268 ゴブリン村包囲戦
これより、頭脳労働者獲得作戦を開始する。
今回の参加兵力は、ダークスケルトン2千体。
これを三等分して3つの部隊を作り、部隊指揮官としてシャドウがそれぞれ指揮を執る。
なお、13魔将はもとより、ダークエルダーリッチのドナンを連れてくると、森が枯れてしまいそうなので、今回あいつらは第二拠点に留まっている。
シャドウにしても、少し考えてしまうけど、こいつらは魔法生物とアンデットの複合生物なので、生粋のアンデットよりは、森に及ぼす悪影響も小さいだろう。
……多分。
さて、最初に僕たちは目的のゴブリンがいるゴブリン村近くまで行くと、村を包囲するようにダークスケルトンたちに包囲網を形成させる。
あとはこの包囲網を縮めながら、ゴブリン村へ向かって前進して行く。
「ギャー」
「グギャー」
「ギャギャー」
村へ辿り着いた時には、ダークスケルトンが盾と武器を構えて、村を完全包囲。
村にいたゴブリンどもが耳障りな声を上げて叫び始めたけど、僕には奴らが何を言ってるのか全く理解できないね。
「うるさい連中ですわ」
「フレイア、炎魔法で消し炭にしないでくれよ」
「わ、分かっていますわ。レギュラスお兄様」
今回は、頭脳労働者の確保が目的。
若干フレイアの目が泳いでいたけど、ここで目的のゴブリンごと村を灰燼に帰されてはたまらない。
フレイアって、キレた時の攻撃力が危なすぎるからね。
破壊力では兄弟随一だし。
それはともかく、ダークスケルトンによって村全体を包囲したので、村の中にいるゴブリンたちは、悲鳴を上げて慌てるばかり。
かと思ったら、一部のゴブリンは統率が取れていた。
「ギャッ」
と、指揮官らしいゴブリンが叫ぶと、それに合わせてゴブリンの一隊がダークスケルトンに襲い掛かっていた。
包囲されているのに攻撃してくるとは、大した度胸だ。
どうもただのゴブリンでなく、その亜種であるゴブリンファイターの一隊らしい。
それがダークスケルトンに、青銅の武器を構えながら攻めかかっていった。
もっとも、所詮は青銅製の武器。
ダークスケルトンたちが装備しているのは、武器も防具も鋼鉄製だ。
その強度は青銅どころか、鉄より遥かに固く頑丈。
ゴブリンファイターのもつ青銅製の武器が叩きつけられるが、それをダークスケルトンが盾で防ぐ。
何度かガンガンと金属が叩き合う音が響くものの、金属の強度としての差から、すぐに青銅製の武器が折れ曲がってしまい、ただの金属塊と化していった。
「ギ、ギャー!」
それを見て、ゴブリンファイターたちが明らかに動揺する。
よほど自分たちの武器に自信を持っていたようだけど、青銅器時代の武器が、鋼鉄に勝てるわけがない。
地球の古代史では、青銅器文明が鉄器文明の前にあっさり敗北してしまったのと同じだ。
青銅ごときでは、鉄よりさらに進んだ存在である鋼鉄に勝つことなど不可能だ。
文明レベルの差こそが、戦力の圧倒的な差なのだよ!
