31 暗視スキルとブラック(元)魔王様
――トンカーン、トン、カーン
最近思うことがあって、僕たちの住んでいる家を二部屋ほど増築することにした。
そのために岩場を掘り進めているけど、太陽の光を取るために、崖に面した場所にしか部屋を作れない。
太陽の光が取れるようになるまでは、暗い洞窟を掘っていく作業になるけど、この時はミカちゃんのライト・ブレス(笑)が便利だ。
ミカちゃんはあの後も成長を続け、ライト・ブレスを鼻と耳からも出せるようになった。
ブレスなのに、頭にある口以外の全ての穴から、光を出せるようになったミカちゃん。
あと、額からも出せる。
一体ミカちゃんのブレスはどうなっているのだろう。
ブレスなのに、口から未だに出せないとはこれいかに?
まあ、宴会芸に困ることがなさそうだけど。
「いーなー。僕も鼻とか耳からブレスを出したいー」
なんて言うのはレオン。
「俺だって好きでこんなところからブレス出してるんじゃねー」
ミカちゃんがレオンの方を振り向いた。
ミカちゃんの目から出てするライト・ブレスを受けて、レオンが思わず目をつぶった。
「ミカちゃん、眩しい!」
「やかましかー。お前なんて、鼻から水でなく、牛乳を出せるようになればいいんだー」
なんて言いながら、ミカちゃんがレオンとじゃれだした。
まあ、ミカちゃんのじゃれるは、主に噛みついたり、勝手に相手の肩の上に乗っかって、強制肩車をさせたりだけど。
なお、明かりと言えば炎のブレスを吐けるフレイアもいるけど、風のない洞窟で炎を明かりにすると、酸欠になってしまう。
攻撃力も耐久力も、人間のレベルをはるかに超えている僕たちドラゴニュートだけど、さすがに酸欠までは耐性がなかった。
酸素がなくなれば、窒息だ。
あとは魔法を自在に使いこなせる僕が、光魔法の光球を使って、光の玉を作り出して、周囲を照らすことができるくらいだ。
ところで採掘作業をしている時に発覚したことだけど、四女のドラドは暗闇でも普通に見えているようだ。
「GYAOー」
と、本人も言っている。
――え、ドラゴンの鳴き声を聞いも、意味が分かるわけないって?
おかしいな、僕はちゃんとドラドが言いたいことが理解できるけど。
『暗い場所でも、良く見える』って。
ドラドは土の属性竜の性質を持っている。穴掘りが好きな竜だから、暗い地面の下でも視界が確保できるよう、暗視スキルを持っているのだろう。
「なら、リズも暗い場所で目が見えるのかな?」
ユウが尋ねる。
ドラドと同じく、土の属性竜の性質をリズなら、暗視スキルを持っていてよさそうだ。
だけど、リズは頭を左右に振った。
リズは口数が少ない子なので、最小限で自分の意思表示をすることがある。
「リズは純粋な土の属性竜と違って、重力魔法への親和性も高いから。その辺りが原因で、暗視スキルを持ってないのかもね」
と、僕は考えた事を口にする。
そしてヴァンパイアの始祖としての性質を持つユウも、暗闇の中でも昼間のように周囲を見通すことができるそうだ。
「うわ、何それ。チートだチート!お前ばっか主役補正付きすぎてマジムカつく」
「主役っていうより、魔王補正じゃないの。フフッ」
ミカちゃんと僕がユウをからかう。
「主役とか魔王補正じゃないですって。大体元魔王様がそこにいるじゃないですか」
ユウが僕を見てくる。
「安心して、僕は世界征服を企む魔王じゃなかったから」
「代わりに国民に24時間のブラック労働を強いて、"酷死"させてたんだろ」
「フフッ」
"酷使"ならぬ"酷死"とは、ミカちゃんも面白い言葉を使うものだ。
「あの、レギュレギュ。そこで笑わないでくれる。マジで魔王軍でブラック魔王なんてしてないよね?」
ミカちゃんは普段野生児でアホ丸出しの子とはいえ、前世では警備会社に勤務していた。
つまり一般企業の社員だったわけだ。
一労働者としては、ブラックな魔王がいたら嫌だよね。
もっとも、僕は笑うだけにしておいた。
「う、うわー、この世界でレギュレギュを魔王なんかにさせたらお終いだ。俺らもきっと死ぬまで働かされちまうぞ」
ミカちゃんが1人でガクブルと震えだす。
ユウの方は元日本人とはいえ高校生だったせいか、ミカちゃんほどに僕を怖がる様子はなかった。
こんな風に遊んだり暢気にしゃべりながらも作業を続けて、僕たちの家に新たに2つの部屋を増設した。
部屋の名前は、鍛冶場とお風呂だ。




