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27 金持ちの家の壁に飾ってあるもの

 岩場を掘り返して自宅の拡張をした僕たち。


 その際、大量の石もでてきた。

 石材を使って僕がいろいろな道具を作っているけど、それでも処理できない量があったので、多くは崖下にそのまま投げ捨てた。


 ――ごみの不法投棄じゃないかって?

 ここは日本でなく、異世界だから大丈夫。



 それでも、いまだに石材が大量に残っているのは確か。


 以前から僕が魔法を用いて作る劣化黒曜石に興味津々の三女リズは、それを真似して魔法で劣化黒曜石を作ろうとしている。


「丸い塊が出た」

「よくできたね、リズ」


 コクリと頷いて嬉しそうにするリズ。

 人間の女の子だったら大層可愛い表情だろうけど、残念なことにリズの外見はどう見てもリザードマン。鱗の生えた蜥蜴顔に笑みを浮かべると、白い歯がきらりと光る。

 まるで肉食獣が、今から獣に襲い掛かろうとしている迫力がある。


 もっとも外見が少し違うだけで、僕もリズと同じドラゴニュートだけどね。


 そしてリズが作った丸い石は、重力魔法で圧縮されたもので、圧縮前の石材に比べてかなり強度が増している。


 ただ、それを地面の上で転がしてみると、一部がパラパラと崩れる。

 なお、僕が作った劣化黒曜石の場合は、地面に転がしても崩れることはない。


「ムウッ、やっぱりレギュ兄さんのようにはまだできない」

「ハハハ、頑張って練習を続けようね」


 その後、僕は重力魔法を使うだけでなく、岩を圧縮する際にコツとして土魔法を同時に使用する必要性があることを話す。

 重力という強力な力で圧縮しつつ、土魔法で黒曜石の結晶を作り出していく。

 そうすることでただ固まっただけの丸い石ではなく、劣化黒曜石を作ることができる。


 とはいえ、生後数カ月のリズには、結晶化などの話をしても理解できないようで、

「レギュ兄さんの話はいつも難しい……」

 と言葉と共に表情も難しそうにしていた。。


「結晶については後回しにして、まずは重力魔法と土魔法の二つを同時に使えるように練習していこうか」


 僕の言葉に、リズはコクリと頷く。

 もっとも、同時に二つの魔法を使用するのは結構難易度が高い事だったりする。

 例えれば、耳で聞いた英語を日本語に翻訳して、それを紙に書きだしながら、同時にコンピューターのプログラムをキーボードで打ち込んでいく……。


 全く関係のない作業を同時並行で処理する必要があった。

 人間の場合、この技を習得するには並大抵でない努力と才能が必要になる。

 

 もっとも、僕たちドラゴニュートは生まれたてということもあってか、非常に成長が早い。おまけにリズは、土と重力の属性竜の性質を持っているようだから、この二つの魔法に対する親和性が極度に高かった。


 魔法では、属性に対する親和性が高いほど、その属性の魔法を使いやすくなる。


 なのでリズであれば、人間が覚えるよりも早く、土と重力の魔法を同時に使用できるようになるだろう。




 そんなリズとりやり取りがある一方で、僕らは自宅の快適性の向上に乗り出していた。


 この作業に参加したのは、僕とユウ。そしてなぜかミカちゃんまで加わった。


「うおおお、PCじゃ、ネットじゃ、VRマシーンじゃー」

「ミカちゃん、それ全部無理だから」

「VRマシーンって、僕の世界にはなかったんだけど」


 元日本人らしく、自宅の快適さ追求には余念がないというべきか。

 ミカちゃんが無駄に興奮している。


 ただ、この石器時代にようやくたどり着いた環境で、現代日本の個室にある道具を再現するなんて不可能だ。

 まあ、言い出したミカちゃんもそのことは分かっているだろうけど。


 それよりもさ、

「ミカちゃん、今あげたものを全部揃えたら、完全に引きこもりだよね」

「ククク、誰も来ない部屋に1人きりになってネットとVRゲーム三昧。飯はいつもマザーが持ってきてくれれば、素晴らしい引きニート生活が……」

「つまりドラゴニートになりたいんだ」


 ――コクリッ

 ドラゴニートミカちゃんが頷いた。



「てかさ、今の俺たちって実質毎日家の中にいるだけで、飯はマザーが持ってきてくれるもんな。だったらレギュレギュもユウも、俺たち兄弟全員ドラゴニートだろう」

「……ヴッ」


 まさか、よりにもよってミカちゃんに、そのことを指摘されてしまうとは……。


 僕は言葉に詰まってしまう。


「僕たちって、この世界では一応生まれてから半年も経ってませんからね」

「だ、だよなー」

 ユウのフォローに、僕も何とか追従。

 ここでミカちゃんに、言い負かされてはならない。


 だけど、ミカちゃんがなぜか勝ち誇った笑みを浮かべる。


 むかついたので、頭を殴っておいた。


「ギャー、暴力反対ー!」

 頭を押さえて叫ぶミカちゃん。

 拳骨ぐらいじゃ、全く堪えないほど、体が無駄に頑丈だ。


「ああ、兄さんの暴力支配が日々強化されていっている」

 ユウはそんな失礼なことを言うし。


「何を言ってるんだね、ユウ君。この僕が暴力で支配してるわけがないだろう。なっ、お前ら」

「……」


 僕が転生組以外の他の兄弟たちに言葉を向けると、なぜか沈黙があった。


「なっ、お前ら?」

 なので再度問う。


「う、うん、レギュ兄さん」とレオン。

「はい」と、フレイア。

「その通りです、レギュ兄さん」と、リズ。

「GYOー」と、ドラドも賛意を示してくれた。


 でも、なぜか全員ビクついてないか?