そしてダークスケルトンたちが、ゴブリンファイターの武器をただの青銅の塊にかえてしまうと、その後は盾を突き出して、いわゆるシールドバッシュを繰り出していく。
盾でゴブリンの頭や体を殴りつけ、無力化していく。
さらに槍の石突を使って、倒れたゴブリンファイターの鳩尾を突き、意識を刈り取っていった。
よしよし、いいぞ。
殺してはダメだという命令が、徹底されてるな。
おまけに部隊行動がきちんととれている。
シャドウによる日頃の軍事訓練の成果が出ているな。
「1番隊、ゴブリンファイターの無力化を完了しました」
ほどなくして、ゴブリンファイターは完全に沈黙。
ダークスケルトンを指揮している、シャドウの一体が報告を上げてきた。
1番隊ということは、あれはシャドウ1号だろう。
あいつらって3体いるけど、見た目が全員同じだから、僕にはどれが何号なのか、全く区別がつかないんだよね。
――ビャン、ビュン
あと、報告をしてきたシャドウ1号に魔法が降り注いでいた。
「ギャッ、ギャギャッ!」
ゴブリンファイターに命令を出していた、指揮官格のゴブリン。たぶん魔法を使うことが出来る、ゴブリンメイジなのだろう。
そいつが風属性の、風の刃を放っている。
ただ、ザコモンスターであるゴブリンメイジが放つ魔法では、シャドウにダメージを与えることなど不可能。
「何してるんだ?」
それどころか、ちょっと風が吹いてるな程度の認識で、攻撃されていることにすら気づいてなかった。
シャドウはダークエルダーリッチであるドナンより、戦闘能力がさらに上の存在。
第二拠点では現場監督兼指揮官であるシャドウより、拠点全体の管理者であるドナンの方が"役職"は上だけど、戦闘能力では逆になる。
と言っても実際の会社などでは、「俺は強い、最強だー」なんて筋肉ムキムキのマッチョマン社員がいても、ひょろながでどう見てもひ弱な社長が会社を経営している、なんてことは普通にあるからね。
戦闘能力と会社での"役職"の間には、関係性なんてないのだよ。
まあ、第二拠点が会社なのかと聞かれると、僕としてもちょっと答えに困るけど。
ところで風魔法を使っていたゴブリンメイジだけど、いつの間にか魔法を使うのをやめて、ゼーゼーと荒い息をしていた。
どうやら魔力が枯渇してしまったようで、もう攻撃できなくなったようだ。
僕らドラゴニュート兄弟とは雲泥の差で、最下級の攻撃魔法をちょっと連発しただけで、すぐに息切れだ。
所詮ゴブリンだね。
僕らの感覚だと、ただのゴブリンも、ゴブリンファイターも、ゴブリンメイジも、誤差程度の認識でしかない。
全部、片手でヒョイと捻れる存在だ。
「ギギャー!」
ただ自分の魔法が無力だと分かった後、ゴブリンメイジの奴は、丸々と腹が出っ張ったモンスター、トロールを呼び寄せていた。
ゴブリンが、自分より上位のモンスターを使役しているとは驚きだ。
あのゴブリンは、間違いなく特殊個体。
事前にこの村に所属していたゴブリンをダークスケルトンして情報を聞き出していたけど、そこから察するに、あれがリガルという名のゴブリンだろう。
「おいしそう」
「そうですか?トロールは脂が多すぎるので、少し味がしつこいと思います。それでもゴブリンよりは美味ですね。ジュルルッ」
まあ、トロールを使役しているといっても、やっぱり僕ら兄弟から見るとただのザコ。
僕個人は、ゴブリンが上位個体のトロールを使役していることに驚いたけど、ドラドとリズなんて、食べ物としか認識してないよ。
僕としても、トロールはただのご飯だけどね。
マザーが運んでくるご飯に、たまにあるんだ。
――GUOOONN!
さて、トロールの奴はリガルに命令され、シャドウに向かって無謀にも突進……かと思ったら、その近くにいたクロゴブの奴に、丸太を持ちながら襲い掛かっていた。
「えっ、なんで俺が!ギャアアアー、来るな来るなー!」
どうしてクロゴブに襲い掛かるのかな?
いずれにしても、元ゴブリンにして現ダークオーガへ進化したクロゴブにとって、トロールは格下の相手だ。
勝つことなど容易いだろう。
ただ中身がゴブリンの時の感覚のままなので、トロール相手に滅茶苦茶ビビッていた。
そしてパニックになりながら、金棒を振り回しまくる。
――ゴンゴン、ガンガン、ドガンボガン!
