264 ドラゴニュート兄弟、光物を発見する
「メシ発見、ヒャッホーイ!」
「ワーイ、ご飯ご飯~」
本日は西の森での最後の狩りの日。
明日には第二拠点を経由して家へ帰ろうという中、ミカちゃんが野生児の勘を発揮して、獲物を見つけていた。
森の木々によって視界が遠くまで届かないのに、勘だけで獲物を感知してしまう。
全力で走っていくミカちゃんの後を、レオンも続いていった。
「ご飯って……どこにモンスターがいるんですかね?」
「あれはターザンの仲間だから、匂いで分かるんじゃないか?」
「案外ありそうですね」
視界の範囲にはモンスターの影も形もない。姿の見えない相手を見つけ出せるミカちゃんは、本当に人間やめてるね。
さすがは前世が猿のミカちゃん。
人類だった僕やユウとは大違いだ。
まあ、僕の場合前々世が人類でも、前世はガチの魔王だったけど。
それでも、ミカちゃんに比べればねぇー。
「ギャー」
「グワー」
なんて僕とユウが話していたら、森の奥から哀れな悲鳴が次々に巻き起こった。
ミカちゃんたちによる、犠牲となったモンスターの声だろう。
「あの声はゴブリンです」
「ゴブリンは不味いんですよねぇ」
「残念だねー」
リズが悲鳴の正体を判断すると、フレイアとドラドが明らかにガッカリした。
そうだよね。ゴブリンって骨と皮ばかりで、美味しくないんだよ。
僕たちが狩りに出始めたばかりの頃は、ゴブリンもたくさん狩って食べていたけど、森の中は食材の宝庫。
不味いコブリンに手を出さなくても、もっとおいしい蛇やオオイノシシがいた。
「モガモガ、ウメェー」
「ミカちゃん、ゴブリンってそんなに美味しかったっけ?」
「食えりゃ何でもいいんだよー」
なんて僕たちが話してる間に、狩りを終えたミカちゃんとレオンの話す声が聞こえてきた。
相変わらずミカちゃんって、食い意地が悪いね。
僕らを待たずに、もう食べてるよ。
そんなミカちゃんたちがいる場所へ、僕たち兄弟も移動した。
そうして見つけたのは、ミカちゃんが仕留めたゴブリン。
数は10体ほどだろう。
レオンも氷魔法で戦えるけど、今回のゴブリンは斬撃によって全て仕留められていた。
全てミカちゃんの剣で斬られたようで、レオンが戦闘に参加する前に終わってしまったのだろう。
ただ、いつもであればゴブリンの扱いなんてこんなもの。
あとは適当に肉を剥いで食べ、残った骨をアンデットにしてしまう。
……なのだけど、この日倒したゴブリンはいつもと違っていた。
「まあ、なんてきれいなんでしょう。ウフフフッ、この剣とっても素敵」
ゴブリンの違いに真っ先に反応したのは、フレイアだった。
「ワー、金ぴかの剣。綺麗だねー」
「素晴らしい輝きです」
リズとドラドもゴブリンの死骸の傍に落ちていた、黄金に輝く剣に気づいた。
我が家の兄妹は、ドラゴニュート。
ドラゴンはカラスの親戚なのか、金銀財宝を集める習性があり、僕の兄妹も本能的に光物に吸い寄せられる性質があった。
フレイアはうっとりと、魂を奪われたように黄金の剣を抱きしめ、頬ずりしそうなほどしげしげと黄金の剣を眺める。
剣は1本だけでなく、他にも落ちていたので、
「素敵ーっ」
と、ドラドも別の剣を拾って、尻尾をフリフリして嬉しそうにしていた。
「ふむっ、立派な輝きです」
リズも、光物の剣を真剣に見入っている。
「輝きは大変素晴らしいです。でも、武器としては心もとない強度ですね」
ただリズの場合、光物に憑りつかれた2人と違い、試しに剣で素振りをして、その握り具合を確かめていた。
――ブンブン、ビュンビュン
リズの得物はハルバートだが、ドラゴニュートパワーで振るえば、人間の並の剣士では及びもつかない速度になる。
というか、剣豪と呼ばれる人より、その剣速は早い。
――ボキッ
ただ試し切りのつもりで、近くにあった木に剣を振ったのだろう。
直後木でなく、剣の方が音をたてて折れてしまった。
「……壊れてしまいました」
「ただの拾い物だから、気にしなくていいよ」
折角の剣を壊して、少し気まずそうになるリズ。
尻尾がピクリと震えた後、動きが止まってしまったのがその証だ。
と言っても、ただの拾い物だから、壊しても問題ないね。
しかし僕としては、それ以上に気になることがある。
「まさか、ゴブリンたちが武器を持っているとは。それにこれは鎧か。……出来はそこまでよくないけど、ゴブリンがこれほどの装備をしているなんて、初めて見るね」
そう、装備品だ。
今まで僕たちが狩りで遭遇してきたゴブリンは、どいつもこいつも徒手空拳に、噛みつきや投石だけ。装備品なんて呼べる物を、何一つ持っていなかった。
