30 機械と死霊術は人類の大発明
以前ゴブリンやオークの皮を使って皮の服を作成したけど、その後も皮の服を作り続けている。
我が家の兄弟たちは毎日遊び回ってじゃれ合っているけれど、ドラゴニュートなので無駄に力が強い。
そのせいで服が破れてしまうことがよくあった。
「うおおっ、股が裂けたー」
我が家のトラブルの化身ミカちゃんは、暴れまわるので一番服の替えが必要。
「レギュ兄さん、膝が擦り切れちゃった」
とは、レオン。
素人作りの出来のいい服でないので、どうしても使用限界がすぐに来てしまう。
「あ、火が付いちゃった」
ちょっと間が抜けた感じで、ドジっ子気味に言うのはフレイア。
口から火を吐けるから、たまに服に引火することがあるんだよね……。
防火性に優れたモンスターの皮があればいいのに。
なお、服が燃えてもフレイア当人の肌は全く焼けない。火の属性竜の性質を持っているため、フレイアの熱への耐性は、兄弟の中で一番高かった。
それにちょっとした炎なら、僕たち兄弟は火傷すらしない。ドラゴニュートの耐久力は、相変わらず人間とは比較にならなかった。
「レギュ兄さん、新しい服をお願いします」
そしてリズにしても、なんだかんだで女の子だからか、新しい服を欲しがる。
体全体に鱗がはえていて、リザードマンっぽい見た目をしているから、服がいらない気がするけど、それでも本人が欲しがるから仕方ない。
「GYAOー!」
ドラドは外見がドラゴンだから服なんていらないだろうに、兄弟全員が服を着ているから、結局欲しがる。
服を着たドラゴンって何なんだ?
現代日本でも犬やペット用の豚に、服を着せている人がいるので、それと同じと思えばいいのか?
いずれにしても、ドラドも服を着たがるので、結局作ってやる羽目になった。
こんな訳で、僕は夜なべをして毎日服作りをして……いるほどではないけど、替えの服はいくら作っても、作りすぎということがなかった。
家庭内での生産職主席は僕だけど、次席にはユウもいる。
服作りに関しては、ユウと共同作業で作っていた。
ただ、そうやって何枚何十枚と服を作っていると、作成過程に工夫を加えて、作業効率を上げる方法も見つかる。
最初期に作った服は、針と革紐を使って2枚の皮布を縫い合わせて作っていた。
けれど針で作った穴は小さく、縫い合わせるのに使っていた革紐もその大きさに合わせて細かったため、革紐がすぐに切れてしまい、服がダメになってしまった。
なので、それが分かってからは、針で皮布に穴を開けるのではなく、針よりも大きな手ごろな大きさのモンスターの牙を使って穴を開けることにした。
この穴に合わせて、太めの革紐を通していく事で、以前に比べて縫い目を頑丈にすることができ、縫い目が避けることも減った。
もちろん、この時使ったモンスターの牙は、ドラゴンマザーが運んできた御飯に交じっていたものだ。
でも、この穴開け作業が地味に面倒だ。
モンスターの牙を使って、手作業で皮布に一つ一つ穴を開けていかなければならない。
しかも1枚の皮布に開けなければならない穴の数は、かなりある。
ドラゴニュートの腕力があるので、皮に穴を開ける作業はそこまで苦にならないけれど、ひたすら地味な作業を淡々と繰り返すんだよね。
体力でなく、精神的に疲れてしまう。
「こんな非効率なことしてられるか。これじゃあいくら時間があっても時間が足りない!」
我が家の兄弟たちは、僕とユウが作業をしている間も衣服を磨り潰していってる。
ここはもっと、文明の利器を利用して楽をすることにしよう。
てなわけで、僕はさっそくそのための方法を実現することにした。
……のだけど、
「兄さん、これはまずくない?」
「何もまずいことはない!」
ユウが思い切り引いてる。
ドン引きレベルでないと思うけど、なんか顔が青くなってる。
ちなみに僕たちの目の前には、僕が作成した半自動皮布穴開け機がある。
この機械は、用意した皮布に等間隔で穴を開けてくれる素晴らしい"マシーン"で、僕たちがチマチマやっていた穴開け作業を驚くほど短い時間でしてくれる。
穴開け機本体の下に皮布を置くと、その後は自動的に穴開け機本体が上から下に降りてきて、皮布に複数の穴を開けてくれる。
あとは、出来上がった穴に僕らが革紐を通していくだけで服が作れるので、面倒な穴開け作業を、機械が一瞬でしてくれる。
いまだ文明のレベルが石器時代の僕たちだけど、僕の目の前にあるのは間違いなく"機械"。"マシーン"だ。
僕個人としては、機械と死霊術は、物づくりの生産性を大きく向上させてくれる、人類の大発明だと思う。
自動車工場しかり、冷凍食品の工場しかり。
それらの工場では機械が大活躍して、大量生産に寄与している。
「半自動穴開け機って言ってるけど、これってスケルトンでしょう」
なお僕の言うマシーンだけど、それはユウが言ったように、実はスケルトンだった。
動力に電気でなく、死霊術が使われている。
「スケルトンはいいぞ。24時間365日、疲れることなく延々と働き続けてくれる。さすがに動かし過ぎて骨が摩耗しすぎたら壊れるけど、それでも機械並に便利だぞ!」
僕は前世で魔王として大陸に君臨し、支配地では労働者を酷使しまくった。前々世でもブラック企業の経営者として、労働者を酷使してきた。
だからこそハッキリ言おう、働き続けることができる機械とアンデットは、素晴らしい労働力だと!
単純作業であれば、人間とは比べ物にならないスペックを持っている。
「あ、ありえない……」
なんだけど、ユウには甚だ不評なようだ。
ちなみにこの半自動穴開け機に使用しているスケルトンは、僕の死霊術によって動いている。
前世が魔王なので、ユウに頼らなくても死霊術なんて普通に使えるんだよね。
そして半自動穴開け機本体の仕組みだけど、これは4足歩行型の蜥蜴っぽいモンスターの骨だ。
蜥蜴スケルトンが体を下に降ろすたびに、鋭いあばら骨が下に置いた皮布に、等間隔の穴を開けてくれる。
そして蜥蜴スケルトンが体を持ち上げたると、あとは穴の開いた皮布を取るだけで、穴開け作業の全てがお終いだ。
うむ、実に素晴らしいマシーンだ。
今までの手作業でチマチマ穴開けしていたのが、嘘のような速さだ。
自画自賛したい。
これこそ技術の勝利だと。
「死霊術の使い方が絶対に間違ってる。こんなのは生命に対する冒涜だ……」
僕としては、この限られた環境の中で素晴らしい発明をしたと思うけど、ユウはそれを認めようとしない。
なので、僕は戸惑うユウの肩に手を置いた。
「大丈夫。こいつには決まった動作以外何もできない。機械と同じだから問題ない」
「でも……」
「まあ、たまにカタカタ笑うかもしれないけど、ミノ吉もよく笑ってたからそれと同じだよ」
「うわああっ、やっぱりダメだ。兄さんが黒い!」
黒いって言われても、日本人だった頃はブラック企業の経営者だったから、黒くても不思議じゃないでしょう。
とりあえず僕は、ユウの前で親指をグッと立てて笑っておいた。
死霊術をたまに暴発させるヴァンパイアドラゴニュートのくせして、こんなことでいちいち悩まなくていいのに。




