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32 お風呂は男のロマ……

 自宅を拡張して部屋を増やしたけど、もともと僕は鍛冶場が欲しかっただけ。

 最近は火を使った作業もよくするようになったので、今までの倉庫兼作業部屋で作業するには危なくなってきたからだ。

 倉庫を兼ねていて、室内に毛皮や皮などの燃えやすい物がも置いてあるから仕方ない。


 まあ、そんな部屋の中でも、火を使った作業をしていたんだけどね……。

 とはいえ、さすがにそれも限界と言うことで、鍛冶場を増設した。




 そしてもう1部屋、新しく作ったのがお風呂場。


「お風呂、それは男のロマン。お風呂、それは覗きをするための一大聖地。覗き、それすなわち健全な男子諸君の理想郷(パラダイス)。楽園じゃ、パライソでごじゃる。ヌハハハハ」


 ミカちゃんが、なんかほざきだした。


 もともとお風呂を作ろうと提案したのはミカちゃんで、その時のテンションはうざかった。

 いつもうざいミカちゃんが、いつも以上にうざかったので、結局わがままを受け入れる形で作ってしまった。



「ねえねえ、お風呂っていつもの水浴びじゃダメなの?」

 この意見はレオン。


 僕たちは木製の巣に住んでるくらいだから、間違っても日本みたいに整った衛生環境にいるわけじゃない。

 お風呂場を作るまでは、僕たちはレオンの出した真水(ウォーター・ブレス)で体を洗っていた。レオンの口から水が出てきているという点だけ除けば、不衛生というわけでもなかった。


「フハハハハ、レオンよ。それは違う。お前もすぐに風呂という文化の素晴らしさを知ることになるだろう」

「そうなんだー」

 ミカちゃんが2本の足で大地を踏みしめ、ない胸を突き出して、偉そうに宣言する。

 その姿を見て、レオンが尻尾をパタパタさせて期待を込めた眼差しになる。



「でもミカちゃん。覗きも何も、今世の君は女でしょう」

「……」


 覗きで興奮しているミカちゃんだけど、前世の鈴木次郎氏では犯罪になっても、今世のミカちゃんは、物凄く遺憾ながらも、性別は一応女だ。


「性別が同じなら、わざわざ覗く必要なんてないでしょう」

「……」


 僕が正論を口にすると、ミカちゃんが一瞬機能停止して止まる。

 それから、ギギギッという音を出しながら、僕の方に顔を向けてきた


「おっろかものー。風呂というのは覗くから嬉しいんだ、ロマンがあるんだ!いつ見つかるかからない危機感。あの見えそうで見えない、その至高の焦らし。それらがあるからこそ。ウ、ウヘ、ウヘヘヘッ」

「うわ、おっさんが鼻血垂らしだした……」


 1人悦に入るミカちゃん。

 僕はドン引き。


「ミカちゃん、またおかしくなっちゃったねー」

 レオンも、ミカちゃんのこんな壊れ方に、随分と慣れてしまっていた。





「ところで、レギュお兄様」

「……」


 故障から再起動。

 気色悪い女声を出すミカちゃん。こんな妹欲しくないので、僕は聞こえなかったふりをする。


 スルーだ、スルー。

 こんなの相手にしてられるか!