だが、このゴブリンたちは違う。
こんなものが自然界で勝手に作れる訳がなく、人の手がなければ作れない。
あるいは……
「もしかして、このゴブリンたちが作ったんでしょうか?」
そこで僕と同じ考えを持ったらしく、ユウが尋ねてきた。
人でなければ、これらの装備品を作ったのはゴブリンということになる。
「そうだね。見た目からしてかなり綺麗で、錆も付いていない。これだけ新しいとなると、どこかから奪ってきたものではないね。となると、自前で作ったと考えるのがいいだろう」
「ゴブリンが装備品を作るんですか?」
「そう考えるのが妥当だけど、少し気になるよねぇー」
僕とユウの間で話が進んでいくけど、今までに出会ったゴブリンはどいつもこいつも、まともな脳みそなんてついてなく、「ギャーギャー」喚くしかできない、知性に乏しいモンスターでしかなかった。
「低能のゴブリンが自分たちで武器を作るとか、考えられないよねぇ」
「確かに今までに見てきたゴブリンだと、装備品を作るなんて無理ですよね」
僕とユウの間で、そうやって話がまとまっていく。
だって、あの頭の悪いゴブリンだよ。
こいつらに、金属から武器を作るなんて、まともな知能があるわけない。
「たまにゴブリンの中にも頭のいい特殊個体がいるから、それなのかな?でも、それにしては出来が良すぎる。ユウ、この剣の素材なんて青銅だよ」
僕はリズが壊してしまった、青銅の剣を見せる。
「青銅ですか?でも青銅って、青緑色をしているんじゃないですか?これはどう見ても金ですよ」
「いやいや、青緑色なのは錆びたからで、本来は、金と見間違えるように光り輝いているのが青銅だよ」
「じゃあ、これが青銅の剣ですか」
ゲームなんかだと、"青銅の剣"はちょっとしたお約束武器一つだね。
そんな黄金に輝く剣を、ユウがしげしげと眺める。
「本物の金と違いが分からないですね。そもそも、本物の金なんて見たことないですけど」
「本物の金は、青銅と違ってもっと重いから」
「なるほど」
と、ちょっとした青銅についての講義になる。
「ただ青銅の最大の特徴は、合金ということだね。銅と錫を混ぜないと作れないんだけど、ゴブリン程度の頭しかない生き物が、合金を作ろうなんて考えると思う?例え頭のいい特殊個体だったとしても、そこまでの頭脳はさすがにないよ」
「……」
「もしかするとこの武器を作った奴は、僕たちが思うより、かなり頭がいいかもしれないね」
フフフッ、なんだか僕、楽しみになってきた。
この青銅の剣を作った相手は、少なくとも原始人レベルの知能ではない。
「フフ、フフフフフッ」
「あ、あの兄さん。顔が凄く悪くなってますよ」
「ん、そうかな?まあいいじゃないか。この装備品を作った奴には、ぜひとも会ってみたいね。合金を作る知識があるなら、僕が目指す文明化に、非常に役に立ってくれそうじゃないか。フフフフフッ」
そう、知識だよ。
文明を築くためには、様々な知識が必要になる。
だけど残念なことに、第二拠点にいる僕の部下連中は、そのほとんどが低能なスケルトンばかり。
まともな知能を持った連中が少ないので、ぜひとも部下としてスカウトしたい。
まあ、スカウトというか、無理やり部下になってもらえばいいよね。
「この装備品を作った奴は、ぜひとも確保しなければ」
「ああっ、兄さんが何かとんでもないことを企んでる!」
僕が嬉しくする横で、ユウがなぜか頭を抱えて深刻な顔をしていた。
一体何を悩んでいるんだろうね?
僕でよければ、力になってあげてもいいけど?
フフフのフ~。
ところでそんなユウとは正反対で、底抜けに能天気な奴がいた。
「ハッ、しまった!俺としたことが食べ物に気を取られていた!ここはフレイアたんに貢ぎ物をして、好感度を稼ぐ時じゃないか!フレイアたん、俺からの愛のプレゼントだよ。ぜひこの光り輝く剣を、受け取ってくれぇー」
「ミカちゃん、それはゴミですわ。先っぽが錆びてますわ」
「ぬわんだとー!」
今頃になってミカちゃんがフレイアの気を引こうと、青銅の剣をプレゼントしていたけど、ダメ出しをくらってあっさり撃沈していた。
なお、そんなフレイアは既に青銅の剣を4本も手にしていた。
それにハーハー息を吹きかけて、布で拭いて綺麗にしている。
「ウフ、ウフフフフ~」
ああ、女ってのはこれだから嫌なんだよ。
光物を前にして、完全に魂を奪われてるよ。
「ピカピカー」
「やはり美しいものはいい物です」
フレイアだけでなく、リズとドラドも青銅の剣の輝きに、気を取られてしまっていた。
フレイアほどでないけど、リズとドラドも光物に弱いからね。




