2 メシ!
「メシー、メシー」
生まれたばかりの我が妹にはいまだに名前がないけれど、お漏らしのショックから立ち直ると、日本語でメシメシとひたすら叫びながら、僕の方に近づいてきた。
見た目だけ可愛らしい(ただし生まれたばかりで禿てる)妹は、僕の肩に乗りかかって、なぜかおんぶの態勢になる。
生まれたばかりだけど、無駄に身体能力が高いので、僕が手支えてやらなくても、自分1人の力で僕の背中に張り付いてしまった。
そのまま涎を垂らしながら、
「メシーメシー」
なんて繰り返すので、僕は尻尾を使って背中に張り付く妹を振り落とした。
「フガー」
「この意地汚い妹め」
食い気が多すだ!しかもこいつ、絶対僕を頭から食おうとしていた!
いろいろと危ない奴なので、地面に転がした妹の背中の上に、僕は右足を押し付け、妹がこれ以上暴走しないように動きを封じる。
「ギャーギャー」
すると妹は恥も外聞もなく喚き声を上げて暴れはじめる。けど、僕は右足の力だけで抑え込む。
力で振り切れないと分かると、
「ヤーヤー」
とか言って、妹は無駄に可愛げだけある声を出し始めた。
もちろんそれにほだされると確実に僕が食われるので、妹の背中から足を離さないようにしておく。
「君、転生者でしょ?」
「メシー」
とりあえず聞きたいことは聞いておこう。
だけど、相も変わらず妹は飯の事ばかりだよ。
「あのさー」
「メシー、ウギャー、ギャー」
「……」
ダメだこいつ。知能指数が低すぎる。
それとも転生者と思ったのは僕の勘違い?
そう考え直さざるを得ない。
「うーん、どうしよう」
そう呟き、僕はふと気づいた。
「アー、ヤー、ワー」
少し言葉を出して、それを自分の耳でよく聞いてみる。
日本語を話しているつもりだったけど、何ということだろう。
生まれたばかりの僕の口から飛び出す言葉は、全部明確な意味を持たない赤ちゃん言葉だった。
――あ、こりゃダメだ。まともな言葉で話しかけられない。
生まれた時点で高い身体能力があったので気づかなかったけど、どうやら声帯はまだまともな言葉を発することができないらしい。
赤ちゃん言葉しか出せないんじゃ、話し合いは無理か。
でもさ、僕はまともに言葉を出せないのに、妹は「メシ」という言葉だけは、正確な日本語で発音できていた。
――この子、食い意地悪そう。
妹の事を改めてそう評価する僕だった。