 俺は野蛮人ミカちゃん以外に、拳を振り下ろしたことはないけど、なぜだろう?


 むしろミカちゃんの方が、兄弟たちにいつも噛みついたり襲い掛かったりしてるんだけど。




 なのに、どうして僕の方が怖がられてしまうんだ?

 ま、大した問題じゃないからいいか。



「それで、内装に関してだけど……」

「これを壁に掛けようぜ」


 殴られたことなんて全くなかった。

 ミカちゃんが目をキラキラさせながら、手に持っているものを見せてきた。


 復活が早いなんて次元じゃないぞ!


 そんなミカちゃんの手には、頭の両端に鋭い角が二本生えている、牛の顔をした化け物の頭があった。

 この頭だけど、マザーがいつも運んでくる御飯(肉)で、運ばれてきたときには頭だけでなく、その下に人間の姿をした胴体がついていた。

 ミノタウロスという奴だ。


 なお、その時のミノタウロスはマザーの口の中でミンチ肉に変えられた後、僕たち兄弟がおいしくいただいておきました。

 体が人間だからって、そんなことちっとも気にしなかったよ。

 今まで、散々いろんな謎肉を僕たちは食べてきたからね。



 でも、あの時頭も一緒に食べたと思っていたけど、ミカちゃんはいつの間に頭だけ隠し持ってたんだ?



「これ、飾りたいの?」

「それに3日ぐらい前の飯だったから、腐ってるんじゃないか?」

 ミノタウロスの頭を持ち出したミカちゃんに、ユウは引き気味。

 僕は現実的な突っ込みをする。


 だって、保存も何もなしで3日も放置してた頭って、普通腐りだしてて臭いよ。ハエが集るよ。


「いいじゃんか。こういうのって金持ちの家には飾ってるだろう。憧れってやつだよ」

「あれは鹿とか熊の頭だろ。……日本にいた時の我が家にも飾ってはいたけどさ」

「……チクショウ。レギュレギュが日本人だった時が金持ち過ぎてムカつく」


 僕がちょっと日本人だった時の事を思い出したら、ミカちゃんが拗ねてしまった。

 僕は元複数の企業の経営主ですが、それがどうかしましたな?


「金持ちなんてくたばっちまえー」

「はいはい」


 ――ビビビビビンタ!!!


 その後ミカちゃんが泣きながら僕に噛みついて来ようとしたので、連続尻尾ビンタを顔面に200発ほどぶちかましておいた。


「ヒデブー」

 バタリと倒れるミカちゃん。


「南無南無、もう蘇るんじゃないぞ」

「ウガー、死んでないわー!」


 はやっ、もう復活しやがった!


 ――カタカタカタカタカタカタカッ

 なんて僕らがじゃれ合ってたら、笑われた。


 何に笑われたのかだって?

 ミカちゃんが持ってきて、現在床に転がってるミノタウロスの頭だよ。


「……キモッ」

「なんで動いてるんだよ!」


 既に死んでるはずの頭が、いきなり動き出すってどういうことだ。


 僕はミノタウロスの顔を見て、それから視線をユウの方へ向けた。


「兄さん、どうして僕の方を見るんです?」

「いや、過去に死霊術を暴走させたことのあるユウが、原因でないかと邪推してな」

「僕じゃないですよ」


 ――カタカタカタカタカタカタカタカタッ

 そんな僕たちの前で、またしてもミノタウロスの頭が笑う。


「うおおおーっ、カッチョイイ。これ絶対壁に飾ろうぜ。かっこよすぎだろ!」


 うわっ、こいつマジか。

 趣味悪すぎだろ。


 ミカちゃんが一人勝手に興奮し、僕とユウが互いの顔を見合わせる。


「よーし、これは一番見栄えのいいところに飾るぞー。おーい、レオン。これを壁に飾るから、俺の踏み台になれー」

「分かったー」


 僕とユウをほったらかしにして、ミカちゃんがミノタウロスの頭を飾る気で満々だ。


「ご飯……」

「おやつ……」

 そしてフレイアとリズの2人が、なぜか物欲しそうな目で、ミノタウロスの頭を眺めていた。


 君たち、あの動く頭を食いたいのかね?

 僕としても、腐ってさえなければ非常食にするのにやぶさかでないけど、それでも既にアンデット化してる頭だよ。


 ……こんな事を考える辺り、僕も大概ドラゴニュートの野性的な考えに染まってきたのかな?



「とりあえずユウ、後で魔法の訓練をしとこうか」

「はい」


 あの頭は、ユウの死霊術が暴発してアンデット化してしまったのは確実だった。




 そして後日発覚したことだけど、ユウの近くに屍を長時間おいておくと、死体がアンデット化しやすいことが分かった。


 以前大したことがないように考えていたけど、ユウはドラゴニュートの上に、吸血鬼(ヴァンパイア)の始祖という種族特性を持つ。

 人間にヴァンパイアの始祖としての能力が加われば、非常に強力な個体になるけど、ユウの場合は元がドラゴニュートのところに、ヴァンパイアの始祖としての能力が加わっている。


 人間のヴァンパイアシソに比べて、その潜在的な能力は遥かに高い。

 それ故の、死霊術の暴発だった。



「でも、これがユウでよかった。この能力をミカちゃんが持ってたら、絶対ろくな事しなかっただろうから」

 後になって、僕はそんな風に思ったものだ。


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