「ヒエエエー」
クロゴブの情けない悲鳴が響きまくるけど、奴が叫ぶたびにトロールに金棒が命中していく。
最初の1発でトロールの顔面が凹み、続く一撃で首の骨がゴキリと音をたてて折れる。その後はトロールの腕が変な方向に曲がり、腰の骨が砕けて倒れ……
おまけにクロゴブのもつ金棒に闇属性の魔力が渦巻いて、魔力を帯びた金棒になっていた。
ダークオーガの能力で、無意識に金棒に闇の魔力を付加したのだろう。
そのせいで本来の金棒以上の攻撃力が宿り、武器としての攻撃能力が上昇していた。
おかげで金棒を振る度に、闇の刃がビュンビャンと飛んでいく。
それが森に生えている木の枝や幹に命中し、一発で切断していく。
――メキメキ、ミシミシ、ズズンッ
闇の刃に切断された後、周辺の木々が音をたてて次々に倒れていった。
たいした戦闘能力だけど、今回は頭脳労働者であるゴブリンを確保しに来たのだ。
闇の刃を放ちまくって、間違って目的のゴブリンを殺してしまったら大変だ!
お前が撃つ刃の一発で、ゴブリンの脆弱な体なんて、纏めて10体や20体くらい、平気で吹っ飛んでいきかねん!
「そこまでにしてもらおうか、クロゴブ!」
「ヒギャッ」
なんてやってたものだから、クロゴブはシャドウ一号に手刀を入れられて、あっさり意識を刈り取られていた。
クロゴブがオーガの亜種であるダークオーガに進化したといっても、所詮はその程度。
フレイアの3分の1の魔力量からできているシャドウの前では、赤子の手をひねる程度の存在でしかなかった。
「ああ、せっかくのトロールがなんてこと。あんなに叩いては、美味しさが減ってしまいます!」
「ねえねえ、せっかくだから、このままミンチにしてハンバークにしない?」
「いいですわね、ハンバーグ」
なお、僕の兄妹たちはご飯の相談中。
リズはせっかくの食材が叩かれまくったことに落胆したけど、レオンがハンバーグを提案すると、フレイアが乗り気になっていた。
食い意地の張りまくったミカちゃんじゃないけど、やっぱり僕たち基準だと、トロールもゴブリンも食い物の認識なんだよねぇー。
まあ、そんなことはあったけど、ゴブリン村で僕らに歯向かってきた連中は、これで鎮圧完了だ。
この後、ゴブリンたちの指揮官であるリガルが逃げようとしたけど、それをシャドウが拳の1発で意識を刈り取る。
これ以外に、村には大勢のゴブリンがいるけど、既に村の周囲は完全にダークスケルトン部隊によって包囲されている。
この包囲網からは蟻一匹抜け出せない……とまでは言わないけど、ゴブリンが逃げ出す隙間なんて、どこにもなくなっていた。
「さて、それじゃあ念願の頭脳労働者であるリゲルくんに会いに行くか」
村の制圧は完了。
ここからが、僕の楽しみにしていた時間だ。
念願の頭脳労働者に対面だね。
フフフ~。
「ユウ兄、ドラドが鉄板もってくるから、ハンバーグ作ろうよ~」
「えっ、ドラド。この状況でハンバーグって……」
「早速トロールを、ミンチにしてしまいましょう」
「ワーイ。ハンバーグだ、ハンバーグ!」
なお僕の後ろでは、兄弟たちがトロールハンバーグに超乗り気になっていた。
まあ、君たちは好きにしてくれていいよ。
僕もリゲルくんとの話し合いが終わったら、トロールハンバーグを食べるからよろしくね。
後書き
ギリギリの戦い?
手に汗握る戦闘?
何言ってるの、今回はダークスケルトンたちが兵士として働く回だよ。
あいつらにも労働者として、きちんと仕事を回してあげないとね。
上に立つ者として、部下に労働を提供するのは義務だから。
(Byレギュラス)