「当然、お風呂場にはのぞき穴を作りましてよね」

「ミカちゃん、背筋に悪寒が走るから、その気色悪いしゃべり方やめてくれない?」

「のぞき穴は……」

「ないよ」

「!」


 スルーしきれなかった。背筋に悪寒どころか、鳥肌まで立つんだ。

 仕方がなかった……。



 そんな僕の前で、ミカちゃんが地面に膝を付いてガクリと項垂れる。


「そ、そんな馬鹿な。男のロマンを理解していないだなんて、レギュお兄様にはありえない不手際ですわ!」

「だから、その気色悪いしゃべり方を辞めろっていうんだよ」

「お兄様なら、部屋を作る時に一緒に覗き穴を……グ、グボヘェエエエ!」


 いい加減ムカつくので、ミカちゃんに寝技を仕掛ける。床の上でミカちゃんの体を拘束し、そこから関節技へ持ち込む。


「ミカちゃん大丈夫?顔が真っ赤になってるよ」

「ギャー、ギブギブ、レギュレギュやめてー」


 レオンは暢気な声を出しながら心配してるけど、ミカちゃんはかなり苦しいだろう。

 金魚の口みたいに口をパクパクさせている。


 しばらくは、技を掛けたままにしておこう。





「グ、グボヘェ。ゼ、ゼェ。死ぬかと思った」

 それからしばらくして、ミカちゃんを解放してあげた。

 関節技を決めていた間ミカちゃんは満足に呼吸ができなかったようで、息がかなり荒くなっている。


 ドラゴニュートは体が頑丈なので、殴る蹴るに対しての耐性が高い。でも、関節技は効果が高そうだ。

 今度からミカちゃんへのお仕置きは、関節技を中心にした方がいいかな。



 そんな僕たちのところに、ユウがやってきた。


「ミカちゃん、凄い悲鳴がしてたけど、あまり兄さんを怒らせない方がいいよ」

「フ、フン。レギュレギュが怖くて、覗きなんてできるもんか!」

「何を話してたかと思えば、覗きって……」


 ミカちゃんの歪みのないエロ思考に、ユウが呆れる。


「クフフフ、それよりもユウ。君も前世では健やかなる日本男児。発情期真っ盛りだった君ならば、覗きの素晴らしさを理解してくれるだろう」

「そういうのは良くないでしょう。それに発情期って言い方はやめてよ、ミカちゃん」

「な、なにー!」


 ユウまで止めに入ったので、ミカちゃんの顔が驚愕に彩られる。


(こいつマジで言ってるのか、マジで男か。お前の中の野性は何歳児だ?)

 なんてミカちゃんの心の声が、僕の頭の中に聞こえてくる。


 でも、すぐにそれをひっこめるミカちゃん。

 何かを思い直したようだ。


 ユウの肩に両手を置いて、

「フフ。安心なさい、ユウ君。叔父さんはちゃんと分かっているよ。いい子ちゃんを装って、心の中ではとってもエッチイことばかり考えて……」

「はあっ。ミカちゃんって、どうしてこうなんだろう」


 心底呆れるユウ。


 ――ピキッ

 そしてミカちゃんが凍り付いた。


「あ、ありえないだろう。お前マジで言ってるのか!これだから最近の若いもんはダメなんだ。男の中の野性が萎れて、草食化していくから子供ができなくなってだな……」


 その後、ミカちゃんが壁に向かって、憑りつかれたようにブツブツ呟いていた。


 不気味で気味が悪いけど、僕にとってはどうでもいいことなので、ミカちゃんの事を、頭の中からきれいさっぱり忘れることにした。



「ミカちゃん、元気出して。そうだ、おやつの骨があるんだけど、食べる?」

「メシー!」


 レオンが心配したのはいいけど、直後レオンの手にミカちゃんが齧り付いた。



 花より団子。

 色気よりメシの方が、ミカちゃんにとっては重要なんじゃないかな?


 その時は、そう思った。





 けど、その日の夕方、僕たち兄弟はそろってお風呂に入った。


 お風呂で覗きだなんだとミカちゃんは言っていたけど、生まれて1年もたたない子供の集まりだから、性別を気にしてお風呂に入る必要もないし。


「ああ、所詮未発育ボディーではこんなもんか……」


 散々覗きだなんだと叫んでいたミカちゃんだけど、僕ら兄弟の見た目は4、5歳児だ。

 ロリ趣味はなかったようで、ミカちゃんはかなりげんなりとしていた。


 それでも、

「ミカちゃん。もう少し優しくしてね」

「ヌフフフ、いいとも。将来は大きくなるんだよー」


 ミカちゃんはフレイアの将来を見込んで、両手でフレイアの胸をモミモミしていた。


 このおっさん、マジで変態だ。




 なお余談ながら、このお風呂は兄弟7人が入っても、走って遊び回れるほど大きな大浴場になっている。

 日本なら、旅館や温泉レベルの広さだ。


 そして水はレオンのウォーター・ブレスで用意でき、お湯にするのもフレイアのファイア・ブレスでできた。

 なので光熱費はただ。


 使い終わった水も、崖下にそのまま流せばよかった。


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