけど、鍋はまだ作ってなかった。
プレートはただまったいらに仕上げればいいけれど、鍋は球形に作っていく必要がある。
球形の物を作るのはかなり大変で、魔法だけに頼って作るには限界があった。
なのでまずは鍋の元になる、大きめの四角い劣化黒曜石の塊を用意。
続いて劣化黒曜石製のノミを作成して、それで地道に四角い劣化黒曜石を掘り抜いて、鍋を作ることにした。
でも、道具を使って掘り抜くだけなら、僕の魔法は必要ない。
「あとはユウに任せた」
「分かりました」
というわけで、僕と同じく兄弟内生産職であるユウに丸投げする。
前世の記憶持ちの兄弟がいるから、ここは有効活用しないとね。
なお、ミカちゃんに関しては前世の記憶持ちでも、全く役に立たない。戦力外なのは、今更言うまでもないことだろう。
鍋の事はユウに任せて、僕は鍛冶場を作ったら前々からしてみたいことがあったので、その作業をすることに。
石材に対して、土魔法と重力魔法、さらに火魔法の3種類の魔法を同時使用して、超高圧縮、超高温の環境下に置く。
今まで劣化黒曜石を作るには、火魔法まで使わなかったけど、今回はそこに高い火力まで加えて、石材をドロドロの塊に溶かした。
溶岩も真っ青な温度に、石材が変化する。
そこに土魔法で操作しながら、融解した石を薄く引き伸ばしていく。
最後に目的の形になったら、氷系の魔法を弱めに追加して、粗熱をゆっくり取り除いていく。
この時、氷魔法を派手に使って一気に冷却してしまうと、せっかく作った物が割れてしまうので、熱を取る作業は非常にゆっくりしたペースでだ。
魔力をガンガン注いで作業をしたものだから、目的のものを完成させたときには、僕は足元がふらついていた。
「あー、魔力の使い過ぎでだるい」
ドラゴニュートの体は、大量の魔力を扱うことができるけど、それでも長時間にわたって威力の高い魔法を使い続ければ、さすがに疲労する。
筋肉を使えば疲労するのと同じで、魔法も使い続ければ疲労する。
それも結構な時間をかけて、魔法を使い続けていた。
筋肉の場合、50メートルの短距離を、全力で走れば疲れる。
けれど2、30キロの長距離を走る場合は、全力を出して走らなくても、走り終えた後には疲れる。
それも翌日からは、筋肉痛確実の疲労に襲われるだろう。
筋肉と同じで、魔法も長時間にわたって使い続ければ、それだけ疲労が大きく深く蓄積するものだった。
そんな具合で、その日の僕は作業を終えると、鍛冶場でうつらうつらと眠りかけてしまった。
「ムフフ、レギュレギュが疲れ切った今こそ、俺様が兄弟の頂点に立つとき。そして日頃の暴力の恨みを思い知れ、レギュレギュー!」
僕が弱っているのを見て、ミカちゃんがなんかほざきながら飛び蹴りをしてきた。
まったく、こんな時までつくづく面倒くさい子だ。
いつの間に鍛冶場に入ってきたんだ?
なので、いつものように迎撃する。
だけど疲れていたせいで、力加減が狂ってしまった。
――ドゴンッ
なんだかしてはいけない音がして、僕の拳を受けたミカちゃんが、近くの壁に大激突した。
「ヒ、ヒブー」
幼女が出してはいけない声を上げ、ミカちゃんが気絶。
「……ま、まあミカちゃんだし、その内元に戻るよね」
「いやいや兄さん、さすがにこれはまずいでしょう!」
僕としては何事もなかったことにしたかったけど、ユウはそう思ってくれなかったようだ。
その後、ミカちゃんはユウに担がれて、大広間で寝かされることになった。
「ハヒーン、レギュレギュの超畜野郎ー」
気絶した状態でそんな寝言を言えるなら、大丈夫だろう。
そんなことを思いつつも、その日の僕は疲れ切って、ミカちゃんの傍に倒れるようにして眠り込んだ。




